当院の体温管理(保温)の目的

当院では出生直後の赤ちゃんを酸素が流れる温かい保育器内(34〜30℃)に2時間収容します。厚労省が勧める生後30分以内のカンガルーケアではなく、なぜ温かい保育器に入れるのか、その理由を下記に解説します。

■保育器内(34〜30℃)に収容する理由について
当院で生れる全ての赤ちゃんを保育器内に収容する目的は、出生直後の過度の体温下降を防ぎ、体温をより早く“恒温状態”に安定させるためです。低体温症に陥ると、自律神経は低体温症を防ぐための体温調節機構(放熱抑制+産熱亢進)を優先して作動するために、呼吸、循環、消化管、肝臓などの主要臓器の機能に異状が出るからです。出生直後の赤ちゃんの手足が冷たい理由は、放熱を防ぐために末梢血管が収縮し血流が減少しているからです。末梢血管収縮は手足だけでなく肺動脈も同時に収縮し、肺血管抵抗を増大し肺高血圧症(低酸素血症)を誘発します。さらに、低温環境下で低体温症が長時間に及ぶと、血中グルコースは熱産生(筋肉運動)に消費されてしまい、血中の糖分は枯渇します。新生児が重度の低血糖症に陥ると自律神経は機能不全に陥り、体温調節をはじめ、呼吸、循環、消化管など全ての臓器の調節が機能不全に陥り、やがて心肺機能は停止します。さらに中等度の低血糖症が長時間に及ぶと、脳神経に発達障害(自閉症)を遺す危険性があります。寒い分娩室で出生直後の新生児にトラブルが多く発生する理由は、人間が恒温動物で体温調節(放熱抑制+産熱亢進)を優先するからです。恒温動物である人間の自律神経は呼吸循環などの主要臓器の調節機構より、体温の恒常性を維持するための体温調節機構を優先するため、寒い分娩室では末梢血管を持続的に収縮します。現代医学の落とし穴は、この持続的な末梢血管収縮、つまり冷え性の病態(危険性)を見逃している事です。出生直後の赤ちゃんの事故を防ぐ為には、児に快適な環境温度を準備し、より早く恒温状態に安定させる為の医療行為(保温)を行うべきです。


昔の産婆さんは産湯を沸かし部屋の温度を上げることによって、出生直後の低体温症を防ぐための管理(保温)を行っていたのです。ところが、現代の周産期医療の問題点は、厚労省の勧めで生後30分以内のカンガルーケアと完全母乳を優先し、出生直後の低体温症を防ぐための体温管理(保温)を怠っている事です。厚労省が出生直後のカンガルーケアと完全母乳を検証し、出生直後の低体温症と低血糖症を防ぐための予防医学(保温)を導入しない限り、発達障害の増加に歯止めは掛からないと思います。

■早期新生児の “冷え性”に注意!
新生児の体温が出生直後の低体温症(冷え性)から恒温状態に安定すると、下記の利点があります。しかし、低体温症(冷え性)が長引くと、人間の自律神経は放熱を防ぐために末梢血管を持続的に収縮させます。つまり、早期新生児の冷え性は、体温調節を目的とした持続的な末梢血管収縮の作用によるものです。冷え性は「万病の元」と格言があるように、冷え性が持続すると、新生児の呼吸、循環、消化管、肝臓などの主要臓器に様々な悪影響を及ぼします。初期嘔吐は生理的現象と考えられていますが、本当は体温調節のための末梢血管収縮が冷え性の原因です。
当院では、出生直後から2時間、温かい保育器内に新生児を収容しますので、低体温症(冷え性)の赤ちゃんはいません。出生直後の低体温症(冷え性)を防ぐと、早期新生児に見られる適応障害(肺高血圧症、初期嘔吐、低血糖、栄養不足、重症黄疸、頭蓋内出血、胎便性イレウス、など)を予防する事が可能になります。

■低体温症(冷え性)を防ぐと、下記のメリットが!
@ 出生直後の過度の体温下降を防ぐことによって、熱産生に要するカロリー消費を少なくし低血糖症を予防する(低血糖症の予防)。

A 低体温から恒温状態への移行を早めることによって肝血流量を増やし、肝グリコーゲン分解(糖新生)を促進する(低血糖症の予防)。

B 恒温状態への移行を早め初期嘔吐(哺乳障害)を防ぐ事によって、生後1時間目からの超早期混合栄養法を確立し、低血糖症、低栄養、脱水、飢餓熱、電解質異常、胎便性イレウスなどを防ぐ。新生児学では初期嘔吐は生理的現象と当たり前の様に考えられているが、真実は出生直後の低体温(冷え性=末梢血管収縮)が嘔吐の原因。末梢血管収縮が持続すると消化管血流量が減り腸管の機能(消化、吸収、排泄)に支障を来たす。

C 保温と超早期混合栄養法によって早期新生児の栄養不足をなくし、胎便を早く出す事によって“重症黄疸”を防ぐ。新生児の重症黄疸は出て当たり前の様に安易に考えられているが、重症黄疸は脳性麻痺、発達障害、難聴の危険因子として知られている。当院では、開業以来12,000人の赤ちゃんが生まれたが重症黄疸の治療(光線療法)をした新生児数は約30人(約1/400人)です。重症黄疸の治療率は全国平均10%程度と思われるが、多い施設では3〜5人に一人(20〜30%)が重症黄疸の治療(光線療法)を受けている。重症黄疸の発生率は産科施設の管理の仕方、つまり完全母乳(栄養不足)かどうかによって大きく異なる。

D 保温によって出生直後の末梢血管収縮(肺血管抵抗)を改善し、肺高血圧症(低酸素血症)を予防する。当院では肺高血圧症の発生頻度は0%(0/12,000人)です。生後30分以内のカンガルーケア中に発生する心肺停止の原因は、肺高血圧症(低酸素血症)が最も関与していると考えられる。その理由は、寒い分娩室で生後30分以内にカンガルーケアをすると低体温症(冷え性)が長引き、体温調節のための末梢血管収縮に連動し肺動脈血管も収縮する。そのため肺血管抵抗は増大し、遷延性肺高血圧症を誘発すると考えられる。

E 保育器の長所は、新生児に快適な環境温度(中性環境温度)を準備し、室内に酸素を流す事ができる事である。子宮内の胎児循環から出生後の肺循環が確立する迄の約30分間、保育器内に酸素を流し、肺高血圧症(低酸素血症)を予防するのに優れている。

F インファントウォーマーは保育器に比べ温熱刺激が強過ぎるのが短所。温熱刺激のため赤ちゃんの筋緊張が弱くなり、呼吸が抑制される危険性がある。インファントウォーマー上での長時間の体温管理・蘇生には保育器に比べ不利益な面が多い。

■体温と自律神経機能の関係について


生命維持機構を司る自律神経は、人間が恒温状態になってはじめて、呼吸・循環・消化管・肝機能などの調節が出来る様になります。しかし、出生直後の寒い分娩室では、自律神経は低体温予防を目的として末梢血管を持続的に収縮し放熱を防ごうとします。ところが、低温環境下で末梢血管の収縮が持続すると、全ての臓器の血流量が減少し、自律神経本来の機能が損なわれます。即ち、自律神経機能は生命維持装置(呼吸・循環・消化管など)の安全よりも、体温を恒常に保つための体温調節機構の機能を優先的に作動させます。
以上の理由から、新生児にとって最も大事な事は、出生直後の低体温症(冷え性)を防ぎ、いかに早く恒温状態になるように保温してあげるかが新生児管理の基本です。当院が生まれたばかりの新生児を保育器内(中性環境温度)に入れる理由は、出生直後の赤ちゃんの低体温症を防ぎ、より早く赤ちゃんを恒温状態に安定させ、自律神経の本来の機能をまともに作動させる事によって、低体温症による適応障害から赤ちゃんを守る為です。