お産の経過と産痛
 陣痛開始から子宮口全開大までを分娩第1期、子宮口全開大より児娩出までを分娩第2期といいます。分娩進行に伴う“産痛”<痛みの曲線>として下図に示していますが、この痛みの程度は第1期と第2期では大きく異なります。分娩進行とともに痛みの範囲も、下腹痛から腰痛へ、そして軟産道から肛門痛へと拡がっていきます。
 分娩第1期の痛みはまだ我慢可能な生理的範囲内の痛みです。第2期になるとその痛みは次第に増強します。とくに初産婦では我慢できない“病的な痛み”となり過呼吸などの異常(低炭酸ガス血症)を招き、時には胎児仮死の原因になることもあります。
◆潜伏期の痛み:
 分娩第1期の潜伏期は、時間をかけて徐々に子宮口が柔らかく薄くなる時期です。この時の痛みは子宮収縮に伴う下腹痛が主で、産婦はまだ自由に歩行や食事ができる程度の痛みです。
◆活動期の痛み:
 分娩第1期の活動期は、子宮口が急速に開大し、赤ちゃんの頭が産道の方へ下降し始める時期です。この時は子宮収縮による下腹痛と腰痛が主で、陣痛がない時には痛みはあまり感じませんが、陣痛発作時には歩行や食事が困難となり痛みのために声が出たりすることもあります。陣痛のない時には痛みは無くリラックスでき会話も普通に交せますので 、まだ我慢できる範囲内の痛みと言えましょう。
◆娩出期の痛み:
 分娩第2期の娩出期では子宮収縮はさらに強くなり、児頭は回旋しながら軟産道(膣腔)へと下降してきます。下腹部痛・腰痛に加えて産道への圧迫・伸展による痛みが強くなり、陣痛発作時には“過呼吸”を伴うほどの我慢できない病的な痛みとなります。
 過呼吸が進めば低炭酸ガス血症となって末梢血管は収縮し、そのために子宮血流量の低下による胎児低酸素血症(胎児仮死)を招くことがあります。
◆娩出直前:
 児頭が見え隠れする排臨・発露時期においては、自然に“いきみ”がかかり、痛みはピークになります。とくに初産婦では会陰部の進展が悪く児娩出が遅れ、痛みを長引かせます。
 無痛分娩は、最も痛い分娩第2期の産道と会陰部の痛みを優先的に取る事が可能で、同部の筋肉を弛緩させ、よりスムーズに児を娩出させ得る事ができる産科麻酔こそが、お産に適した麻酔法と言えます。
 赤ちゃんが大き過ぎたり、産道が狭く筋緊張が強すぎたり、骨盤位など、難産が予測された場合にこそ、母児にとって安全なお産をするために産科麻酔が必要となるのです。