1996年6月7日
読売新聞掲載記事
太り過ぎ抑えると安産につながる。
 カロリー摂取を控え、妊婦の太りすぎを抑えることが、安産につながるというデータがこのほど横浜で開かれた日本産婦人科学会で発表された。妊婦の肥満が出産に及ぼす影響についてこれだけ広範な調査は珍しく、栄養過多の現代で栄養指導の重要性を示す報告として注目されている。
 報告したのは、福岡市にある久保田産婦人科医院院長の久保田史郎さん。1986年から10年間同医院で早産などを除いた満期で出産した5083人の妊婦を調べた。
 これまでの栄養指導は、20代の妊婦の場合1日のカロリー摂取量は妊娠前期が1950キロカロリー、後期が2250キロカロリーという厚生省の「日本人の栄養所要量」に基づいて行われてきた。
 しかし、栄養状態が良くなり、飽食の時代と言われる現代では、むしろ妊婦が太りすぎる傾向があることに久保田さんは着目した。妊婦の肥満は妊娠中毒症や糖尿病の原因となる。また、体重4000グラムを超す巨大児が産まれたり、陣痛が弱かったりして、帝王切開や陣痛促進剤が必要な難産のケースが多くなる。
 このため、妊娠期間中の摂取カロリーを1900キロカロリーと一定にするように指導した。「胎児の体重は妊娠後期に急増する」ために、後期に入っても摂取量を増やさなかった。
 また、肥満妊婦ほど朝食を抜くなど食生活に問題があったことから、朝食をしっかり食べ、夜7時以降の夕食はカロリーを抑える生活指導を行った。朝食は妊婦に特に必要なビタミンK、カルシウム、鉄分などを多く含んだ和食中心のメニューとした。この結果、妊婦の体重増加は全国平均の11.4キログラムより3割ほど低い平均8.2キログラムで、理想的とされる8〜10キログラムに収まった。
 また、出産時の新生児の体重では、4000グラム以上の巨大児の割合は0.4%と全国平均の2.5%を大きく下回った。2500グラム以下の未熟児の割合も4%と全国の7%より少なく赤ん坊の体重も理想的な範囲内に収まった。
 帝王切開が必要だった分娩の割合は栄養指導を始める前の平均9%から6.1%に減少。10〜11%程度といわれる全国平均と比べても低かった。特に妊婦の肥満と関係の深い胎児切迫仮死などが原因の帝王切開も栄養指導の前後で4.6%から2.3%に半減した。
 久保田さんは「食べることが丈夫な赤ちゃんを産むことになるとの先入観があるがカロリーのとりすぎが指摘される現代では、予防医学の観点からも妊婦には栄養指導が必要ではないか」と話している。