2.「脱水」は発達障害の危険因子

完全母乳にこだわる一部の医師と助産師の多くは出生時からの体重減少が10%を超えても生理的現象と考え、糖水・人工ミルクを飲ませようとしません。しかし、10%以上の体重減少は明らかに水不足による脱水と栄養不足によるものです。生後間もない赤ちゃんが脱水(高Na血症性脱水)に陥ると、発達障害が増える危険性があることが日本小児科学会雑誌(2010)に発表されました。また母乳分泌不足による赤ちゃんの栄養不足は、その後の赤ちゃんの脳の発育に永久的な障害を遺す危険性がある事が指摘されています。しかし、この貴重な情報(学会発表)は国民に公表されていません。母乳分泌に乏しい生後3日間、とくに生後24時間以内の母乳は、初乳が滲む程度で、赤ちゃんが必要とするエネルギー量(基礎代謝量)は全く出ていません。つまり、糖水・人工ミルクを全く飲ませない完全母乳で哺育された赤ちゃんは、生後3日間は飢餓状態(脱水+低栄養)にあり、高Na血症性脱水に陥っていた事になります。尚、新生児学教科書によれば、新生児が必要とする水分量は1日に130ml〜150ml/kgとされています。つまり、3kgの赤ちゃんは、1日に390ml〜450mlの水分摂取が必要ですが、母乳が滲む程度しか出ていない完全母乳の赤ちゃんは、生後3日間はまさに脱水状態に陥っているのです。

3.完全母乳哺育にもinformed consent (告知と同意)をとるべき
赤ちゃんの哺育も医療行為です。医療行為には情報公開とinformed consent (告知と同意)が必要です。WHO/ユニセフの母乳育児を成功させるための第3条では、母乳哺育の“良い点”を教える、とありますが、妊婦に完全母乳をすすめる際は、母乳栄養の“長所”だけでなく“短所”も説明し、母親に選択の機会を与えるべきです。当院では開業(1983年)以来、母親教室で完全母乳の長所と短所を説明していますが、完全母乳の短所を学習された妊婦さんは、誰一人として完全母乳を希望されません。つまり、完全母乳を売りにする「赤ちゃんに優しい病院」では、完全母乳の長所だけを説明し、短所を説明していないと思われます。厚労省・学会は出生直後のカンガルーケアだけでなく、完全母乳・母子同室に対してもinformed consentをとる様に指導すべきです。完全母乳の長所と短所が正しくインフォームド コンセントされたならば、糖水・人工ミルクを飲ませない完全母乳を希望される妊婦さんはおられない筈です。

4.新生児の体重減少について
赤ちゃんの飢餓状態(脱水+栄養不足)の程度を知るには、生下時体重から何%体重が減ったかを調べれば簡単に分かります。体重減少率が10%以上の赤ちゃんは間違いなく脱水症・低栄養に陥っています。その根拠は、出生初日から基礎代謝量に見合うカロリーを人工乳で補った場合の体重減少率は平均−2%で、どんなに体重が低下しても5%以上の体重減少率の赤ちゃんは出ないからです。生後間もない赤ちゃんを低栄養と脱水に陥らせることは、赤ちゃんにとって何のメリットもなく、あるのはデメリットだけです。デメリットの中で最も怖いのが、高Na血症性脱水、低血糖症、低栄養、重症黄疸、頭蓋内出血です。これらは赤ちゃんの脳の発達に永久的な障害を遺す危険性があるからです。福岡市では、発達障害は完全母乳が推進された時期に一致して増え始め、カンガルーケア(早期母子接触)が導入されてからは驚異的な勢いで増えています。完全母乳は、高Na血症性脱水・低血糖症・重症黄疸の危険因子である事がすでに学会誌に報告されていますが、一方、分娩室・母子同室中の寒い部屋でのカンガルーケアはチアノーゼ(低酸素血症)だけでなく、低血糖症も増やす事が分かっています。つまり、発達障害は母乳が満足に出ない生後3日間の栄養不足を基礎代謝量に見合うカロリーを補足したかどうかに大きく影響されるのです。厚労省はカンガルーケア中の心肺停止事故が繰り返され、発達障害が驚異的に増えている事実を知りながら「授乳と離乳の支援ガイド」を見直そうとしません。

5.NICU不足を加速する完全母乳とカンガルーケア(早期母子接触)
日本では厚労省が1993年から完全母乳哺育を積極的に推進したため、糖水や人工ミルクを飲ませない完全母乳哺育が当然の様になりました。生後間もない赤ちゃんが飢餓(脱水+低栄養)に陥ると、体温調節の異常、水・電解質の異状、高Na血症性脱水、低血糖症,重症黄疸などの病気(適応障害)が増え、赤ちゃんはNICUに搬送されNICU不足を招く要因となっています。日本では出生数が減ったにも関わらずNICU不足が改善しない理由は、完全母乳とカンガルーケアで低血糖症・重症黄疸・脱水・頭蓋内出血などでNICUに入院する赤ちゃんが増えたからです。出生直後の体温管理(保温)を行い、生後3日間の栄養不足を改善したならば、NICUに入院する赤ちゃんは減り、NICU不足は改善する筈です。NICU不足対策は、NICUのベッド数を増やすことではなく、NICUに入院する赤ちゃんを減らすことではないでしょうか。

6.「3日分の水筒と弁当」説に、科学的根拠なし!
日本の助産師は、赤ちゃんは「3日分の水筒と弁当」を持って生れてくるから、母乳が出なくても大丈夫、糖水・人工ミルクを補足する必要が無いと指導してきました。しかし、赤ちゃんは3日分の水筒と弁当を、どこにも持ち合わせていません。この事は、「母乳育児を成功させるための10か条」の解釈について、と題して、仲井宏充医師(佐賀県伊万里保健福祉事務所)が保健医療科学誌vol.58 (2009年)に論文を発表されています。
産科入院中の正常の赤ちゃんの栄養管理は産科医ではなく、科学的根拠のない「3日分の水筒と弁当」説を刷り込まれた助産師が担当します。生後3日間、体重が極度に減少し飢餓状態に陥っても、助産師は「3日分の水筒と弁当」説を引用し、糖水・人工乳を赤ちゃんに飲ませてくれません。これから出産される妊婦さんは、赤ちゃんを脱水・栄養不足(飢餓)から守るために、赤ちゃんの栄養状態、とくに10%以上の体重減少に注意されてください。日本には、低開発国と違って安全(無菌)な水と人工ミルクは沢山有ります。母乳が出始めるまでの生後数日間だけでも赤ちゃんを脱水(水不足)と飢餓(低血糖症)から守ってあげましょう。厚労省は、−15%までの体重減少を、科学的根拠もなく生理的体重減少とする助産師教育の見直しを直ちに行うべきです。厚労省が母乳促進運動を積極的に推進して以来、日本で生れ完全母乳で育った多くの赤ちゃんは3日分の水筒と弁当説の犠牲となり、飢餓(脱水+低栄養)に陥り、飢えと闘っているのです。

2014年3月19日
久保田史郎