無痛分娩の種類
■陰部神経ブロック法
 陰部神経ブロックは、1928年奥園によって日本に紹介された歴史的な産科麻酔法です。ドイツでは無痛分娩法として一般的ですが、我国では長い歴史があるにも拘わらず余り普及していません。その理由として、本法は 1)分娩第1期の痛みをとることができない、2)麻酔作用時間(90〜120分)が短い、3)安産効果としての麻酔作用(長所)が余り知られていない、などが挙げられます。
 しかし、私自身、この10年間の陰部神経ブロックの経験(約5000例)から、本法の安全性、自然分娩の長所を引き出す麻酔作用、産婦にとって満足度の高いお産、これらの麻酔作用は安全で満足いくお産のためにすばらしい安産効果を発揮することがわかりました。
方法
 分娩第2期の痛みは陰部神経を介して脊髄に伝達されます。この陰部神経を坐骨棘のそばの幹部(図1)で経膣的に局麻剤でブロックすることによって、産道/会陰部領域(図2)の痛みの緩和と筋弛緩を同時に得ることができます。
 麻酔開始時期は子宮口全開大前後、経産婦では経過が早いのでやや早めに行います。麻酔効果時間は90〜120分と短時間ですが、麻酔効果が切れた場合は再ブロックを行うことが可能です。当院では、局所麻酔剤1%カルボカイン20mlを左右両側に10mlづつ注射します。局麻剤中毒などの合併症は一例も経験していません。
図1)   図2
麻酔効果
○鎮痛作用
最も痛い分娩第2期の産道/会陰部の痛みをほぼ100%とる事が可能。
鎮痛効果として、初産婦ではブロック前の産痛の60〜80%、経産婦では70〜90%を除痛できる。
分娩第2期でも陣痛が無い時は、腰痛も軽減し、産道の痛みもなく休息が可能。
産道/肛門周囲の痛みが無いため、児娩出時に十分“イキム”事が出来る。
痛みにともなう産婦の過呼吸は血管収縮を招き、児に低酸素血症をもたらすが、痛みを緩和することによって産婦の呼吸は正常化し、続いて胎児心拍も正常となる。
○筋弛緩作用
 本法の長所は、産道/会陰部の筋弛緩作用に優れている点です。同部の筋肉を弛緩させることによって産道の抵抗を減らし、よりスムーズに児を娩出させます。その結果、分娩第2期時間は短縮、会陰切開/会陰裂傷/吸引分娩/帝王切開の頻度は著しく減少しました。特に、巨大児や骨盤位など難産が予測されたお産には、本法の鎮痛作用、筋弛緩作用は安産効果として目覚ましい働きをします。難しいお産ほど産科麻酔が必要となるのです。
■陰部神経ブロックと硬膜外麻酔の違い(長所と短所)
 本法と硬膜外麻酔法の神経ブロックの部位の違いを図3に示しています。分娩第1期、第2期の長時間の産痛を緩和することにおいては、麻酔範囲の広い硬膜外麻酔法がすぐれています。しかし、広範囲の麻酔作用は微弱陣痛や血圧下降(仰臥位低血圧症候群)を招きやすく分娩管理の上で不都合な場合があります。一方、陰部神経ブロックは分娩第1期の下腹部の痛みをとる事は出来ませんが、最も痛い第2期の産道・会陰部の痛みを、ほぼ100% 取ることができ、さらに産道・会陰部に限られた筋弛緩作用は 微弱陣痛を招くこともなく産道を柔らげ“安産効果”の面で大変優れています。また、本法は限られた狭い麻酔範囲で効果が得られるため、産婦の呼吸・循環器系への影響や子宮収縮に及ぼす副作用が無いことが長所です。
図3
本法の長所(硬膜外麻酔との比較)
硬膜外麻酔法に比べ手技が簡単。
最も痛い分娩第2期の産道/会陰部の鎮痛効果と筋弛緩作用にすぐれている。
微弱陣痛などの副作用もなく安産効果としての働きが大きい。
麻酔範囲が狭いため、血圧低下・呼吸抑制などの呼吸循環器系への副作用がない。
費用が安い
本法の短所(硬膜外麻酔との比較)
分娩第1期の痛みを取ることができない
麻酔作用時間が短い。