帝王切開の赤ちゃんに発達障害児が多い理由は、低血糖症!
平成28年1月3日
久保田史郎


Anestation.com
国立大学法人 旭川医科大学 麻酔科蘇生科講座
北の大地北海道・旭川から、全ての麻酔科医・医師のために
執筆 : ishiyamae 2013-1-20 10:48

帝王切開後の新生児の血糖値におけるブドウ糖含有輸液の影響について  
2013年1月18日

●妊娠中、胎児は母体のブドウ糖を胎盤から供給され、母体の血糖値の70〜80%を維持している。出生後、新生児は母体からのブドウ糖供給が途絶するため、自分の体に蓄積したブドウ糖をエネルギー源として血糖値を維持する。
ブドウ糖は胎盤を通して促進拡散輸送により母体‐胎児間を通過するが、相関係数が高いため、通過できるブドウ糖量は無制限である。通常、母体と胎児の血糖値の差は20mg/dl以内であるが、仮に母体に対して急速にブドウ糖含有の輸液を投与された場合、臍帯血の血糖値は300mg/dl以上になると報告されている。(Effect of sustained maternal hyperglycemia in normal and diabetic pregnancies. Br Med J.1972;1:466?9.)

●母体血糖値は上昇⇒胎児の血糖値上昇+インスリン分泌促進⇒出生後低血糖になる可能性がある。
母体への輸液は糖質を制限すべきである⇒糖質の許容範囲は20g/時間が上限(TobinJ. et al., 1979 ; Beard R. et al., 1971;GrylackL. J. et. al., 1984)
それ以上の糖負荷では新生児に低血糖を招くとされ、5%ブドウ糖液では400mlまで(MendiolaJ.etal., 1982 ; Ramanathan S. et al., 1984)、500mlまでにとどめたほうがよい(JawalekarS.etal.,1980) などと言われている。

■帝王切開後の新生児の血糖値におけるブドウ糖含有輸液の影響
The effect of intravenous glucose solutions on neonatal blood glucose levels after cesarean delivery  
Journal of Anesthesia published online:11 November 2012

1.背景
帝王切開を受ける妊婦は、母体や胎児のエネルギー供給目的にブドウ糖含有輸液が投与されていることが多い。術前からのブドウ糖含有輸液の負荷は、胎児の高血糖または低血糖の原因となる可能性がある。麻酔導入はしばしば突然の低血圧を引き起こし、母体と胎児の両方に害を及ぼす可能性がある。低血圧に対し輸液の急速投与が行われる。使用される輸液剤によっては急速輸液により母体と胎児の高血糖を引き起こし、最終的には新生児の低血糖を招く恐れがある。
一般に母体の血糖値:40mg/dl以下、胎児の血糖値:30mg/dl以下で低血糖状態と診断され、神経生理学の研究で、新生児の血糖値が48mg/dl以下の場合、発達障害の原因となるという診断基準が以前に言及されている。(The investigation and management of neonatal hypoglycaemia. Semin Fetal Neonatal Med. 2005;10:351?61.)⇒低血糖は出来るだけ避けたい。

2.研究目的
過去に帝王切開中のブドウ糖含有輸液の負荷の影響について検討された十分な研究は報告されていない。母体と胎児の両方に適正な血糖値を維持するための最適なブドウ糖含有輸液の濃度はまだ確立されていない。今回、帝王切開中の輸液における適切なブドウ糖濃度を調べるため、0%・1%・5%のブドウ糖含有酢酸リンゲル液が母体・臍帯血の血糖値に及ぼす影響を比較した。

3.対象 選択的帝王切開施行予定の妊婦45人;妊娠糖尿病患者、糖尿病合併妊娠患者、切迫早産といった合併症のためブドウ糖含有輸液投与が必要な患者は除外

■45人の被験者は15人ずつ、3つのグループに分類
GroupT: 0%ブドウ糖含有酢酸リンゲル液 500ml投与群(n=15)
GroupU: 1%ブドウ糖含有酢酸リンゲル液 500ml投与群(n=15)
GroupV: 5%ブドウ糖含有酢酸リンゲル液 500ml投与群(n=15)

全ての被験者は帝王切開施行前日21時より絶食後、前腕より末梢静脈路を確保され、翌日の入室まで1000-1500mlの0%ブドウ糖含有酢酸リンゲル液を投与した。
各群、入室後〜分娩までにそれぞれ0%・1%・5%のブドウ糖含有酢酸リンゲル液を500ml投与した。出生後8時間までの新生児の血糖値測定,50mg/dl以下の場合はブドウ糖投与を施行。

4.結果
被験者について、年齢・妊娠週数・麻酔時間に有意差があった一方、身長・体重・オキシトシン投与量・出血量に有意差は認めなかった。

●ブドウ糖含有リンゲル液投与前・後の母体の血糖値は
GroupT(0%)で 79.2±12.2 ⇒ 74.6±4.6mg/dl
GroupU(1%)で 81.2±12.9 ⇒ 103.3±11.2mg/dl(p<0.001)
GroupV(5%)で 82.3±8.7 ⇒  252.5±41.8mg/dl(p<0.001)
●分娩直後の臍帯血の血糖値は
GroupT(0%)で 53.9±10.2mg/dl
GroupU(1%)で 80.8±13.7mg/dl
GroupV(5%)で 181.8±22.2mg/dl
●出生後8時間までに測定された新生児の最低血糖値
GroupT(0%)で 35.7±9.6mg/dl
GroupU(1%)で 49.8±10.8 mg/dl
GroupV(5%)で 29.2±7.5 mg/dl
出生後8時間までに測定された最低血糖値が50mg/dl以下の場合、新生児低血糖と診断しブドウ糖投与の治療を行うこととしたが、ブドウ糖投与を必要とした新生児は、Group1の新生児で 6 人、GroupUで3 人、GroupVで 9 人であった。GroupU(1%)では新生児低血糖が少ない傾向を示す結果となった。

5.考察
母体側から考えると母体の空腹時血糖値はGroupT・U・Vでそれぞれ79.2±12.2 ・ 81.2±12.9 ・ 82.3±8.7mg/dlと前日よりの絶食により異常値ではないが若干低めであり、ある程度の糖質を添加することは円滑な糖・脂質代謝の維持の上でも重要であると考えられた。しかしながらGroupV(5%)の投与後血糖値は252.5±41.8mg/dlまで上昇しており、一過性ではあるにせよ120mg/dl以下に保つべきで、入室〜分娩までの糖25g負荷でこのような状態が起こり得ることが確かめられた。

今回の研究では、Group・Vの新生児がブドウ糖投与といった治療を受ける割合が高かった。ブドウ糖25gを負荷された母体は高血糖となり、その後胎児に高インスリン血症が起こったと考えられる。妊娠末期の平均インスリン量は5μU/mlであり、その量は母体へのブドウ糖負荷や胎児のストレスを原因とする胎児の血糖値上昇に伴い、増加する。胎児の血糖値とインスリン量は正の相関を持っているため、分娩時に臍帯を結紮すると、胎児の高インスリン血症に対し、グルコース供給が突然終了するため、重篤な低血糖を引き起こす。

【結論】
帝王切開の際に1%ブドウと含有輸液(500ml)を使用することは、新生児の血糖値を適正に保つためには合理的な方法だと考えられる。

国立大学法人 旭川医科大学 麻酔科蘇生科講座
北の大地北海道・旭川から、全ての麻酔科医・医師のために
執筆 : ishiyamae 2013-1-20 10:48より引用