妊産婦さんが希望する理想の無痛分娩とは
 外科手術における術中・術後の痛みや、癌性疼痛・急性膵炎等の病的な痛みに対しては、100%の鎮痛効果が望まれます。しかし、生理現象である “お産の痛み”の全てをとることは不自然で、母児に危険を伴うもので実際には不可能です。では、お産の痛みをどの程度軽減させることが、 “理想の無痛分娩”なのでしょうか?
 医学的には“お産の痛み”をとることだけが目的でなく、麻酔のもつ鎮痛効果や筋弛緩作用が安産効果として活かされ、しかも子宮収縮等の自然現象を損なわず、母児に対する薬剤の副作用が少ない麻酔法こそが理想と言えます。
 一方、産婦さん側は、自然分娩が可能で、産みの喜びを実感でき、安全で、しかも痛くない楽なお産、すなわち、満足度の高いお産が可能な無痛分娩法を期待されているようです。(当院アンケートより)
 当院の母親教室において麻酔の開始時期に関するアンケート調査を行ったところ、初産婦、経産婦とも9割以上の妊婦さんは、分娩第2期の最も痛いとされる産道と会陰部の麻酔を希望されました。また逆に、分娩第1期の子宮収縮の痛みはむしろ経験したいという意見が多かった事は、どの産科麻酔法を選ぶかにおいて大変貴重な意見でした。
 多くの妊産婦は、子宮収縮の波を産痛として程々に感じることができ、児娩出の瞬間を自分の目で確認し、さらに我が子の元気な産声を聞くことが可能な麻酔法を望んでいるのです。程々の痛覚と視覚・聴覚の面からも、つまり体で出産を実感し、肉体的にも精神的にもより満足度の高い経験を産婦さんが希望されている事を、我々産科医は認識していなければいけないのです。自分で産んだという実感は、産婦のその後の人生において、大きな自信をも産み出しているのですから…。
 私自身、麻酔医としてこれまでに幾つかの無痛分娩法を試みてきましたが、痛みをとることだけに主眼をおいた他の麻酔法と異なるこの陰部神経ブロックは、安産効果を主目的としており、安全性・普及性に加えて産婦の満足度のいずれの面から見ても、今のところ我国の通常のお産においては“理想の無痛分娩”と思われます。