福岡発 お産最前線リポート

Happy Angel vol.7 2004 summer
www.happy-angel.jp
*「水中散歩」が妊娠中毒症の予防・治療に効果
 妊娠中毒症の予防・治療として「水中散歩」が注目を集めている。
なぜ妊娠中毒症に水中散歩が有効なのか、全国に先駆け積極的に実際の治療に取り入れられている福岡市の久保田産婦人科・麻酔科医院を取材した。
*妊婦にやさしい「水中散歩」とは
 妊娠中毒症は、妊娠中に最も注意したい病気のひとつ。妊娠中毒症を患った場合、高血圧、尿タンパク、むくみ(浮腫)がひどくなり、安静と減塩食の指導が通例だが、福岡市の久保田産婦人科・麻酔科医院では「プールに行きましょう」と促すという。プールへ行くといっても泳ぐわけではない。温水プール内をゆっくり歩くだけである。
 久保田史郎院長が、福岡スイミングの協力を得て妊娠中毒症や静脈瘤などの合併症をもった妊婦さんの予防・治療に水中散歩を積極的に始めたのは2003年2月から。妊娠中毒症と診断した妊婦さんを集め、子宮収縮の少ない午前11時から午後2時の間に約1時間、休憩を挟みながら散歩させたところ、予想以上の効果が出たと言う。「妊娠31週の妊娠中毒症の妊婦さんが、148/100mmHgあった血圧が、水中散歩を数回行った後に正常値の110/70mmHgまで低下。浮腫は見事に消失し、中毒症は改善、無事に出産した。その他、水中散歩は浮力の力によって、妊婦子宮(胎児)を頭方へ持ち上げ逆子体操としての働きもある」という。
*水中運動が安全で、妊娠中毒症に効果的な理由
 そもそも21年前にいち早く妊婦水泳を導入。「累計約4000人の参加者に重症妊娠中毒症や胎盤早期剥離が1例もでていない」(同院実績)等、その水中運動の安全性と安産効果を体験していた久保田院長。「しかし血圧の高い妊娠中毒症の場合、泳ぐと脈拍が増え、血圧が高くなるため、妊婦水泳は血圧が正常で泳げる健康な妊婦さんだけが対象だった」。
 そこで注目したのが心臓に負荷が少なく、誰もが実践しやすい水中散歩だった。水中散歩が安全な理由を久保田院長は次のように説明する。
「重力のかかる陸上の運動と違って、水中では浮力・水圧・水の抵抗が妊婦さんを安全に守ってくれる。プール(温水)に入ると浮力が働き体が軽くなる。胸の深さで体重の約3分の1、肩まで浸かると約10分の1の軽さになることが分かっている。だから水中では、腰や膝に負担をかけないで安全に運動ができるのです。陸での散歩と違って水中散歩をした後は「おしっこ」がたくさん出るのが特徴です。これはむくみの予防と治療に効果的です。また温水中での散歩は、滞りがちな末梢血管が広がり血流が良くなる」。つまり、水中散歩が妊娠中毒症に効果的な理由は、「末梢血管拡張作用と利尿作用が、高血圧と浮腫の改善に役立っている」と説明する。
*安産の秘訣、それはベスト・コンディションでお産にのぞむこと
 不規則な生活、食事の乱れなど、現代の便秘や肥満などの生活習慣病と体力不足が安産の弊害になっている。久保田院長は「お産はオリンピックのマラソンと同じ。ベスト・コンディションでお産に臨んでほしい」と力説する。「水中散歩は、安産のために体調を整え、体力をつけるための工夫のひとつ。心肺機能や筋力アップが娩出時のイキミに自信と余裕を持たせ、より自然で楽なお産を可能にするんです」と話す。
 実際の水中散歩を見学した。皆、イキイキとした表情が印象的で、不安のかれらも感じさせない。参加者ひとり近藤絵美さんは「気持ちがいいし、何よりお友達ができて楽しい。毎回、まるで遠足前夜のようにワクワクしてプール日を待っています」と目を輝かせた。「水中散歩」は、妊娠中毒症の予防・治療として生理学的な作用だけでなく、妊婦の精神的なリラックスにも一役買っているようだ。
★「水中散歩」を行なう際は、必ず主治医と相談して進めてください。