3.出生直後の低体温症が心肺機能に及ぼす影響

生後30分以内のカンガルーケアの最中に呼吸障害が多発する理由は、出生直後の低体温が肺血管を収縮させ、肺高血圧症(呼吸障害→低酸素血症)を合併するからである。
■肺高血圧症のメカニズムを下記に示す。出生直後の体温下降が強く、低体温が持続し恒温状態への移行が長引くと、手足の血管だけでなく肺動脈血管も収縮し、肺血管抵抗を上昇させ肺高血圧症となる。



肺高血圧症のメカニズム
正常新生児は、出生直後の呼吸開始に伴って肺胞が広がり、肺胞を取り巻く肺血管床の血管抵抗も急速に低下する。しかし、低温環境下で体温管理(保温)を怠ると低体温症は遷延し、交感神経は緊張状態となり肺血管は持続的に収縮する。また、低酸素血症、高二酸化炭素血症なども直接的に肺血管の収縮を起こし、肺血管抵抗が胎児期のように上昇したままとなり肺高血圧が持続する。肺動脈につながる右心室、右心房の血圧も高く、胎児と同様に卵円孔および動脈管で右⇒左シャントが出来上がる。

■肺高血圧症が危険な理由は、出生直後より正常な肺循環が維持できずに肺における血液の酸素交換は障害されることと、上記のような右⇒左シャントから静脈血が動脈血に混入することにより、重篤な低酸素血症となる。強いチアノーゼと多呼吸および陥没呼吸などの呼吸不全の症状を呈する。肺高血圧症の特徴は、酸素を吸入させても右⇒左シャントのためにチアノーゼが改善しない。肺高血圧症が遷延すれば低酸素血症が次第に強くなり心機能に重大な危機が発生する。

■低体温症が危険な理由は、前記の「低体温⇔低血糖」の悪循環を招くだけでなく、肺高血圧症を来たし呼吸障害(過呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼ)を招き、低酸素血症を促進するからである。カンガルーケア中の呼吸障害が多い理由は肺高血圧症を合併しているためである。
当院で、出生直後の赤ちゃんを酸素が流れる温かい保育器内に収容する目的は、低体温・低酸素・低血糖を防ぐためである。