低血糖症は発達障害(自閉症)の危険因子

早期新生児の低血糖症が恐い理由は、痙攣など低血糖の症状に乏しく、見えない所(血管の中)で低血糖が静かに進行し、脳神経の発達に永久的な障害を与える危険性がある事です。授乳によっていずれ低血糖は正常に回復したとしても、障害を受けた神経細胞の完全な回復は望めないからです。


上図は新生児の体温調節に関する研究を始めた時期(1981年)に、偶然にも出会った低血糖症の一例です。母親に糖尿病などの合併症もなく、児は3036gの正常満期産児で、分娩中・分娩直後の低酸素血症もありませんでした。児は通常の室温(24〜26℃)で管理し、分娩直後から中枢/末梢深部体温と心拍数を同時にモニターしました。この症例の異状所見は、生後2〜6時間目に中枢深部体温と末梢深部体温が並行して下降している事です。生後4時間目に中枢深部体温が36℃以下に下降し続けているにもかかわらず、放熱抑制と産熱亢進のための体温調節機構が全く作動していません。心拍はサイレント(平坦)であり、啼泣・体動もない静かな状態が持続しています。この体温変動の特徴は、中枢神経を欠いた無脳児の体温の変動と似ていることです。体温の異常に気づき血糖値を測定すると8mg/dlと極めて重度の低血糖症でした。速やかな治療(糖水の経口摂取と保育器内収容)により児は後遺症を残すこともなく回復しました。この症例から学んだことは、新生児が重度の低血糖症に陥ると、体温や呼吸循環などの生命維持を司る自律神経機能が全く作動しないことが分ったことです。体温の測定中でなければ異常(低血糖症)に気付かず、脳に重篤な後遺症を残した可能性が高い症例です。 
低血糖による発達障害を防ぐには、低血糖の早期診断、早期治療は勿論の事、それ以上に低血糖にならない様に保育管理をすることがいかに大事かを教えられた貴重な症例です。当院が出生直後の体温管理(保温)と生後一時間目からの超早期混合栄養法にこだわる理由は、この低血糖症の一例に遭遇したからです。