第8回SIDS学会(2002年2月23日)  - 大阪 -
SIDSの原因は放熱障害か?ー新生児の体温調節と睡眠/呼吸/循環機能からー
久保田史郎1)、佐野正敏1)、中野仁雄2)
1)久保田産婦人科医院
2)九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学
抄録
 あお向け寝運動によりSIDSの発症が大幅に減少したがその機序は不明である。われわれは新生児の中枢および末梢の深部体温と環境温度の同時連続測定により、うつ伏せ寝の児は放熱障害を起こしやすいこと、また児の体温調節と呼吸/循環機能が密接に関わっていることを明らかにした。[方法] 深部体温計(テルモ社PD-3)を用い、正常新生児の前胸部(中枢深部体温;C-DBP)と足底部(末梢深部体温;P-DBP)で連続測定した。また同時に、児の心拍数と経皮的酸素分圧(TcPO2)の測定と行動の観察も行った。[結果] ・P-DBTの上昇時(=末梢血管拡張時)には心拍変動が減少し睡眠と筋弛緩がもたらされた、P-DBTの下降時(=末梢血管収縮時)には心拍変動が増加し覚醒と啼泣や筋緊張がもたらされた。・あお向け寝からうつ伏せ寝への体位変換では、C-DBTは変動せずP-DBTの著明な上昇が見られた。・高温環境では児の心拍変動の低下とTcPO2の低下と筋緊張低下が、低温環境では心拍変動の増加とTcPO2の上昇と筋緊張亢進が見られた。[考察] 児は暑い時は末梢血管拡張により放熱を増加させるが、その際は交感神経系や骨格筋への刺激は減少し睡眠がもたらされる。寒い時は末梢血管を収縮させ放熱を減少させるが、その際は交感神経系や骨格筋への刺激が亢進するとともに覚醒が生じる。しかし持続的に保温されると、児は中枢温上昇を防ぐため交感神経系や骨格筋への刺激を減少させ続けかつ睡眠状態も持続させる。その結果、放熱障害時は通常の睡眠時とは異なった深い睡眠が持続し、過度の筋弛緩によって呼吸機能が低下しても交感神経系は刺激されずサイレントのまま持続し、低酸素血症は更に悪化する。うつ伏せ寝では児は放熱効率が高い腹部からの放熱が障害され暖められやすくなる。あお向け寝運動の推進でSIDSが減少したのは児の暖め過ぎを予防したからと考えられた。
 わが国のSIDS予防のガイドラインには「暖め過ぎ」に関する項目が含まれていない。厚生労働省の該当ガイドラインおよび母子手帳などに、「SIDSを予防するために赤ちゃんの暖め過ぎに注意する」という項目の追加が望まれる。
[SIDSを予防するための7カ条]
1. 乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防のため、睡眠中の赤ちゃんの暖め過ぎを止めましょう。
2. 睡眠中の赤ちゃんの手足の温度や、汗をかいていないかに、 注意しましょう。
3. うつ伏せ寝は赤ちゃんの放熱を妨げるので注意しましょう。
4. 睡眠中の、赤ちゃんの帽子、靴下、足付きロンパース、着せ過ぎ、毛布、羽毛布団などは、赤ちゃんの放熱を妨げるので注意しましょう。
5. 睡眠中の赤ちゃんの衣類は吸湿性のよいものを使い、敷き布 団は硬めにし、シーツや掛け布団も吸湿性の良いものにしましょう。(シーツの下の防水マットは危険です)
6. ストーブのそばやホットカーペットの上に寝かせるのは危険 です。
7. 熱めのミルク(人工乳)は赤ちゃんの体温が上昇するので、 注意しましょう。