乳幼児突然死症候群(SIDS) 着せすぎに注意を
赤ちゃんが睡眠中に急死してしまう「乳幼児突然死症候群(SIDS)」。家族を深い悲嘆に突き落とすこのSIDSは、晩秋から冬にかけて増えるとされる。今月はその防止月間。「うつぶせ寝をさせないように」などの注意を呼びかけているが、近年、「着せすぎ」による放熱障害も要因の一つでは」と注目されている。この視点から研究してきた久保田産婦人科医院(福岡市)の久保田史郎院長に聞いた。
■風呂場での出来事
「三年前の暮れ、生後3週目の赤ちゃんの呼吸が止まったという親からの緊迫した電話がきっかけでした」。SIDSと高温環境の関係について研究し始めた経緯を久保田さんはこう語る。
 その日、外は雪。風邪をひかせないようにと、親が赤ちゃんを少し熱めの風呂に入れていて、急にぐったりしたという。幸い、冷たい外気に触れたとたん、元気よく泣き出して命が助かった。
 欧米のSIDSに関する研究文献の中に、SIDSで亡くなった赤ちゃんは「衣類(帽子・手袋・靴下など)、布団の着せすぎの子に多い」「亡くなって時間が経っているのに体温が高い子が多い」「汗をかいている」などの疫学調査があり、久保田さんはその点に注目したという。
 出産直後の赤ちゃんが皮膚に寒さを感じて元気に産声を上げる理由について、久保田さんは次のように説明する。
「それは、呼吸の開始とともに体温を保つ上で重要な役割を果たしています。全身の筋肉を緊張させる”泣く”という行動で熱を作り出し、母親の身体の外に出てからも低体温にならないように体温を調整しているのです」
 では、周囲の温度が高くなったとき、赤ちゃんはどうなるのだろうか。
 「皮膚表面の血液の温度が上がり、頭や心臓などの身体の中枢部の温度と手足など末梢部の温度が等しくなった状態では赤ちゃんは眠りやすく、脳から出て心臓や呼吸筋を動かす刺激物質の分泌が減少してしまうのです」
 熱めの風呂で赤ちゃんの呼吸が危うく止まりかけたのも、身体のそのような働きによるものと久保田さんは考えている。
■低酸素状態招く
 赤ちゃんは一般に「寒さに弱い」と思われがちだが、久保田さんは「赤ちゃんはむしろ暑さに弱いことを知って欲しい」と強調する。そして、SIDSの新しい仮説として次のように語る。
「着せすぎや高温環境によって体温が高くなり、うつ熱状態になった赤ちゃんは体温をそれ以上高くしないために、筋肉を弛緩させ、汗をかき、静かに眠り続けます。その結果、呼吸が抑制され、血液中の酸素量が少なくなる低酸素血症という事態を招いてしまいます。
「そして寝返りも暖かすぎる布団の中から逃げ出すこともできない赤ちゃんは、寒さによる刺激がないために深い眠りから覚めず、低酸素血症が更に進んで命が脅かされてしまうのです」
 十年ほど前から欧米で始まった「うつぶせ寝をやめよう」運動が世界各地に広まり、SIDSによる死亡は大幅に減った。うつぶせ寝がSIDSを引き起こす原因について久保田さんは、寝具などによる窒息より、腹部からの放熱が妨げられて体温が高い状態が続くため、とみている。
 「着せ過ぎ説」はまだ広く定着した説ではないとしても、SIDSの原因を考える上で専門家の間でも次第に認識されつつある。これから寒さが増す時期だけに、気をつけたいことだ、 久保田さんは、HPでもSIDSについて解説している。