お産と予防医学

 当院は1983年、福岡市にて産婦人科・麻酔科・超音波検査の専門医院として開院し、2004年9月10日に10,000人目の赤ちゃんが誕生しました。
 開業21年、お産の現場で私が学んだ事は、『お産は予防医学がすべて』を再認識したことです。何故ならば、周産期医療の目覚ましい進歩にもかかわらず、我国では発達障害の赤ちゃんが増え続けているからです。

発達障害の危険因子の1つとして知られる重症(核)黄疸は、新生児早期(特に生後3日間)の著しい栄養不足が原因であることが、当院で出生した10,000人の赤ちゃんのデータから明らかになりました。一般に、赤ちゃんは黄疸が出て当たり前(生理的現象)と考えられています。しかし、出生直後の赤ちゃんの低体温の予防と母乳分泌に乏しい生後数日間の栄養不足を糖水や人工ミルクで補うことによって、重症黄疸の赤ちゃんは当院から姿を消したのです。当院で治療(光線療法)を要した重症黄疸の赤ちゃんは僅か9人(10,000人中)で、赤ちゃんへの予防医学の導入は、重症黄疸の発生機序に関するこれまでの医学的常識を覆しました。

発達障害の赤ちゃん(約1/20人)が増え続ける我国の周産期医療おいて、母乳が満足に分泌するまでの栄養不足の期間を、赤ちゃんが障害なく元気に育つ為に必要な最低限のカロリー(基礎代謝量)を他の栄養で補うべきか、それとも母乳促進運動のために生後3日間は母乳以外は飲ませない方が本当に赤ちゃんに優しいのか?・・・どちらの方法が赤ちゃんに安全かを科学的に議論しなければなりません。生後数日間の赤ちゃんの栄養不足を補う当院の哺育法は、重症(核)黄疸を防いだだけでなく、当院で出生した10,000人全ての赤ちゃんを、最も恐い低血糖症や頭蓋内出血(ビタミンK欠乏性出血)による脳障害からも守ってくれたのです。勿論、胎便性イレウス・壊死性腸炎もゼロです。・・・何も訴える事が出来ない赤ちゃんは、新生児医療に予防医学の風が吹くことを我々大人に訴えています。赤ちゃんに予防医学を・・・その言葉は当院で出産した10,000人の赤ちゃんからの熱いメッセージなのです。

久保田史郎
10/16/2004
久保田産婦人科麻酔科医院