1996年 4月21日 西日本新聞掲載記事
元気な赤ちゃん産むために  基準より栄養控えめ
 元気な赤ちゃんを産むためには食べ過ぎに注意を―福岡市中央区平尾の久保田産婦人科医院院長 久保田 史郎 氏―が妊婦のエネルギー摂取量を厚生基準より抑えることによって、胎児・新生児の「周産期死亡率」を全国平均の5分の1に抑え込むことに成功した。「赤ちゃんの分まで食べろ」とされてきた栄養重視の食生活を覆す実践例で専門医も「栄養を通り過ぎる妊婦が目立つ中、時代に合った指導法」と注目している。 
 周産期死亡率とは、妊娠28週以後の死産と、生後1週間未満の早期新生児死亡の合計。国内では1950年には出生千人当たりに47人が周産期死亡していたが、医療機関での出産が増えるに従い年々減少、’93年には5人になった。
 久保田医師は、周産期死亡の一因の妊娠中毒症や巨大児(体重4000g以上)による難産を防ごうと、妊婦のエネルギー摂取量を抑えて太りすぎないようにする指導を行った。
 国内の基準とされる「日本人の栄養所要量」(厚生省)では、20代の妊婦のエネルギー摂取量は妊娠前期が1950Kcal、後期は2150Kcal。しかし、久保田医師、前・後期とも妊婦の体格を問わず1950Kcaに統一。朝食は和食にし夕食よりも献立を充実させるように指導した。
 その結果、’86年から、’95年まで同医院で出産した5233人中、死産は6例、早期新生児死亡はなく、千人あたりの周産期死亡率は1.1だった。
 妊婦が出産までに増えた体重は平均8.2Kg。妊娠前から太りすぎの人の中には体重が減った例もあった。
 一方、新生児の体重は母親の体重による差はなく、3000g前後に集中。巨大児は0.4%(国内’93年平均1.6%)、2500g以下の未熟児は4%(同7%)といずれも全国平均より少なかった。
 久保田医師は「赤ちゃんが3500gを超すと難産になり、、胎児仮死や陣痛促進剤の使用頻度が増える『赤ちゃんの分まで食べなさい』と言うのは間違い。妊娠中はエネルギー摂取量を抑えた正しい食生活が大切」としている。
― 生活に応じて指導を  厚生省保健医療局健康増進栄養課の話 ―
 「日本人の栄養所容量」で示す数値はあくまでも基準。医師はそれぞれの妊婦の生活スタイルなどに応じて、最もふさわしい指導を行うのが望ましい。