乳幼児突然死(SIDS)は、うつ熱時の「産熱抑制」が原因
―着せ過ぎ・暖めすぎに注意―

人間は、命ある限り『熱』を産生し続ける。しかし、何らかの理由で熱産生が減少し続けた時、生命の存続は危ぶまれる。熱産生は主に環境温度や筋肉の運動量に左右される。正常新生児の体温は、寒い時には筋緊張亢進(啼泣)によって熱産生を増すが、暑い時には筋弛緩(睡眠)によって熱産生を低下させる。即ち、産熱量は高温環境下で筋肉を弛緩させ眠っている時が最も少ない。着せ過ぎなどによって衣服内の環境温度が上昇し続けた時、児は体温上昇(うつ熱)を防ぐための体温調節機構(放熱促進/産熱抑制)を作動させる。

うつ熱が危険な理由は、放熱促進(末梢血管拡張=交感神経機能抑制)に加え、産熱抑制を目的とした筋弛緩作用が呼吸運動を抑制し低酸素血症を促進するからである。体温が外部環境に左右された時、自律神経は、呼吸循環調節の安全性より体温を恒常に保つための体温調節の方を優先的に作動させる。そのために生命維持が困難となる。


SIDSは、寒い冬、着せ過ぎ、うつ伏せ寝に多い事が報告されている。SIDSが寒い冬に多い理由は、保温のために睡眠中の乳幼児に帽子・靴下などを着せ過ぎるからである。着せ過ぎ・うつ伏せ寝が危険な理由は、(1)放熱し続ける熱と汗で衣服内を高温多湿環境とし、児の高体温化(うつ熱)を促進する。(2)高温環境下では睡眠に伴う体温下降が生じないため、寒冷刺激を受けない乳幼児は眠りから覚めない(覚醒反応遅延)。(3)乳幼児は、帽子・靴下を自分で脱いだり、暑い布団の中から逃げ出す事が出来ない。(4)大人は、児の衣服内環境温度の上昇に気が付かない。(5)うつ伏せ寝が危険な理由は、うつ熱時の筋弛緩作用が呼吸運動を抑制し、解剖学的に気道閉鎖・窒息を起こし易いからである。


SIDSは病気ではなく、乳幼児が放熱促進と産熱抑制(睡眠+筋弛緩+呼吸運動抑制)を強いられる高温環境(着せ過ぎ⇒放熱障害)に遭遇した時に発生する。SIDSを防ぐためには、睡眠中の「着せ過ぎに注意」の啓蒙活動が最も重要である。
久保田史郎 2007/6/4