第3章 本当は怖い、“妊婦の冷え性”
1.冷え性は万病の元
久保田産婦人科麻酔科医院(福岡市)では妊婦の肥満対策、運動不足対策、ストレス解消、冷え性対策に水中散歩を取り入れています。水の力(水圧+浮力)を応用した水中散歩は、手足の血流のみならず全身臓器の血流増加によって体調不良を改善します。全身のすみずみまで温かい血液(37℃)を流れやすくする工夫(水中散歩)によって冷え性を完治させます。水中散歩をすると、尿がたくさん出て、浮腫が取れ、血圧が下がります。水中散歩には腎血流量を増やし(妊娠)高血圧症を予防する働きがあるからです。同様に、水中散歩をすると子宮胎盤血流量が増え、部分的な子宮収縮が改善し胎盤早期剥離を予防します(図14)。その他、消化管、脳、四肢、など全ての臓器の血流が良くなることで、頑固な便秘、頭痛、肩こり、下肢静脈瘤なども驚異的に改善します。この様に、水中散歩で冷え症を改善すると、全身臓器の循環血流がよくなり、病気を未然に予防します。私は、冷え性は『万病の元』である事を妊婦さんの水中運動(水泳・散歩)で実感しました。
近年、冷え性で悩む妊婦さんが増えていますが、冷え性は過労、睡眠不足、タバコ、ストレス、痩せすぎ、長時間のデスクワーク(PC)、運動不足、低温環境(クーラーの効き過ぎ)などが主な原因です。特にお腹が大きい妊婦さんは生活習慣を見直し、冷え性から胎児を守って下さい。その冷え性が次に述べる低出生体重児の原因となる妊娠高血圧症(旧:妊娠中毒症)、胎盤早期剥離、胎児発育遅延を引き起こしているのです。
■日本の赤ちゃん、出生体重、戦前を下回る
冷え性は日本人女性の約50%に見られ、現代病の一つとして安易に考えられています。ところが妊婦の冷え性は、恐ろしいことに消化管、腎臓、子宮胎盤などの臓器を循環する血流量を減少し、低出生体重児の危険因子である早産、妊娠高血圧症、胎盤早期剥離、胎児発育遅延などの発症メカニズムと深く関わっている事が分かってきました。昔から冷え性は“万病の元”と云われてきましたが、冷え性は母親だけでなく、子宮内の胎児に悪影響を及ぼしていたのです。下記の産経ニュース「低出生体重児増加」の理由も、冷え症と密に関連しているのです。
産経ニュース:(2008年11月27日)
低出生体重児 (2500g未満) の赤ちゃん、急増!
日本の赤ちゃん、出生体重、戦前を下回る。
昭和55年〜平成12年の20年間で約200g減少、母体の痩せ過ぎ・喫煙が影響。日本では低出生体重児(2500g未満)の赤ちゃんが急増 している。厚労省統計では、全出生数に占める低出生体重児の割合が平成5年の6,8%から16年には9,4%に増加、平均出生体重はこの20年で約200gも減った。要因は女性の痩せ志向で、喫煙やストレスなども絡む。 新生児の小柄化は、少子化以上に深刻な問題。「出生体重減少の大規模調査・検証、出産適齢女性の健康確保など、国を挙げた取り組みが必要だ」と報じた。
2. 低出生体重児を防ぐ当院の工夫
東京・奈良における妊婦のたらいまわし事件が発生して以来、NICU(新生児集中治療室)不足が大きな社会問題になっています。国はNICU不足対策としてNICUの増設を強いられていますが、国はNICUに入院する赤ちゃんを減らすための工夫(予防医学)を見逃しています。NICU不足を改善するためには、先ず、低出生体重児の増加を防ぐ工夫が必要です。低出生体重児は、早産(37週前)・多胎妊娠・妊娠高血圧症・常位胎盤早期剥離などを合併した妊婦さんに多く生まれます。とりわけ、妊娠高血圧症・常位胎盤早期剥離(早剥)の予防が最も大事です。それらは、低出生体重児の原因としてだけでなく、胎児死亡・母体死亡の原因として母・児二人にとって最も危険な病気だからです。
3. 冷え性の原因とその対策
冷え症は、妊婦の不規則な生活習慣(行動・食事)、体質 、嗜好品 、環境因子などが主な原因です。これらの原因は以下の4つのグループに分類されます。
@ 過労、睡眠不足、タバコ、ストレス ・・・・・・・・・末梢血管収縮作用 ⇒静脈還流減少
A デスクワーク 、運動不足、痩せ・・下肢筋肉(第2の心臓)機能低下⇒静脈還流減少
B 貧血、低栄養、低タンパク・・・血管内血液量減少 ⇒末梢血管収縮⇒静脈還流減少
C 低温環境・クーラー・・・体温調節機構(放熱抑制) ⇒末梢血管収縮⇒静脈還流減少
冷え性の原因は、@睡眠不足、タバコなどによる末梢血管収縮、A長時間のデスクワークと運動不足、B低栄養と貧血、C低温環境(クーラー)の4つに分類されます。それらの共通項は『静脈還流量の減少』です。即ち、冷え性の妊婦さんは、下肢から心臓に戻る静脈還流量の減少によって全身臓器への血流量が妨げられ、様々な病気を作り出しているのです。つまり、病気は慢性的な冷え性(末梢血管収縮)によって作られているのです。『冷え性』⇒『静脈還流量の減少』⇒『全身臓器の血流障害』⇒組織の酸化作用⇒病気(生活習慣病)です。
■冷え性(末梢血管収縮)が病気をつくる
冷えで、下肢の末梢血管が持続的に収縮すると末梢血管抵抗が増し、下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少します。すると、心臓と各臓器 (消化管、肝臓、腎臓、子宮、手足など) との間を循環する血流量が減少します。腹部臓器には静脈血を心臓に戻す機能(ポンプ) がついていません。臓器を出た静脈血は下肢から心臓に戻る静脈還流に引っ張られ心臓に戻るのです。つまり、何らかの理由で下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少すると、臓器を出た静脈血は心臓への戻りが悪くなり、慢性化すると臓器に機能障害(病気)を引き起こす事になります。逆に、冷え性を治すと心臓と各臓器との循環が良くなり病気を予防する事が出来るのです。冷え性の人に便秘・不妊症が多いのは、消化管・卵管の血流減少が腸・卵管の機能(蠕動運動)を弱めているからです。冷え性は消化管血流だけでなく、肝臓・腎臓・子宮などの血流も同時に減少させています。だから、冷え性は万病の元なのです。冷え性を治し、静脈還流量を増やす事が元気で健康になる秘訣です。そのためには十分な睡眠とお風呂を欠かせません。喫煙が悪いのは、末梢血管を持続的に収縮させ静脈還流量を減らすからです。
4. 妊婦の生活習慣が、胎児発育に及ぼす影響
―低出生体重児の増加は、冷え性(末梢血管収縮)が原因か?―
この30年、日本で2500g以下の低出生体重児が増え続けています。理由は冷え性(末梢血管収縮)、つまり、過労、睡眠不足、運動不足、喫煙、デスクワーク、足の筋肉(第2の心臓)が発達していない痩せすぎの妊婦さんの増加などが悪影響していると考えられます。下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少すると子宮胎盤血流量が減り、子宮・胎児に十分な酸素と栄養の運搬量が減るからです。戦時中(食糧難時代)の未熟児は、母親の栄養不足が原因でした。そのため昔は、妊婦さんはお腹の赤ちゃんの分と二人分食べない! といわれてきました。現代の低出生体重児増加の原因は、「冷え性⇒末梢血管収縮 ⇒ 静脈還流量減少⇒子宮胎盤血流減少⇒ 胎児の栄養不足」が主な原因と考えられます。
厚労省は妊婦の栄養不足が低出生体重児の原因と考え、摂取カロリー量を増やすように指導しました。しかしカロリー量を増やしても大きい赤ちゃん(高インスリン血症児)を増やすだけで、低出生体重児の改善策になるかどうか疑問です。なぜならば、現代の低出生体重児の増加は、胎児に栄養を運搬する子宮胎盤血流量の減少、つまり冷え性の改善策こそが低出生体重児予防策と考えられるからです。因みに、当院の最近5年間の低出生体重児(2500g以下)の発生頻度は、水中散歩の導入によって約10%から6%に次第に減少傾向にあります(図13)。
5.たらい回し・NICU不足を防ぐために
東京都における妊婦のたらい回し事件は、NICU不足だけが注目されました。NICUに入院する低出生体重児がなぜ増えたのか、その原因と対策については殆んど議論されていません。NICU 不足を改善、たらい回しを防ぐためには低出生体重児の原因である妊娠高血圧症、胎盤早期剥離・胎児発育遅延をいかにして防ぐかが “鍵”です。NICUが不足する理由は、冷え性の妊婦さんと冷え性の赤ちゃんが増えているからと考えています。
―当院からNICUに搬送した事例―
当院からNICUに搬送した症例は、心臓病や染色体異常などの先天性疾患を除けば殆どありません。久保田式の母・児に対する冷え性対策を導入すれば、間違いなくNICUに入院する赤ちゃんは激減します。事実、2004年〜2015年の12年間、当院で生まれた赤ちゃんがNICUに入院したのは4384人中 18人(0.4%)でした。徳洲会病院(福岡)のNICU入院児統計から推察すると、他の開業施設からのNICU搬送件数は、少なく見積もっても平均20人〜30人に1人が搬送されていると考えられます。当院で生まれた赤ちゃんのNICU入院児は約250人に1人である事から、他の施設に比べ約1/10で、極端に少ないのです。当院からNICUに入院する赤ちゃんが少ない理由は、出生直後に温かい保育器(34℃)に入れる事によって新生児の冷え性を100% 防いできたからです。当院の出生直後の新生児に対する冷え性対策(保育器内収容)は、NICU不足・新生児科医不足を改善するだけでなく、社会福祉費・医療費削減効果は兆円規模になると考えられます。冷え性は妊婦さんに危険なだけでなく、出生直後の赤ちゃんにとって最も危険な新生児肺高血圧症(チアノーゼ)および低血糖症を引き起こすのです。新生児肺高血圧症については、第6章で詳しく述べます。
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