第4章 水中散歩で冷え性を治す
1.冷え症対策に水中散歩を!
過労、睡眠不足、ストレスなどで頭痛、肩こり、便秘、浮腫などの症状がある人は全身臓器の血流を改善するために血管の大掃除を行ってください。排水管(静脈還流)のトラブル解消(末梢血管拡張)に目覚ましい効果を発揮するのが水中散歩です。元気で長生き・若返りの秘訣は、十分な睡眠とお風呂、そして水中散歩です。血管の大掃除(水中散歩⇒血流改善⇒抗酸化作用)を定期的に行うと、いつの間にか体調が良くなり、全ての臓器は若返ります。体調の悪い方、元気が出ない方、とくに高血圧症や便秘・下痢・潰瘍性大腸炎など胃腸の具合が悪い方、下肢に浮腫・静脈瘤・血栓症がある方、冷え性の強い不妊症の方に、水中散歩をお勧めします。妊娠高血圧症に限らず、高齢者の方々の高血圧症の予防と治療に驚くほどの効果を発揮します。
―水中散歩で、病気(臓器の血流障害)を防ぐー
近年、日本の赤ちゃんが小さくなったと報告されていますが、母親の摂取カロリーが少ないのではなく、赤ちゃんに栄養を運ぶ子宮胎盤血流の減少が胎児の発育を妨げているのです。医師が患者さんに必ず言う言葉があります。睡眠をしっかりとりましょう。タバコを止めましょう。激しい運動はひかえ、適度の散歩をしましょう、とアドバイスします。その言葉の裏には冷え性を治し「末梢血管を開きましょう」の意味が込められているのです。病気(冷え性)の根本的治療は、冷え症を治す生活習慣の改善から始めることが大切です。病気のほとんどは冷え症(末梢血管収縮)が引き金となっているからです。末梢血管を拡張する工夫を日常生活に取り入れる事によって、病気を防ぎ、自然治癒力を高めることが出来るのです。病気の治療効果を上げるためには、薬剤に頼るだけでは薬の効果はあがりません。薬の治療効果を上げるためには、冷え性を改善、つまり末梢血管を拡張する工夫(睡眠・お風呂など)によって病気の治りは早くなります。薬をきちんと飲んでも冷え性を改善しなければ薬の効き目少ないのです。例えば、子宮内の胎児の発育が悪い時に、胎児を大きくするために母親が栄養をどんなに沢山食べても子宮胎盤血流量が悪ければ胎児に十分な栄養が届きません。母親の体重が増えるだけで、子宮内の胎児は大きくならないのです。
2.妊婦さんに「水中散歩」を推奨する理由
私は、開業した1983年から2017年までの34年間、約10、000人に近い妊婦さんを対象に妊婦の運動不足・肥満対策として水中運動(水泳・散歩)を行ってきました。妊娠20週頃から水中運動に参加された妊婦さんには、妊娠高血圧症がほとんど出ない事に驚きました。そこで私は、水中散歩に参加された妊婦さんに「妊娠高血圧症」がなぜ少ないかを見つけるために、水中運動を行うプールの中で実際に妊婦さんの行動を観察することから研究を始めました。すると水中運動をされる妊婦さんの行動に、当院に妊娠高血圧症が少ない理由が見えてきたのです。その妊婦さんのある行動とはいったい何でしょう。陸上の散歩と違って、水圧と浮力のある温水プールでは人間の体に不思議な現象が起きることを発見したのです。
―私が見た、妊婦さんのある行動とはー
プールに入り、30〜40分経った頃から、妊婦さんが次々にトイレに行かれる光景を見たのです。勿論、プールに入る前には排尿を終え、膀胱は空っぽの状態です。 60分間の入水中に1〜2回、プールから上がって一回、平均2〜3回は排尿されている事が分かりました。妊婦さんに話を聞くと、少量ではなく、毎回気持ちが良いほどたくさん尿が出るそうです。この様に、水中散歩には陸上の散歩と違って、利尿作用つまり腎臓の血流量を増やす作用がある事を妊婦さんから学びました。浮腫の強い妊婦さんほどトイレに行く回数は増えます。逆に、トイレに行く回数が少ない妊婦さんは浮腫の少ない妊婦さんで普段から生活習慣に注意されている方です。プールから上がった妊婦さんの下肢を観察すると、足には浮腫や静脈瘤はまったく見られません。プールから上がると全身がポカポカと温かくなっていると言います。この全身の温もりは末梢血管が開き、温かい動脈血が体の隅々まで循環血流量が増えたことを意味します。水中散歩で著しい効果を発揮するのが、冷え、浮腫、便秘、頭痛、肩こり、腰痛などの改善です。水中散歩は下半身の緩やかな水中運動にもかかわらず、下半身 (腹部臓器) の効果のみならず、上半身 (頭痛/肩こり) にも下半身と同様の著しい効果が見られます。頭痛の改善、つまり、脳血流の改善は脳血管障害(脳梗塞)の予防、治療、リハビリ にも大いに役立つと考えています。水中散歩は頭部から腹部臓器および下肢まで、広範囲な血流障害を改善します。冷え性は万病の元、つまり、冷え性を治せば、全身臓器の血流障害を改善し、病気を予防することが出来るのです。
3.水中散歩をすると、なぜ尿量が増えるのか
心臓から腎臓に送られた動脈血は静脈血となり再び心臓に戻ります。しかし、腹部臓器の腎臓には静脈血を心臓に戻すためのポンプ(圧)がありません。腎臓から出た静脈血は、下肢から心臓に戻る静脈還流の陰圧の力に引っ張られて心臓に戻っている事が分かりました。下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少すると、腎臓から出た静脈血の心臓へのリターンが悪くなります。その結果、腎臓に入る動脈血、腎臓から出て行く静脈血、つまり動脈と静脈の圧バランスが崩れ腎血流量は減少するのです。
―水中散歩の不思議―
温水プール(31℃)で水中散歩をすると水の力(水圧+浮力)が加わり、下肢から心臓に戻る静脈還流量が増え、腎臓を出た静脈血は勢いを増した静脈還流に引っ張られ心臓に戻るのが促進されます。その結果、腎動脈と腎静脈の圧バランスが改善され、腎臓を通過する循環血流量が増し、尿量が増え、浮腫が取れるのです。腎臓に入る動脈血(IN)と腎臓から出ていく静脈血(OUT)との関係は、他の全ての臓器(脳・腸管・肝臓・腎臓・膵臓・子宮など)にも当てはまります(図6)。冷え性は「万病の元」の格言は、冷え性による静脈還流量の減少が体内の全ての臓器を機能障害(病気)に陥らせ、「万病の元」になることを、昔の人は予言していたと思われます。
産科医が一番恐れる病気が常位胎盤早期剥離です。その理由は、妊娠中に胎盤が子宮から剥がれ、いつ大量出血するのか全く予測がつかない病気だからです。発見が遅れ、母・児に何らかのトラブルが発生した場合は医療事故として産科医は裁判に立たされる可能性があります。母・児の二つの命を守り、自己を守るためには、産科医は何としてでも胎盤早期剥離の原因と予防策を見つけ出さなければなりません。医学が進んだ今も、胎盤早期剥離の原因が分っていないため予防の仕様がありません。ところが、私が1983年に開業してから34年間、水中運動(水泳・散歩)に参加された妊婦さん(約10,000人)には、胎盤早期剥離・重症妊娠高血圧症の患者さんがほとんど出ていない事が分りました。その後の研究で、陸上の散歩と違って、水中散歩には子宮胎盤血流・腎臓の血流を良くする効果に勝れている事が分りました。水中散歩の効果は、腎血流量を増やし利尿作用があるだけでなく、人間の全ての臓器(脳・腸・肝臓・腎臓・子宮・下肢など)の血流を増やしているのです。なぜ水中散歩をすると胎盤早期剥離・妊娠高血圧症が激減したのか、その秘密に迫ります。
4.水中散歩が全身臓器に及ぼす影響
4−1 水中散歩が消化管血流に及ぼす影響
―頑固な便秘と潰瘍性大腸炎が水中散歩で改善ー
「その話、本当ですか? ?でしょう。」そう思われるかも知れません。実際に私が、その患者さんから聞いたお話しです。東京から里帰り分娩の妊婦さんで、小学校(高学年)の頃から頑固な便秘症でした。本人の話では、便秘は遺伝病で仕方ないと思われていました。当院の母親教室に出席され、水中散歩で便秘が治る話を聞かれたその妊婦さんは、翌日から毎日プール通いを始められました。勿論、栄養指導もしました。その妊婦さんは朝食抜きで、食事の不摂生があったからです。冷え性もありました。すると、2週間に1回しか出ていなかった便秘が水中散歩に毎日通い始めたところ、1週間目から下剤を飲まないで毎日出る様になられたのです。便秘は遺伝病ではなく生活習慣病だったのです。便秘が治った事は、本人のブログでも紹介されています。
内科で難病の潰瘍性大腸炎と診断された妊娠6ヶ月の妊婦さんが、妊娠を続けられるかどうかの相談にお見えになりました。話を聞くと、膿と血液の混じった便が出ている事でした。そこで私は2週間に一回しか出ていなかった頑固な便秘が水中散歩で治った話をしました。水中散歩で腸の血流が良くなったら「潰瘍性大腸炎だって治りますよ」と言って、その妊婦さんに水中散歩に毎日行くように勧めました。すると、4週間後に妊婦健診に来院の予定であったその妊婦さんは、何と3週間目に笑顔で来院されたのです。驚くことに、3週間目に通常の便になり、嬉しくなって早目に来たとのことでした。産後も水中散歩に通われ、潰瘍性大腸炎の再発はありません。
頑固な便秘や難病の潰瘍性大腸炎が改善した様に、水中散歩には腸の血流を良くする作用がある事が分りました。臓器の循環血流の改善は腸の血流だけでなく、腎血流や子宮胎盤血流を改善する作用がある事も分ってきました。当院で、妊娠高血圧症や胎盤早期剥離が極端に少ない理由は、水中散歩による腎血流と子宮胎盤血流の増加が関連していたのです。それが事実だとすると、これは周産期医学の研究の中で “一大発見”なのです。
4−2 水中散歩が腎血流量に及ぼす影響
妊婦さんに「水中散歩」を推奨する理由の項でも述べましたが、水中散歩を開始して30〜40分経った頃から、排尿に行く妊婦さんが多くなります。入水中に1〜2回、プールから上がって1回、平均2〜3回排尿されます。この様に、水中散歩には陸上の散歩に見られない “利尿作用” があります。水中散歩に参加された妊婦さんには下肢の浮腫はまったく見られません。また、妊娠経過中にタンパク尿が出ても、水中散歩を始めて2〜4週間後にはタンパク尿は消える事が殆どです。水中散歩は陸上の散歩と違って、腎血流量を増加させる作用がある事が分りました。当院に重症妊娠高血圧症の妊婦さんが殆ど出ない理由は、水中散歩の利尿作用に妊娠高血圧症を防ぐという秘密が隠されていたのです。
5.妊娠高血圧症の原因
妊娠高血圧症の原因はまだ何も分かっていません。日本産科婦人科学会は、胎児に酸素や栄養を補給する胎盤で、何らかの物質が異常に作られ、全身の血管に作用し、病気(高血圧)を引き起こすのではないかと考え、研究が進められています。しかし、私は妊娠高血圧症の原因は子宮内の胎盤ではなく、腎臓に原因があると考えています。それには以下の根拠があるからです。
@ 妊娠高血圧症とは
妊娠高血圧症とは、妊娠20週以降から血圧が上昇する病気です。血圧が140/90mmhg以上を軽症、160/110mmhg以上になると重症妊娠高血圧症と診断されます。妊娠高血圧症が怖い理由は、妊婦が突然に痙攣を起こし意識を消失、脳出血を起こし助かっても障害を遺す、出血が止まらなければ死亡する。一方、胎児では発育が悪くなる。さらに、妊婦と胎児にとって最も危険な常位胎盤早期剥離は、妊娠高血圧症に合併している事が多いからです。今、分っている事は妊娠高血圧症の妊婦さんが増えていることです。
・内科学教科書によると、
何らかの理由で腎血流量が減少すれば、腎臓からレニンの分泌が促進され、血圧上昇作用を持つ 「レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系」が活性化され高血圧症となる。腎血流量が増加すれば、レニン分泌は抑制されRAA系は活性化されない。RAA系は、全身の血流量ではなく、腎血流量のみで分泌量が決定するため、何らかの障害で腎血流量が減少した時に、腎血管性高血圧症の誘因となる。
・久保田によると
私は妊娠高血圧症の病態を次のように考えています(久保田の仮説)。
妊娠高血圧症は冷え性や長時間のデスクワークなどに共通した下肢から心臓に戻る静脈還流量の減少が腎臓に血流障害を引き起こし、それが長期化する事によって(妊娠)高血圧症が発症するという仮説を立てました。妊娠高血圧症の患者さんに下肢の浮腫、尿中にタンパクが出るのも腎臓の血流障害が原因と考えています。
A 水中散歩が(妊娠)高血圧症を防ぐメカニズム
水中散歩をすると何故 血圧が上昇しないかのメカニズムを考えました。水中散歩(水圧+浮力+下肢の筋肉運動)⇒静脈還流量の増加⇒腎血流量増加⇒レニン分泌抑制⇒高血圧症の予防と考えました。私は、RAA系のレニン説(腎血流量の減少)が妊娠高血圧症の原因と考えています。つまり、腎血流量を増やす工夫を日常生活に取り入れれば、妊娠高血圧症は予防できると考えられるのです。では、どうすれば腎血流量を増やすことができるのでしょうか。それが、私が開業以来行ってきた水の力(水圧+浮力)を応用した「水中散歩」なのです。
―妊娠高血圧症は冷え性症候群か?―
冷え症が慢性化すると全身臓器に血流障害(病気)を引き起こします。冷え性は末梢血管の収縮で、それ自体は病気ではありませんが、冷えを放置すると消化管・腎臓・子宮など全ての臓器に血流障害を引き起こし、それまで正常に働いていた臓器に機能障害を引き起こします。
妊娠高血圧症の妊婦さんは、高血圧、足の浮腫、尿タンパクが出て、頭痛・肩こり・便秘の人が目立ちます。肝機能も悪くなります。また妊婦にとって最も危険な胎盤早期剥離の半数は妊娠高血圧症に合併すると言われています。妊娠高血圧症の妊婦さんをよく観察すると、私には、妊娠高血圧症は単独の病気ではなく、静脈還流量の減少によって生じた複数の臓器の機能障害が互いに関連し合って出来た病気、つまり「冷え性症候群」に見えてきます。妊娠高血圧症の原因はまだ何も分かっていませんが、私は冷え性つまり持続的な末梢血管収縮が腎血流を減少させ、血圧を上昇させていると考えました。私の予測が事実ならば、妊娠高血圧症は冷え性を改善し、腎血流量を増やせば予防できると考えています。当然、妊娠高血圧症に付随して見られる頭痛・便秘・浮腫・肝機能の異常・胎盤早期剥離も減少すると思われます。私が、妊娠高血圧症の原因が “腎血流減少説” を強調する背景には、下肢から心臓にもどる「静脈還流」を増やす水中運動を行った妊婦さんには、妊娠高血圧症は殆んど出ないからです。
―妊娠高血圧症のメカニズム―
心臓から腎臓に送られた動脈血は静脈血となり心臓に戻ります(図6)。しかし、腎臓には腎静脈血を心臓に戻すためのポンプ(圧)がありません。腎静脈血が心臓に戻るためのポンプ(圧)は、下肢から心臓に戻る静脈還流の力(陰圧)に依存しています。例えば冷え性で末梢血管が収縮し静脈還流量が減ると、腎静脈血の心臓へのリターンが遅くなります。その結果、腎臓に入る動脈血、腎臓から出て行く静脈血、つまり、動脈(陽圧)と静脈(陰圧)の圧バランスが崩れ腎血流量は減少します。
一方、水中散歩(水圧+浮力+筋肉運動)で静脈還流量が増えると、腎静脈血は増えた静脈還流(陰圧)に引っ張られ心臓への戻りが促進されます。その結果、腎動脈(陽圧)と腎静脈(陰圧)の圧バランスが改善され、腎臓を循環する腎血流量が増し、利尿作用が生じると考えられます。同時に、血圧上昇因子であるレニン分泌は低下します。妊娠高血圧症は妊娠初期からではなく、妊娠20週以降から血圧が上昇する病気と定義されていますが、それは妊娠20週頃から妊娠子宮が大きくなり、増大した子宮によって下肢から心臓に向かう下大静脈を圧迫し静脈還流の流れを妨げているからと考えられます。静脈還流量に依存した腎臓から出ていく腎静脈血流(OUT)と腎臓に入る腎動脈血流(IN)のバランスの違いは子宮胎盤の血流においても同じ事が言えるのです。
6.水中散歩が子宮胎盤血流に及ぼす影響
母親の心臓から子宮に行った動脈血は胎盤を介して胎児に酸素と栄養を運搬します。胎児に酸素と栄養を届けた血液は子宮内で静脈血となり子宮から出て、再び心臓に戻ります。ところが子宮静脈血の心臓への戻りが遅いと、胎盤側に血液が貯留し、胎盤の静脈怒張(図8)・出血(図9・図10)・浮腫(図11)が超音波で観察されます。また子宮筋層には局所性の子宮収縮(図14)がしばしば観察されます。私は子宮筋層の局所性子宮収縮は腓腹筋(下肢)の“こむら返り”と同じ様な現象と考えています。その局所性子宮収縮を超音波で観察すると、一見 子宮筋腫と同じ様に見えますが、安静にすればいつの間にか消失しています。水中散歩による子宮胎盤血流障害の改善例を超音波画像でお見せしましたが、この様な静脈怒張・出血・浮腫みは胎盤だけに見られるのではなく、全ての臓器に同様のことが起こっていると思われます。近年、日本の赤ちゃんは小さくなったと言われますが、冷え性の妊婦や長時間のデスクワークが増え、子宮胎盤血流量の減少で胎児に運ばれる栄養が少なくなった可能性があると推測しています。
―胎児発育に及ぼす影響―
妊婦の体重増加はカロリーの摂取量と消費のバランスで決まりますが、胎児の発育は「子宮胎盤血流量」に最も影響を受けます。母親がたくさん栄養をとっても「子宮胎盤血流量」が慢性的に減少すると、子宮内の胎児は順調に大きくなりません。低出生体重児(未熟児)を防ぐためには下肢から心臓にもどる「静脈還流」を増やす対策を日常生活に取り入れなければなりません。静脈還流量が減少すると、子宮胎盤血流量が減少し胎児に栄養が届かなくなるからです。静脈還流量を増やすためには、睡眠、お風呂(温泉)・温かい食事・適度の散歩などです。それらはまさに冷え症対策そのものです。妊婦の冷え性対策の特効薬は「水中散歩」です。水中散歩の腎血流増加(利尿作用)と子宮胎盤血流、消化管血流を増やす水の力(水圧+浮力+筋肉運動)は見事です。私が水中散歩で妊娠高血圧症と胎盤早期剥離を防ぐと言えば、産科医と助産師の皆さんは笑われるでしょう。でも本当なのです。次の章は飛ばさないで読んで下さい。
7.常位胎盤早期剥離(早剥)の原因と予防について
■常位胎盤早期剥離(早剥)とは
妊婦がある日突然に、子宮と胎盤との間に出血が起こり、胎盤が子宮筋層から剥離する母・児にとって最も危険な病気(出血性疾患)です。子宮と胎盤との間に出血が起こり、剥離面が拡がると、胎児に行く酸素量が減り、胎児は子宮内で死亡します。
子宮と胎盤との間の血腫 (凝血塊) が大きくなると血液凝固因子(血小板)が消費され、治療(帝王切開・輸血)が遅れると出血が止まらなくなり、妊婦は出血多量で死亡します。妊娠中になぜ胎盤が子宮からどの様なメカニズムで剥離するのか、そのメカニズムは何も分かっていません。常位胎盤早期剥離の発生頻度は、全妊娠の
0,5〜1,3%、80〜200人に1人の割合で発生すると報告されています。早剥の約50%は妊娠高血圧症を合併していると報告がありますが、早剥と妊娠高血圧症との因果関係についても、何も分かっていません。故に、早剥の予防法はなく、母児を救うためには早剥の早期診断(超音波診断)
と早期治療 (緊急帝王切開) だけが頼りです。
―胎盤早期剥離の発症メカニズムを研究―
私は、胎盤早期剥離のメカニズムを研究する目的で、正常分娩(分娩第3期)の児娩出直後から胎盤娩出まで、胎盤剥離と胎盤娩出の経過を超音波断層法で連続的に観察してきました。超音波で見た正常分娩(分娩第3期)の胎盤剥離のメカニズムは、産科学教科書(1965年)に記載されている機序と全く異なっていました。
■教科書の分娩第V期の胎盤剥離のメカニズム(GREENHILLS Ob.1965)
教科書には、児娩出後、後陣痛によって子宮-胎盤付着面の狭縮と“ズレ”が生じ、主に胎盤中央に後血腫をつくることによって胎盤剥離が起こると記載されています。
資料(図15)には、子宮筋層と胎盤中央部との間に血腫を形成し、順次増大、恰も常位胎盤早期剥離かのごとく胎盤は剥離し娩出している様子が描かれています。久保田の超音波による観察では、教科書にある後血腫像は認められませんでした。この20年間、当院では経膣分娩の全ての症例(約10.000例)に対して、胎盤剥離の経過を超音波で観察していますが、教科書と同様の胎盤剥離様式に遭遇した症例は一度もありません。
■久保田による分娩第3期の胎盤剥離のメカニズム
通常の分娩における分娩第3期の「胎盤剥離のメカニズム」に関する研究成果を、第116回 日本産科婦人科学会福岡地方部会(平成10年)で発表しました。以下が発表内容です(図16)。
(1) 分娩第3期の胎盤剥離は、子宮体部の筋層が狭部近傍から底部に向かって順次肥厚することによって促された。
(2)胎盤剥離が子宮内で終了するまでに後血腫像は認められなかった。子宮筋層肥厚による生物学的血管結紮が、剥離に先行したためと推察された。
(3)分娩第3期における出血は、主に胎盤由来と推察され、胎盤下縁の剥離面から出血していることがカラードップラー法で確認された。
(4)胎盤剥離が遷延した症例は子宮底部付着例であり、子宮狭部近傍が輪状に肥厚するために胎盤娩出が困難であることがわかった。
(5)胎盤娩出は後陣痛によって、子宮壁からあたかも滑るかの如く、下方へ移動していく様子が観察された。
■教科書(GREENHILLS Ob.1965)と久保田(1998年)の胎盤剥離の相違点
超音波断層法を用い分娩第3期の胎盤剥離の経過を観察した所、教科書に記載されている胎盤剥離のメカニズムと久保田の報告とでは、剥離の仕方に根本的な違いがある事が分りました。その違いは以下の通りです。
*超音波による観察では、児娩出の数分後から子宮筋の局所性収縮(肥厚)が始まり、その後、肥厚部位に一致して胎盤が子宮壁から剥離する様子が超音波断層法で確認された。しかし、教科書には胎盤剥離部位に一致した子宮筋層の肥厚は描かれていない
*胎盤剥離の開始部位は、最初に子宮下部から肥厚(剥離)が始まり、子宮体部から子宮底部へと肥厚を順次移動させ胎盤を剥離させる。教科書では、胎盤剥離は胎盤中央部から始まると記載されている。超音波で実際の胎盤剥離部位を観察すると、中央部から剥離する例は1例(約10.000人中)もなかった。
*実際の超音波検査では胎盤剥離面(肥厚部位)に出血像は確認できなかったが、教科書には恰も胎盤早期剥離と似た出血像が描かれている。
■教科書(J.P.GREENHILLS Ob. 1965年)の問題点
教科書は超音波断層法が開発される前の1965年以前に作成された資料である事から考えると、胎盤剥離のメカニズムは予想図と考えられる。
■結論(Kubota):胎盤早期剥離のメカニズム
妊娠中に発症する常位胎盤早期剥離は子宮筋の肥厚で胎盤剥離が始まることが超音波断層法で確認された。超音波による分娩第3期の胎盤剥離の観察では、子宮筋層の肥厚(局所性子宮収縮)なしで胎盤が子宮から剥離する症例は皆無であった。即ち、妊娠中の局所性子宮収縮(筋層の肥厚)は、胎盤早期剥離の前兆(危険因子)と考えられた。局所性子宮収縮の原因は、子宮胎盤血流量の減少に因ると考えた。水中散歩で子宮胎盤血流量を増やすと、局所性子宮収縮は消失するからである。また、胎盤早期剥離が便秘や妊娠高血圧症の妊婦に多く合併する理由は、それらの病因が同じ生活習慣病(末梢血管収縮⇒静脈還流量減少)によって引き起こされるからである。便秘は消化管血流量の減少、妊娠高血圧症は腎血流量の減少、胎盤早期剥離は子宮胎盤血流量の減少、どれも静脈還流量減少によって引き起こされる事が分った。
■当院における胎盤早期剥離の予防法
胎盤早期剥離を防ぐためには、冷え性(末梢血管収縮)の原因である過労、睡眠不足、タバコ、長時間のデスクワーク、運動不足、などの間違った生活習慣を改善し、下肢から心臓に戻る静脈還流量を増やすことです。浮腫・便秘・頭痛・肩こりの症状があり、下腹部がチクチク痛む人は産科医を受診し、超音波で子宮に局所性子宮収縮が無いかどうかを診て貰って下さい。子宮筋層が分厚く子宮と胎盤との間に出血像があれば仕事を休み、自宅安静にすべきです。当院では、超音波で子宮に局所性子宮収縮を認めた場合は水中散歩を推奨しています(図17)。産科医は子宮筋層の肥厚、および子宮/胎盤間の初期出血像の有無にも注意深い観察が必要です。当院で胎盤早期剥離が極端に少ない(出ない)理由は、子宮筋層に局所性子宮収縮を認めた際は、積極的に水中散歩を推奨しているからと考えています。
当院で重症妊娠高血圧症、胎盤早期剥離が極端に少なく、子癇(ケイレン)やHELLP症候群が1例(15,000例中)も発症しない理由は、当院の妊婦さんの約70〜80%が水中散歩に参加され、腎血流量、肝血流量、子宮胎盤血流量が正常に循環し、血流障害を防いでいるからと考えています。(尚、HELLP症候群とは、Hemolytic anemia(溶血性貧血)、Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)、Low Platelet count(血小板低下)である。)
■妊婦にとっても、冷え性は万病の元である
冷え性(末梢血管収縮)、つまり血管の攣縮(臓器の血流障害)によって以下の出来事が発生します。
*腎血流が低下すれば、@高血圧、A蛋白尿、?浮腫をおこし、
*子宮胎盤血流が低下すれば、胎児発育遅延・早産・胎盤早期剥離を起こす、
*脳血管が攣縮すれば、子癇(ケイレン)をおこし、
*肝血管が攣縮すれば、HELLP症候群を引き起こす
血管の攣縮を防ぐのが十分な睡眠・お風呂・禁煙・適度の散歩・快適な環境温度です。長時間のデスクワークはエコノミー症候群そのものです。安産の秘訣は、まず冷え性を治す事、長時間のデスクワーク、タバコを止める事が最低条件です。胎児が正常に育つかどうかは、下肢から心臓に戻る静脈還流量を増やすための工夫を日常生活に取り入れる事が大事です。
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