出版のご挨拶
私は1983年に久保田産婦人科麻酔科医院を開業して、これまで31年間で約1万4千人の赤ちゃんの出産に立ち会いました。この期間、日本の周産期医療は目覚ましい進歩を遂げましたが、一方では、日本の伝統的な「産湯」が廃止され、代わりに出生直後の赤ちゃんを母親のお腹の上で「うつ伏せ寝」にして抱かせるカンガルーケア(早期母子接触)がお産の常識になりました。同時に、日本の助産師は、赤ちゃんは「3日分の水筒と弁当」を持って生まれてくるという科学的根拠の無い俗説を刷り込まれ、母乳の出が悪い生後3日間、糖水・人工ミルクを全く飲ませない「完全母乳哺育」が赤ちゃんに優しい哺育法と信じ込み、この間違った母乳育児が日本のお産の常識になりました。

ところが福岡市では「完全母乳」と「カンガルーケア」が始まった時期に一致して、発達障害児が驚異的な早さで増え続けています。発達障害の原因に関する研究は、主に生理学者、小児神経学者、精神科医、そして公衆衛生学による疫学調査を中心とした研究が広く進められていますが、肝心の周産期(産科)側からの調査研究は全く行われていません。私は、開業以来、産科医と麻酔医の視点から原因不明の脳障害(発達障害)の原因と予防に関する研究を行ってきましたが、この度、「カンガルーケア」と「完全母乳」で赤ちゃんが危ない、を小学館から発刊する事になりました。

一開業医である私が世の中の流れにあえて警鐘を鳴らし、本を出版する理由は、発達障害を防ぐためには、お産の現場の産科医の意見なしに原因究明はできないと判断したからです。医学生や看護学生はもちろん、看護師、助産師、産科医など、周産期医療に携わるすべての医療従事者、これから妊娠・出産される予定の全ての皆様、報道(テレビ・新聞)の皆様に是非読んで頂きたいと願っています。私は、この本が世に受け入れられ、出生直後の「温めるケア」が当たり前になった時に、発達障害は減り始めると確信しています。
敬具
 
 平成26年12月吉日
久保田史郎