2.カンガルーケア中の“呼吸停止”は、「低体温⇔低血糖」 が原因 | |
■「低体温⇔低血糖」のメカニズム |
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1. | 日本の寒い分娩室(24〜26℃)で生後30分以内にカンガルーケアをすると、赤ちゃんの体温下降は促進され恒温状態への回復が遅れる。 恒温動物である人間の自律神経機能は、低体温状態では生命維持機構(呼吸/循環/内分泌/消化管など)の安全より、低体温から恒温状態に回復させる為の体温調節機構の方を優先させる。 低体温時の体温調節のメカニズムは、@放熱抑制(末梢血管収縮)と、A産熱亢進(筋肉運動:震え)による。 @放熱抑制:末梢血管収縮⇒消化管血流減少⇒腸管・蠕動運動低下⇒嘔吐↑ A産熱亢進:筋肉運動↑⇒エネルギー消費増大⇒低血糖⇔自律神経機能低下 |
2. | 高インシュリン血症の赤ちゃんを寒い分娩室でカンガルーケアにすると、「低体温⇔低血糖」の悪循環は加速される。 |
3. | 低血糖が進むと筋緊張が低下し熱産生が抑制され、低体温から恒温状態への自然回復は困難となる。 |
4. | 「低体温⇔低血糖」の悪循環が進むと、人間の自律神経系は機能マヒに陥り、生命維持機構、体温調節機構にトラブルが発生する。「低体温⇔低血糖」に陥った赤ちゃんは、恰も体温調節中枢が欠如した無脳児と似た体温変動(変温動物的)、心拍変動(サイレント)を示す。 一旦、「低体温⇔低血糖」の悪循環が成立すると、@保温、A糖分の補給、B酸素投与の医学的管理がなければ、カンガルーケア中の医療事故(ケイレン、呼吸停止)はいつでも発生する。呼吸停止を早く見つけ、治療するための新生児蘇生のプロを養成するより、「低体温⇔低血糖」の悪循環に陥らないための工夫(@保温、A糖分補給、B酸素投与)が必要である。 ■「低体温⇔低血糖」の悪循環に陥った症例 |
上の図は、新生児の体温調節に関する研究を始めた時期(1981年)に、偶然にも遭遇した「低体温⇔低血糖」の悪循環に陥った症例である。母親に糖尿病などの合併症もなく、児は3036gの正常満期産児である。 児は通常の室温(24〜26℃)で生まれ、分娩直後から中枢/末梢深部体温、心拍数を同時にモニターした。生後2〜6時間目に中枢深部体温と末梢深部体温が並行して下降する異常所見が認められた。中枢深部体温が生後4時間目に36℃以下に下降したにもかかわらず、産熱亢進/放熱抑制のための体温調節機構が作動していない。心拍はサイレント(平坦)であり、啼泣・体動もない静かな状態が持続した。 この体温変動の特徴は、中枢神経系を欠いた無脳児の体温調節機構と似ている事である。体温の異常に気づき血糖値を測定すると8mg/dlと極めて重度の低血糖症であった。速やかな治療(糖水の経口摂取、保育器内収容、酸素投与)により児は後遺症を残すこともなく回復した。体温の測定中でなければ異常(低体温⇔低血糖症)に気付かず、ケイレン・呼吸停止を起こしたか、数年後に脳に重篤な後遺症を残した可能性が強い症例である。 新生児の低血糖症が恐い理由は、一般にケイレンなどの症状がなく、見えない所(血管の中)で低血糖が静かに進行し脳神経細胞の発育にダメージを与えるからである。授乳によっていずれ低血糖は正常に回復したとしても、障害を受けた神経細胞の完全な回復は望めないからである。 「低体温⇔低血糖」の悪循環を防ぐには、低血糖の早期診断/早期治療は勿論の事、それ以上に「低体温⇔低血糖」にならない様に保育管理することがいかに大事かを教えられた貴重な症例である。当院が出生直後の体温管理(保温)と生後一時間目からの超早期混合栄養法にこだわる理由は、この低血糖症の一例に出会ったからである。 |
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