第142回 福岡産科婦人科学会 
(平成23年1月16日)
抄録
カンガルーケア中の心肺停止の原因は低体温症か?
医療法人 久保田産婦人科麻酔科医院
院長 久保田史郎

日本では母乳推進運動を契機に、完全母乳と生後30分以内のカンガルーケア(KC)が当たり前となった。ところが、KC中に心肺停止が多発している事が判明した。報告では、事故例は全例正期産児であった。KCを中断したヒヤリハット事例は、@チアノーゼの増強、A低体温、B酸素飽和度の低下、C呼吸停止であった。また、母乳推進運動が始まった時期に一致して、発達障害児が急激に増加していた。発達障害の原因は遺伝説・ワクチン説など種々あるが、KC導入後から急激に増加している事から、出生直後の低体温症に問題があると考えた。そこで、分娩直後の寒冷刺激が自律神経および体温調節・呼吸循環・消化管・糖代謝に及ぼす影響について検討した。

結果:児が出生直後に低体温症に陥ると、自律神経は呼吸循環・消化管などの調節より、体温の恒常性を維持する為の体温調節機構(放熱抑制+産熱亢進)を優先する。しかし、出生直後の急激な末梢血管収縮(放熱抑制)は、静脈還流量の減少を招き低血圧症を、肺血管を収縮し肺高血圧症(低酸素血症)を誘発する。また、低体温症は低血糖症を促進することが分った。その理由は、@熱産生に大量の血中グルコースを消費する、A消化管血流減少によって初期嘔吐(哺乳障害)を誘発する、B肝血流減少によって肝グリコーゲン分解の抑制(糖新生↓)による。新生児が重度の低血糖症に陥ると、自律神経は体温や生命維持(呼吸・循環・内分泌系など)の調節機構が作動せず呼吸停止に至る。無症候性低血糖症が持続すると、脳神経発達に障害を遺す(発達障害)。低血糖症の原因は、@母親からの栄養補給が突然に途絶える事、A低体温症(冷え性)、B完全母乳(低栄養)、C胎児の高インシュリン血症である。高インシュリン血症児は正常妊婦からも高頻度(20/120人)に生れる事が分かった。
結論:KC中の呼吸停止・発達障害を防ぐには、母乳推進運動の見直しが急務である。