[ SIDSの病態を解明する ]
 SIDSの原因はまだ多くの謎に包まれています。うつ伏せ寝などの“危険因子”が発表されて以来、欧米などではその発生頻度は著しく減少したと報告されていますが、我国でも同様に減っているのでしょうか、我国に発表された“危険因子”の中には“赤ちゃんの暖め過ぎ”が含まれていないことに一抹の不安を感じるのです。なぜならば、国内外の疫学調査によるSIDSの特徴は、恒温動物である人間の体温調節機構(産熱機構や放熱機構のいずれか)に何らかの形で関係しているように見受けられるからです。
 これらの特徴の中にSIDSの原因(疫学調査)と結果(剖検所見)が潜んでいると仮定するならば、全ての項目に共通した“体温”こそが本症と最も深い関わりがあるのではないかと考えられるのです。

[ 乳児突然死症候群の特徴 ]
疫学調査
睡眠中の死亡である
年齢 : 生後4ヶ月をピークに1歳未満の児に多い
季節 : 夏より寒い冬に多い
室温が高温環境である
衣類(帽子・手袋・靴下等)、布団の着せ過ぎに多い
うつ伏せ寝に多い
剖検所見
死亡後、時間が経過し散るにもかかわらず高体温の児が多い
発汗が認められる
血液 : 暗赤色流動性、高Na血症
小腸 : 小腸粘膜に熱射病の際に見られるような組織の異常が観察される

今回の研究
 私自身のSIDSとのニアミスと文献的考察から、SIDSが赤ちゃんの異常な体温上昇と関連があるのではないかと考え、赤ちゃんの中枢および末梢深部体温の研究を進めました。その結果、赤ちゃんのうつ伏せ寝がなぜ危険であるかが判明し、赤ちゃんの暖め過ぎ(うつ熱)がSIDSの原因のひとつであることがわかりました。

[ 高体温“うつ熱”はSIDSの危険因子か? ]
 “うつ伏せ寝”や“着せ過ぎ”などの育児環境が赤ちゃんの体温にどのような影響をおよぼすかについて、体温調節機能の面から、いくつか検討を行い、その検討結果を基にSIDSの病因を探ってみました。
 赤ちゃんは環境温度の変化に対して、熱産生および熱放出という二つのバランスを調節することによって体温の恒常性を維持しています。しかし、そのバランス機構が何らかの理由によって正常に作動しなくなった場合は、恒温動物である人間の体温はもちろんのこと生命維持装置にも支障をきたし、最悪の事態を招き得ると考えました。これまで元気であった赤ちゃんが睡眠中になぜ“うつ熱”になるのか、うつ熱でなぜ危険な状態に至るのかについて、産熱機構、放熱機構に焦点をあててSIDSの原因について次のような病態をひとつの仮説として推察しました。