福岡市の発達障害児、異常な増加 22年間で、20倍に |
はじめに 日本の少子高齢化・社会福祉費の増加・税収減少が進む中で、昨今の発達障害児の驚異的な増加は、少子化をさらに加速、日本経済にとって致命的である。発達障害は精神科医・小児科医・生理学者らを中心に原因解明が進められているが、肝心の周産期医療(産科)側からの調査研究は無い。福岡市では、厚労省が母乳育児推進運動(完全母乳+出生直後のカンガルーケア)を始めてから、発達障害児が驚異的に増加している事が分かった。国の母乳育児推進運動のどこに危険が潜んでいるのか、発達障害の危険因子と予防策について周産期医療(産科)側から報告する。 |
図1 |
1、予測していた発達障害児の増加 産科医である私は、1983年の開業当初、日本では新生児の低血糖症・低栄養による障害児が増える事を予測していた。その理由は、厚労省が1975年に出生後1,5ヶ月までは、母乳のみで育てましょう、と言い出したからである。1993年には、医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと、所謂、WHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の後援活動を始めたことで、事態はより深刻となった。母乳が出生直後から十分に出るならば、厚労省の完全母乳哺育で問題はない。しかし、産後24時間以内は、母乳は滲む程度しか出ない。新生児が生きるために必要な最小限のカロリー(基礎代謝量:50Kcal/kg/day)に相当する母乳が出るのは、早くても3日目以降(平均4〜5日目)からである。私は、糖水、人工乳を全く与えない完全母乳栄養児は、生後3日間は飢餓状態に陥り、脳神経発達に害を与える危険性があると、厚労省の完全母乳哺育に警鐘を鳴らしていた。 2、発達障害は遺伝性疾患ではない 福岡市の発達障害児の年次推移(図1)によると、平成23年度の発達障害児数は647人、平成元年の33人から22年間で約20倍に増加した。発達障害の原因は諸説あるが、日本では遺伝病説が根強い。福岡市の発達障害の驚異的な増加から推測すると、発達障害は遺伝性疾患とは考えにくい。その理由は、発達障害は厚労省が母乳育児支援(完全母乳)を推進した1993年以降から増え始め、カンガルーケア(早期母児接触)を積極的に推進した2007年以降から驚異的な速さで増加しているからである。また、政令7都市の療育センター新規受診者の中、発達障害の占める割合に地域間較差がある。横浜、名古屋、京都に多く、札幌市はそれらの都市に比べ、約1/10以下と極端に少ない(図2)。発達障害が遺伝性疾患ならば、地域間で、この様な違いが出る筈はない。さらに、福岡市では、発達障害の発生頻度に分娩施設間で有意差がある事を、福岡市立こども病院・福岡市立心身障害福祉センターの医師らが、日本小児神経学会で発表(2008年)していた。以上の調査結果(図1・図2・図3)から、発達障害は遺伝性疾患ではなく、分娩施設の新生児管理の違いの中に、発達障害の危険因子(低血糖症)が潜んでいると考えられた。 |
図2 |
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図3 |
3、厚労省の母乳促進運動が日本のお産の歴史を変えた 1993年、厚生労働省がWHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」 を後援したのを契機に、日本のお産は大きく様変わりした。我国の歴史的な「産湯」の習慣は無くなり、寒い分娩室での出生直後からのカンガルーケア(早期母子接触)が当たり前となった。栄養面においても、乳母・もらい乳の慣習も消え、母乳以外の糖水・人工乳を与えない完全母乳の産科施設が「赤ちゃんに優しい病院」と認定される様になった。厚労省が完全母乳哺育を推進する以前は、母乳が出始めるまでの生後数日間、糖水や人工乳を足すのが当たり前であった。ところが、WHO・ユニセフの「医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと」が普及するにつれて、日本では糖水・人工乳を飲ませない産科施設(助産師)が急激に増えた。厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」の問題点は、発達障害の危険因子である新生児の低体温症・低血糖症・低栄養(飢餓・脱水)・重症黄疸を防ぐための安全対策が欠如している事で、これは親にとって切実な問題である。 4、生後3日間の栄養不足(飢餓)は発達障害の危険因子 日本の助産師は、赤ちゃんは「3日分の水筒と弁当」を持って生れてくるので、母乳が出ない生後3日間は体重が−15%まで減っても、糖水・人工ミルクを補足する必要がないと云う。ところが、その「3日分の水筒と弁当説」には科学的根拠がなく、母親からの栄養補給を断たれ、人工乳を飲ませない完全母乳の赤ちゃんは、母乳が出始めるまでの生後数日間は飢餓状態にある。赤ちゃんの体重が出生時から10%以上も減少するのは母乳分泌不足による低栄養と脱水が原因である。 5、完全母乳哺育で、高ナトリウム血症性脱水の新生児が増加 赤ちゃんに優しい病院(BFH)である富山県立中央病院の小児科医師グループは、「10%以上の体重減少をきたした完全母乳栄養児における高ナトリウム血症性脱水の発症状況」 と題して、日本小児科学会雑誌 Vol.114, No.12 (2010.) に以下の論文を発表した。 要旨(論文引用) 母乳育児は世界中で広く勧められているが、近年,欧米から母乳栄養児が高ナトリウム血症性脱水に罹患し,時には致死的な合併症や神経学的後遺症を残したとの報告が散見される。完全母乳栄養児における高Na血症性脱水罹患の頻度や特徴について検討した。10%以上の体重減少を来した母乳栄養児の4割弱に高Na血症が存在していることが示唆された.一方、トルコでは、入院を要する高ナトリウム血症性脱水を発症した母乳栄養児116人うち、半数以上で1歳以降に何らかの発達障害を認めた。結語、母乳栄養に伴う高ナトリウム血症性脱水存在を認識し、特に脱水が疑われた場合には積極的な介入が必要であると結んだ。 |
6、まとめ 新生児の低血糖症・低栄養・脱水・重症黄疸・脳出血が脳に障害を与える危険性のある事は医学的常識である。寒い分娩室に生まれ、熱産生に最も栄養(糖分)が必要な時期に、なぜ基礎代謝量に見合う人工乳を与えないのか、安全性を無視した国の「授乳と離乳の支援ガイド」に問題がある。動物実験では、生後数日間の栄養不足が脳神経の発達に害を及ぼす事が報告されている。人間の発達障害の増加を防止するためには、出生直後の低血糖症・高ナトリウム血症性脱水を防ぎ、母乳が満足に出始めるまでの生後数日間の低栄養を人工ミルクなどで補うべきある。発達障害児防止策のポイントは、特に生後3日間の体重減少を如何に少なくするかである。当院が生後1時間目から糖水・人工乳を飲ませる理由は、発達障害の危険因子である低血糖症・重症黄疸・脳出血を防ぐために、医学的に超早期混合栄養法が必要と判断したからである。 |
久保田産婦人科麻酔科医院 久保田史郎 2012年12月31日 |
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