日本の分娩室では生後40分前後で約2〜3℃の体温下降が観察される。新生児学の教科書ではその体温下降を生理的現象としているために、正常成熟児では低体温症を積極的に予防しない。しかし、出生直後の低体温が本当に新生児に害の無い生理的な現象か、治療を要する病的な現象かに関する研究は未だ進んでいない。低体温症の定義が曖昧なのは、新生児の体温調節に関する研究が進んでいないからである。同様に、出生から生後8時間目頃までに糖水を飲ませると約30〜50%の児に嘔吐が観察されるが、この初期嘔吐も生理的な現象と考えられている。嘔吐の原因は糖水そのものが非生理的とする新生児科医もいる。しかし、出生直後の体温下降を少なくする体温管理(保温)によって、生理的と考えられていた初期嘔吐は見られなくなった。当院では、生後1時間目に5%糖水(平均30ml)を飲ませているが初期嘔吐はほとんどない。
つまり、初期嘔吐は生理的現象ではなく、嘔吐のメカニズムは低体温(末梢血管収縮)が原因だったのである。低体温防止によって初期嘔吐が改善した理由から、出生直後の低体温は生理的ではなく病気と考え、より早く低体温から恒温状態に移行する保育管理(保温)を行うべきである。
日本の新生児医療の問題点は、出生直後の2〜3℃の体温下降を病的ではなく生理的現象と定義し、低体温防止を怠っていることである。生理的体温下降、生理的初期嘔吐、生理的体重減少、生理的黄疸など、生理的が度を越すと非生理的(病気)になる。これらの生理的現象の一部に原因不明の病気が潜んでいるのである。カンガルーケア中の事故、発達障害・脳性麻痺の発生防止に出生直後の体温管理(保温)、生後数日間の栄養不足を改善するための工夫が必要である。WHO/UNICEFの医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないことの第6条は、人工ミルクを溶かす衛生的な水がある日本では児にとって不利益である。当院で糖水、人工ミルクを与える理由は、発達障害の危険因子である低血糖・重症黄疸を防ぐために医学的に必要であると判断したからである。当院でカンガルーケア中の
医療事故が発生しないのは、カンガルーケアをしないで体温管理(保育器内収容)をするからである。当院で治療を要する重症黄疸の発生率が1%以下(30/12.000人中)と、全国平均の約1/100と極めて少ない理由は母乳分泌の不足分を人工ミルクで補っているからである。NICU不足対策はNICUのベッド数を増やす前に、重症黄疸をなくす工夫をする事である。
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