カンガルーケア中の心肺停止事故は、厚労省に責任か?

新生児管理の基本中の基本は、気道確保!

出生直後の赤ちゃんの肺呼吸を確立させるためには、先ず気道の確保が最優先されるべきである。赤ちゃんの気管・口腔・鼻腔内は、羊水・肺液で満たされているからである。産科医・助産師は出生直後にそれらの液体を吸引で取り除き、気道を確保、呼吸をし易くするのが最初の仕事(医学的管理)である。

ところが、何らかの理由で口腔と鼻腔が同時に塞がれた場合、赤ちゃんは呼吸が出来なくなり、児は容易に窒息状態(心肺停止)に陥る。何らかの理由とは、赤ちゃんの「体位」のことを指す。あお向け寝の状態で口腔・鼻腔が塞がれる事はない。しかし、うつぶせ寝では気道閉塞の危険性が高まる。NICUでのカンガルーケアと違って、分娩室・母子同室中でのカンガルーケア(早期母子接触)では、赤ちゃんは “うつぶせ寝”の状態で管理されるため、気道閉塞はいつでも、容易に起こり得る。最も危険な状態は、赤ちゃんが母親のオッパイを吸っている最中に寝てしまった時である。睡眠中の新生児の筋肉は完全に弛緩するため、「うつぶせ寝」の状態では頭の重力で口腔・鼻腔は完全に塞がれる事になる。

カンガルーケアを推進する学会は、カンガルーケアは出生後の早いj時期から、より長い時間行うことを推奨している。しかし、鎮静・鎮痛剤を投与された帝王切開術後の患者、深夜からの長時間のお産で疲れた睡眠不足の母親は、無事出産を終え、安心して寝入ってしまうのが普通(生理的)である。赤ちゃんの全身管理を任せられた母親が寝てしまい、同時に、赤ちゃんもうつぶせ寝の状態で寝てしまった時、赤ちゃんが危険(気道閉塞)に曝されるのである。

厚労省は乳幼児突然死症候群(SIDS)を防ぐために「うつぶせ寝」を止めましょう、と警鐘を鳴らした。一方で、厚労省は母親の上で、赤ちゃんを「うつぶせ寝」にするカンガルーケアを推奨しているのである。カンガルーケア中の心肺停止事故は、厚労省がうつぶせ寝の危険性(平成20年度こども未来財団調査研究を参照)を知っていたにもかかわらず、カンガルーケアの危険性(窒息・チアノーゼ・低血糖症)を国民に報告せず、「授乳と離乳の支援ガイド」を強行した所に責任問題がある。分娩直後のカンガルーケアをルーチンとする「赤ちゃんに優しい病院」は、国立病院機構を中心に全国に拡がりを見せているが、それらの病院で心肺停止事故は多く繰返されているのである。

SIDSはあお向け寝運動で減少したが、厚労省はSIDS予防と同様に、出生直後のカンガルーケア(うつぶせ寝)を中止すべきである。また、「赤ちゃんに優しい病院」の認定制度も見直すべきである。
                           
平成25年8月8日
                                    久保田史郎