
「赤ちゃんのミルク、どんな水で作ればいいの?」
「水道水? それともミネラルウォーター?」
「お湯の温度は何度がいいの?」
粉ミルクで赤ちゃんを育てる方にとって、毎日の調乳に使う「水」と「温度」は、とても気になるところだと思います。
産婦人科医として、まずお伝えしたいことがあります。調乳で大切なのは、「水の種類」よりも先に、お湯の温度と衛生管理です。赤ちゃんの体はとても繊細で、わずかな菌でも体調を崩すことがあるからです。
この記事では、調乳に使う水と温度について、安全の観点から順番に解説します。安心して毎日のミルク作りができるよう、根拠もあわせてお伝えします。
調乳でまず大切なのは「温度」と「衛生」
意外に思われるかもしれませんが、粉ミルクは無菌(菌がまったくない状態)ではありません。
これは品質の問題ではなく、現在の製造技術では、粉ミルクを完全に滅菌して作ることが難しいためです。
そのため、ごくわずかですが、サカザキ菌(クロノバクター)やサルモネラ菌といった菌が含まれる可能性があります。
健康な大人にとっては大きな問題にならない菌でも、生まれて間もない赤ちゃん、特に低出生体重児や免疫の弱い赤ちゃんにとっては、重い感染症につながることがあります。
だからこそ、調乳では「水の種類」よりもまず、菌を抑えるための「温度」と「衛生」が大切になります。
粉ミルクは「70℃以上」のお湯で溶く理由
調乳でもっとも大切なルールが、70℃以上のお湯で粉ミルクを溶くことです。
これは、2007年にWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)が作成した「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」に基づくもので、日本でも厚生労働省が同年6月から、70℃以上での調乳を指導しています(※1)。
70℃以上という温度には、はっきりした理由があります。サカザキ菌は、70℃以上の湯で不活化(殺菌)できるためです。ぬるま湯や水で溶いてしまうと、菌が生き残るおそれがあります。
サカザキ菌に感染すると、乳児では敗血症や壊死性腸炎を起こすことがあり、重い場合には髄膜炎を併発することもあると報告されています。だからこそ、「70℃以上」は省略してはいけない大切な手順なのです。
海外の自動ミルクメーカーなどで「水やぬるま湯で作る」方法が紹介されることがありますが、日本のガイドラインでは70℃以上が推奨されています。耳ざわりのよい情報ではなく、公的機関の情報を確認してください。
なお、70℃以上で溶いたあとは、流水や冷水にあてて、授乳できる温度(およそ40℃前後)まで冷ましてから与えます。熱いまま与えないよう注意しましょう。
70℃以上のお湯での正しい作り方の手順は、こちらで詳しく解説しています。
→ 粉ミルクの正しい作り方|70℃以上が必要な理由と手順
赤ちゃんに適した水は「軟水」
温度の次に確認したいのが、水の「硬度」です。結論からいうと、赤ちゃんの調乳には軟水が適しています。
日本で売られている粉ミルクは、日本の水道水(軟水)で溶かすことを前提に、ミネラル分が調整して作られています(※2)。日本の水道水はカルシウムやマグネシウムが少ない軟水なので、粉ミルクとのミネラルバランスがちょうどよくなるように設計されているのです。
一方、ミネラル分の多い「硬水」を使うと、赤ちゃんにとってミネラルの摂りすぎになり、まだ未熟な腎臓や消化器官に負担をかけるおそれがあります。そのため、硬水は避けましょう。
水の硬度の目安は、次のとおりです。
- 軟水の目安は、おおむね硬度60以下が望ましく、120以下を選ぶ
- 硬度300以上の水は使わない
- ミネラルウォーターを使う場合は、パッケージの「軟水」「硬度」の表示を必ず確認する
特に注意したいのが、海外産のミネラルウォーターには硬水が多いことです。「赤ちゃんにいい水」と思って選んでも、硬度が高ければ逆効果になりかねません。表示をよく確認してください。
軟水・硬水の選び方や、ミネラルウォーターを使うときの注意点は、こちらで詳しく解説しています。
→ 赤ちゃんに軟水?硬水?調乳に適した水の選び方
水道水・湯冷まし・ミネラルウォーター・ウォーターサーバーの比較
調乳に使える水には、いくつか選択肢があります。それぞれの特徴を整理します。
| 水の種類 | 調乳への使用 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 水道水 | 使用できる | 一度沸騰させ、70℃以上で調乳する |
| 軟水の市販水 | 使用できる | 硬度120mg/L未満、できれば60mg/L以下を選び、沸騰させる |
| RO水・純水 | 条件付きで使用できる | 飲用・調乳向けの商品か確認し、原則として沸騰させる |
| 浄水器の水 | 使用できる | カートリッジを適切に管理し、使用前に沸騰させる |
| ウォーターサーバー | 機種による | 注水時70℃以上、調乳利用の可否、清掃・メンテナンスを確認する |
| 硬水 | 避ける | ミネラル量が多いため、日常的な調乳には使用しない |
| 未検査の井戸水・湧き水 | 使用しない | 見た目だけでは安全性を判断できない |
基本は、日本の水道水を沸騰させて使えば問題ありません。そのうえで、「沸騰させる手間を減らしたい」「備蓄もしたい」といった理由から、軟水のミネラルウォーターやウォーターサーバーを選ぶ家庭も増えています。
どの水を使う場合でも、「軟水であること」と「70℃以上で調乳すること」の2点は変わりません。ここを押さえておけば、水の選択肢は生活に合わせて選んで大丈夫です。
衛生面で気をつけたいこと
水と温度に加えて、調乳では衛生管理も大切です。次の点を意識しましょう。
- 器具を消毒する:哺乳瓶、乳首、スプーンなどは、よく洗って消毒しておく
- 作り置きをしない:調乳したミルクは、菌が増える前に使い切るのが基本
- 2時間以内に使う:調乳後、すぐに飲ませない場合でも、2時間以内に使わなかったミルクは廃棄する(※1)
- 飲み残しは捨てる:一度口をつけたミルクは、口の中の菌が増えることがあるため、保管せず処分する
これらは「もったいない」と感じるかもしれませんが、赤ちゃんを菌から守るための大切な習慣です。
深夜や外出時の調乳をどう楽にするか
調乳の手順は、慣れるまで意外と大変です。特に、夜間の授乳では、毎回お湯を沸かし、70℃以上にし、冷ます、という作業を、眠い中で繰り返すことになります。
産科の現場でも、「夜中のミルク作りがつらい」という声はとても多く聞かれます。無理を続けると、お母さん・お父さんの体調にも影響します。安全を守りながら、負担を減らす工夫を取り入れることも、長く続けるうえで大切です。
たとえば、次のような方法があります。
- 一度にお湯を多めに沸かし、保温ポットに入れておく
- すぐに70℃前後のお湯が出るウォーターサーバーを使い、お湯を沸かす手間を省く
- 外出時は、軟水のスティックタイプの水や液体ミルクを活用する
特にウォーターサーバーは、「軟水・純水タイプ」で「70℃前後の温水がすぐ出る」ものを選べば、調乳の手順を保ちながら、夜間の負担を大きく減らせます。
夜間のミルク作りを楽にする具体的な方法は、こちらで解説しています。
→ 夜間・深夜のミルク作りを楽にする方法調乳に向くウォーターサーバーの選び方(軟水・温度・衛生)は、こちらで比較しています。
→ 調乳に便利なウォーターサーバーおすすめ|赤ちゃん向けの選び方
赤ちゃんのミルクに使う水は水道水で大丈夫?
日本国内では、通常の水道水を粉ミルクの調乳に使用できます。
赤ちゃん用だからといって、必ずしも高価なミネラルウォーターや専用の水を購入する必要はありません。大切なのは、水の価格や商品名ではなく、飲用できる安全な水を使い、正しい温度と手順で調乳することです。
水道水を使用する場合は、一度しっかり沸騰させます。その後、長時間放置せず、粉ミルクと混ぜる時点で70℃以上あるお湯を使用してください。
一方で、自治体から断水、濁り水、給水制限などの案内が出ている場合は、水道水を使用せず、自治体や医療機関の指示に従いましょう。
調乳に使える水と注意点
水道水
日本の水道水は、通常は調乳に使用できます。沸騰させたあと、70℃以上の状態で粉ミルクを溶かしてください。
浄水器を通した水も使用できますが、浄水器を通しただけでは無菌にはなりません。カートリッジの交換時期を守り、調乳前には沸騰させましょう。
市販のミネラルウォーター
市販水を選ぶ場合は、硬度120mg/L未満の軟水を選びます。できれば硬度60mg/L以下の商品が選びやすいでしょう。
「赤ちゃんにも使える」「調乳に適している」などの表示がある商品でも、使用方法と粉ミルクメーカーの説明を確認してください。
RO水・純水
RO膜で処理された水や純水も、商品が飲用向けであり、調乳への使用が認められていれば選択肢になります。
ただし、RO水や純水だから自動的に無菌というわけではありません。開封後の保管方法にも注意し、調乳時は原則として沸騰させて使用します。
井戸水・湧き水
水質検査を受けていない井戸水や湧き水は、赤ちゃんの調乳には使用しないでください。
見た目がきれいでも、細菌や化学物質が含まれている可能性があります。井戸水を使用する必要がある場合は、飲用基準を満たしているかを確認し、自治体や医療機関に相談しましょう。
厚生労働省の資料でも、水道水のほかに使用できる水として、水質基準を満たした井戸水や調乳に適した市販水が挙げられています。
粉ミルクを安全に作る8つの手順
- 調乳する台や周辺をきれいにする
- 石けんと流水で手をよく洗う
- 洗浄・消毒した哺乳びんを用意する
- 安全な飲用水を沸騰させる
- 粉ミルクと混ぜる時点で70℃以上のお湯を使う
- 商品に記載された粉とお湯の量を正確に守る
- 哺乳びんにふたをして、人肌程度まで素早く冷ます
- 授乳前に温度を確認し、飲み残しはすぐに捨てる
粉ミルクを濃く作ったり、反対に薄めすぎたりすると、赤ちゃんが必要とする栄養や水分のバランスが崩れる可能性があります。計量スプーンは付属品を使い、自己判断で量を変更しないことが大切です。
哺乳びんを冷ますときの注意点
ミルクを溶かしたあとは、授乳できる温度まで速やかに冷まします。
哺乳びんにふたをして、流水を当てるか、冷水を入れた容器に浸してください。このとき、冷却用の水が哺乳びんのキャップ部分より上に来ないようにします。哺乳びんの中に冷却水が入らないよう注意しましょう。
急いでいる場合でも、哺乳びんに直接氷を入れたり、粉ミルクを冷たい水だけで溶かしたりしてはいけません。
とくに慎重な調乳が必要な赤ちゃん
次に該当する赤ちゃんは、粉ミルクに含まれる可能性のある細菌の影響を受けやすいため、より慎重な衛生管理が必要です。
- 生後2か月未満
- 早産で生まれた
- 出生体重が低かった
- 免疫機能が弱い
- 医師から特別な栄養管理を指示されている
これらに該当する場合は、一般的なインターネット情報だけで判断せず、退院時に受けた説明や小児科医の指示を優先してください。
WHOのガイドラインでは、新生児、早産児、低出生体重児、免疫機能が低下している乳児は、感染リスクの高いグループとして扱われています。状況によっては、水を使った調乳が不要な液体ミルクも選択肢になります。
災害時や断水時は液体ミルクも準備する
災害や断水が起きると、沸騰させるための水や熱源、哺乳びんを洗うための水を確保できないことがあります。
そのような場合に備えて、家庭では次のものを準備しておくと安心です。
- 赤ちゃん用の飲料水
- 液体ミルク
- 紙コップ
- 使い捨て哺乳ボトル
- カセットコンロ
- 清潔な保存容器
液体ミルクは、水を加えたり濃さを調整したりせず、そのまま使用します。開封後の取扱方法や保存時間は、必ず商品表示に従ってください。
なお、水が化学物質などで汚染されている場合は、沸騰させても安全になるとは限りません。災害時や水道事故の際は、自治体から発表される情報を確認することが重要です。
まとめ
- 粉ミルクは無菌ではないため、調乳では温度と衛生がまず大切
- 粉ミルクは70℃以上のお湯で溶く(WHO・厚生労働省のガイドライン)。溶いたあとは約40℃に冷ます
- 赤ちゃんの調乳には軟水が適している。硬水はミネラル過多で負担になるため避ける
- 水道水(湯冷まし)が基本。軟水のミネラルウォーターや純水、ウォーターサーバーも、軟水・70℃を守れば選択肢になる
- 器具の消毒・作り置きをしない・2時間以内に使うといった衛生管理も大切
- 安全を守りながら、夜間や外出時の負担を減らす工夫も取り入れる
赤ちゃんの調乳は、「軟水」と「70℃以上」、そして「衛生」を押さえれば、むずかしく考えすぎる必要はありません。毎日のことだからこそ、安全と続けやすさの両方を意識していきましょう。
妊娠前から続く「赤ちゃんの栄養」という観点では、葉酸も大切な準備の一つです。
→ なぜ妊娠前から葉酸が必要なのか|赤ちゃんの神経の土台と神経管閉鎖障害
参考文献・出典
- ※1 厚生労働省「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて」(WHO/FAO 2007、厚生労働省仮訳)
- ※2 一般社団法人 日本乳業協会「乳と乳製品のQ&A」(粉ミルクの調乳に使う水・硬度に関する記載)/各粉ミルクメーカーの調乳方法に関する案内