重症黄疸がでないのが当院の特徴です。
 『赤ちゃんは黄疸がでて当たり前』、と思っている人が多いようです。しかし、当院では治療(光線療法)を要する重症黄疸の発生頻度は、この20年間(約9000分娩)で8例と信じられないほど少ないのです。 何故、当院では重症黄疸が発症しないのでしょう!
 その秘密は、出生直後の赤ちゃんの体温管理にあったのです。子宮内(38℃)から分娩室(25℃)へと急激な環境温度の低下に遭遇した赤ちゃんは、生後1時間以内に約2〜3℃の体温低下を余儀なくされます。この体温下降から身を守るために、児は末梢血管を収縮させ放熱を防ぎ、さらに啼泣(筋肉運動)によって熱産生を促進し体温調節を行っています。赤ちゃんの低体温は、手足の血管のみならず消化管の血管をも収縮させ、血流量を減少させていたのです。つまり、消化管の持続的な血流量減少が腸管の蠕動運動に支障をきたし、初期嘔吐や胎便排出遅延などの主原因となっていたのです。
 出生当日の赤ちゃんにミルクや糖水を飲ませると、しばしば嘔吐します。その現象を生理的初期嘔吐と呼び、『赤ちゃんが吐くのは当たり前』と考えられていました。しかし、分娩直後の児の体温下降をより少なくする体温管理(保温)によって、当たり前と考えられていた初期嘔吐が姿を消したのです。その結果、生後1時間目からの早期栄養が可能になったことで、赤ちゃんの栄養不足が改善され、同時に、胎便排出が促進したことによって重症黄疸が出なくなったのです。
 赤ちゃんが栄養不足(飢餓)になると赤血球が壊れ易くなり、ビリルビン(黄疸のもと)が血中に増えます。そのビリルビンは胎便中にも沢山含まれています。重症黄疸を防ぐためには、■新生児早期の栄養不足を改善すること、■胎便が早く出るような保育管理をしてあげること、が新生児管理の重要なポイントなのです。
 しかし、我国の保育管理法は、施設(産院)によって全く異なります。特に、栄養法の違い、つまり完全母乳哺育か否かによって、重症黄疸の赤ちゃんが多く出る施設、少ない施設があるのです。その理由は、出生初日から特に3日間は母乳分泌が充分でないため、糖水や人工ミルクを与えない完全母乳哺育法では殆どの場合、赤ちゃんは栄養不足の状態にあるからです。重症黄疸がでて治療(光線療法)をする管理法が、赤ちゃんに優しいのか? それとも、重症黄疸が出ないような管理をした方が、赤ちゃんに優しいのか? 発達障害児が増えつつある我国では、どちらの管理法を選ぶべきか、その答えは明らかです。
 黄疸が出て当たり前、初期嘔吐も当たり前、体重が減り過ぎても当たり前、これらの『当たり前』という昔からの言い伝えが、今日の新生児医療の進歩を妨げ、赤ちゃんの病気をつくり出す要因となっているのではないでしょうか!
当院の新生児管理の特徴は、生後数日間の栄養不足によって引き起こされる、重症黄疸・低血糖症・新生児出血症などの病気にならない様に、予防医学に最善の努力をしていることです。
久保田史郎
8/10/2003