当院の新生児管理の特徴
― 当院では重症黄疸の赤ちゃんが少ない ―
 発達障害の危険因子の1つとして知られる重症(核)黄疸は、新生児早期(特に生後3日間)の著しい栄養不足が原因であることが、当院で出生した10,000人の赤ちゃんのデータから明らかになりました。一般に、赤ちゃんは黄疸が出て当たり前(生理的現象)と考えられています。しかし、出生直後の赤ちゃんの低体温の予防と母乳分泌に乏しい生後数日間の栄養不足を糖水や人工ミルクで補うことによって、重症黄疸の赤ちゃんは当院から姿を消したのです。当院で治療(光線療法)を要した重症黄疸の赤ちゃんは僅か9人(10,000人中)で、赤ちゃんへの予防医学の導入は、重症黄疸の発生機序に関するこれまでの医学的常識を覆したのです

■出生直後の赤ちゃんに体温管理(保温)が必要な理由

 子宮内(38℃)から分娩室(25℃)へと急激な環境温度の低下に出会った赤ちゃんは、生後1時間以内に約2〜3℃の体温下降を強いられます。冷えきった赤ちゃんは放熱を防ぐために末梢血管を収縮します。この時、赤ちゃんは手足のみならず消化管の血管までも収縮していたのです。その消化管の持続的な血流量減少は腸管の蠕動運動を低下させ、生理的現象と考えられている初期嘔吐や胎便排出遅延などを引き起こす原因を作り出していたのです。
 早期新生児の体温下降を防ぎ、「恒温状態」に早く安定させる為の暖かい(保育器内収容)環境を準備することによって、(1)初期嘔吐の激減、(2)吸啜反射(食欲)の亢進、(3)生後1時間目からの超早期経口栄養法の確立、(4)胎便排出の促進など、・・・当院の赤ちゃんはこれらの消化管機能を著しく改善し重症黄疸を防いでいるのです。


■当院の赤ちゃんに重症黄疸が殆ど見られなくなった理由

 生後1時間目からの超早期経口栄養法の確立によって、●特に、生後3日間の赤ちゃんの栄養不足が改善されたこと、●胎便排出が促進されたこと、の2点が挙げられます。その理由は、赤ちゃんが栄養不足(飢餓)になると赤血球が壊れ易くなり、黄疸のもとであるビリルビンが血中に増加し 高ビリルビン血症(重症黄疸)になり易いことが分かっているからです。また、そのビリルビンは胎便中にも沢山含まれており、胎便排出が遅れた場合は胎便中のビリルビンが血中に再吸収されるのです。当院の赤ちゃんに重症黄疸が少ない理由は、出生初日から栄養十分で、しかも胎便は24時間以内に出てしまうからです。

■重症黄疸を防ぐためのポイント

 母乳が満足に分泌するまでの生後数日間、赤ちゃんの栄養不足に気を付けることです。特に、生後3日間は栄養不足に要注意です。、初産婦の場合、母乳分泌はごく僅かで、赤ちゃんが障害なく健康に生きる為に必要な基礎代謝量(50kカロリー/kg/day)の半分以下も分泌していないからです。赤ちゃんを障害から守るためには、新生児早期の栄養不足いかに補うかが重症黄疸を防ぐポイントなのです。

■重症黄疸はイエローカード

重症黄疸がこわい理由
以下は、愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所の研究成果です。

新生児黄疸で起こる脳障害の研究

誕生まもなく赤ちゃんは血液中に黄色い色素(ビリルビン)が多くなって黄疸になります。この黄疸が強くなると脳が障害されますので、黄疸を無くす治療が必要となります。黄疸になるとなぜ脳の発育が障害されるかについて研究しました。遺伝的に黄疸を起こすモデル動物を利用しました。この動物の小脳は強い黄疸のために写真右のように小脳が小さくなります。このモデル動物では生後7日前後に黄疸があると小脳が発育しないことがわかりました。生後7日前後にビリルビンが小脳に侵入すると、神経細胞の分裂停止、タンパク質量の低下、呼吸反応の低下、脂質の蓄積、神経伝達物質の減少などを起こして発育がほとんど停止します。人でも新生児黄疸が強いと、モデル動物と同じようにビリルビンが脳に侵入し神経細胞が障害されて脳の発育が悪くなると考えられます。人でも脳がビリルビンに強く影響される時期には特に注意して黄疸を軽くする必要があります。

文献
1. Keino, H., Kashiwamata, S.: Neurosci. Res. 6: 209-215, 1988.
2. Keino, H. et al.: Cell Tissue Res. 262: 515-517, 1990.
3. Komaki, T. et al.: J. Endocrinol. Invest. 14: 409-415, 1991.
4. Kashiwamata, S. et al.: Wissenschaftliche Beitrage eds. by P Meisel & K Jahrig pp. 13-30, 1991.

ビリルビンによる脳のエネルギー産生系の障害

ヒトでは、生後一週間ほどで、生理的黄疸がおきます。何らかの原因よって、黄疸の原因物質であるビリルビンが脳にはいると、脳に障害がおきます。さらに、脳にはいったビリルビンが特定の神経核に沈着すると核黄疸となります。コロニー開設当初、こばと学園の脳性麻痺の患者さんの原因は、核黄疸によるものが大半を占めると言われていました。そこで、私達は、核黄疸の原因物質であるビリルビンが脳の代謝にどのような影響をおよぼすかについて検討しました。脳が活動するためにはきわめて多量のエネルギーを必要としますので、エネルギー産生系に対するビリルビンの影響を調べました。その結果、ビリルビンが解糖系の酵素を阻害し、脳におけるエネルギーの産生を減少させることが明らかとなりました。

文献
1. Katoh, R. et al.: Brain Res. 83: 81-92, 1975.
2. Katoh-Semba, R.: Brain Res. 113: 339-348, 1976.