2003年(平成15年) 11月8日 土曜日  朝日新聞発行  掲載記事
妊婦水泳 安産に効果
胎児も母体もプカプカ気分
 福岡市中央区平尾2丁目の久保田産婦人科医院(久保田史郎院長)が妊婦水泳を採り入れて20年になる。全国でも先駆的な取り組みで、この間、出産した人の約8割にあたる約3500人が参加。重い妊娠中毒症などにはひとりもかかっていないという。運動不足の解消のつもりが、予想を超える効果を上げ、今では胎児や母体を守る大切な方法として位置づけられている。
 福岡市城南区鳥飼4丁目の福岡スイミングクラブ。
 おなかの大きな女性たちが水着に身を包み、ゆっくりと水の中で歩を進める。25メートルのコースを静かに歩く12人は血圧が高かったり、おなかが張ったりする妊婦だ。
 隣では、24人が音楽に合わせて手足や腰を動かしながら、水中エアロビクス。笑顔がこぼれ、笑い声もあがる。こちらはおなかの張りなどを訴えていないグループだ。
 毎日、昼過ぎから1時間、体調に応じたプログラムでプールに入る。
 久保田院長(58)が福岡スイミングの協力を得て、妊婦水泳を採り入れたのは83年。日本で妊婦水泳が始まって間もないころだった。
 運動不足になりがちな妊婦の肥満予防策だったが、お産が軽く、一般に1割ほどがなる妊娠中毒症や、200〜300人に1人とされる胎盤早期剥離(はくり)も全く出なかった。89年から94年に医院で出産した妊婦水泳参加者の帝王切開率は3・7%。全国平均の3分の1程度にとどまった。
 ただ、これまでは血圧などに問題がなく、かつ泳げる人に限られていた。血圧が高い妊娠中毒症の場合、泳ぐと脈拍が上がり、さらに血圧が高くなってしまうため、水泳はタブーとされている。
 そこで、今年2月から水中散歩を始めた。
 水中散歩は(1)利尿効果にすぐれ、むくみの予防と治療になる(2)末梢(まっしょう)血管を広げ、血行をよくする(3)体の緊張を和らげ、腰痛の治療に効果的――など多くの利点が見込まれている。また、浮力の影響で逆子を直す効果も期待できるという。
 9月5日に双子を出産した福岡市中央区の松尾明子さん(29)は、2回ほど水中散歩をした後、逆子が直った。「体がもつ間はずっと参加していました。気持ちがいいし、よく尿も出た。水から上がると足腰が立たないほど体が重たい。それぐらい水の中ではスムーズに動けていました」
 つわりで1日5回も吐いていた福馬亜由美さん(24)もプールに来るようになって、吐き気が1日1回程度に収まったという。
 久保田院長は「水中運動は生理学的な作用だけでなく、楽しく、仲間もできるので、精神的なリラックスにもつながる。マタニティーブルーの解消にもなる」と話している。

血流よくなる
 愛育病院(東京)の元院長で産婦人科医の堀口貞夫さんの話
 水の中では、深いところに水圧がかかるため、下半身のうっ血がとれる。比較調査をしないと、中毒症などの治療に効果があると断定はできないが、理論的には血流がよくなり、尿が出てむくみがとれる。ウオーキングなら泳げない人でもできるし、第2の心臓といわれるふくらはぎを動かすことにもなる。そのうえ、ひざや腰に負担をかけないですむ。
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