2002年(平成14年) 4月1日 月曜日  朝日新聞西部本社発行 夕刊 掲載記事
突然死 赤ちゃん厚着 ご用心
福岡市の医師発表へ 体温上昇が関係?
 赤ちゃんが眠っている間に急死する乳幼児突然死症候群(SIDS)が起こる要因に、熱が体の外に放出されずに体温が上がる事が関係しているとする研究結果を、福岡市の産婦人科医院院長の久保田史郎医師(57)がまとめた。「温めすぎ」は厚生労働省がSIDSの危険因子として挙げるうつぶせ寝、人工乳、喫煙の3項目には入っていないが、同医師は「赤ちゃんの着せすぎ、温めすぎに注意するべきだ」と説く。研究結果は、今月13,14日に同市で開かれる日本赤ちゃん学会で発表される。
 SIDSでは毎年、400人前後の赤ちゃんが国内で亡くなっている。赤ちゃんが深い眠りに入り、何らかの理由で、覚醒反応が遅れ、低酸素が進み呼吸が抑制され死亡する、と考えらている。
 久保田医師は、SIDSで死亡した赤ちゃんの疫学調査などで(1)睡眠中の死亡(2)生後4ヶ月をピークに1歳未満が多い(3)夏より冬が多い(4)衣類や布団の着せすぎが多い(5)うつぶせ寝に多い(6)人工乳の赤ちゃんに多い(7)死亡後、時間が経過していても高体温の子供が多い(8)汗をかいていた   などの特長があることから、体温に注目した。
 睡眠中の赤ちゃんは眠りが深くなると筋肉の緊張と交感神経系の応答がともに低下する。その結果、心拍数が減少し、手や足や皮膚の末梢血管が拡張、末梢体温の上昇が起こる。これは熱を放出しようとしている状態だ。
 このときに、布団の中の温度が適切であれば、放熱によって末梢温度が低下。赤ちゃんは逆に寒さを感じて、今度は末梢血管を収縮させ放熱量を減少させる。この末梢体温の上昇と下降を繰り返すことで体温を調節しているという。
 だが、音や振動などの刺激が無い状態で、赤ちゃんの環境温度が高く、体温が低下しない時は、深い眠りにはいる。たくさん衣服を着せた赤ちゃんを室温26℃の新生児室に寝かせると、中枢体温はほぼ一定だったにもかかわらず、衣服内の温度は上昇し、末梢体温も上がり、そのまま高温状態が続いた。
 久保田医師はこの体温の上昇が深い眠りを誘い、SIDSにつながるとみる。「赤ちゃんは自分で『暑い』と言うことも、布団を蹴飛ばすことも、服を脱ぐこともできない。温めすぎは注意した方がいい。特に寒くないのに帽子や靴下をはかせるのはやめたほうがいい」と話している。
外国では危険因子
 筑波大基礎医学系の岡戸信男教授(神経生物学)の話
 呼吸中枢を興奮させる働きのあるセロトニンという脳内物質の活動が悪くなるとSIDSが起こりやすいとみられる。そのセロトニンは体温が上がると活動が悪くなる。そもそも外国ではSIDSの危険因子として「温めすぎ」を挙げているし、米国では「温めすぎ」にさらに注目する動きもある。SIDSを防ぐには、「温めすぎ」に気をつけるべきだ。
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