第6章 赤ちゃんに学んだ冷え性の科学

■赤ちゃん、元気ですか!
元気な赤ちゃんとは、顔色が良く、食欲(吸綴反射)があり、(胎)便が出て、栄養と水をきちんと摂って、体重が増えている赤ちゃんのことです。ところが、厚労省が推進する母乳育児推進運動(カンガルーケア+完全母乳+母子同室)を忠実に実践すると、赤ちゃんは食欲(吸綴反射)がなくなり、飲んでも直ぐに吐いてしまい、胎便排泄も遅く、重症黄疸が出る可能性が高くなります。仮に、食欲があったとしても生後3日間は母乳が殆ど出ていない為に、人工ミルクを補足しなければ容易に飢餓状態(脱水+低栄養)に陥ります。近年、出生時からの体重が10%以上も減少し、低血糖症・重症黄疸・脱水に陥る赤ちゃんが増えています(文献11)。その理由は出生直後のカンガルーケアで冷え症(末梢血管収縮)の赤ちゃんが増えた事、糖水・人工ミルクを飲ませない完全母乳哺育が普及し飢餓の赤ちゃんが増えた事が原因です。つまり、厚労省・日本周産期新生児学会、他7学会が推奨する出生直後からのカンガルーケアと完全母乳哺育は、元気に生まれた赤ちゃんを正しく育てる方法とは思えません。

■現代産科学は、発達障害の危険因子である“低血糖症” を見逃している
福岡市の発達障害児は完全母乳哺育が普及した1993年頃から増え始め、2007年のカンガルーケア導入後から驚異的な勢いで増加しています(図21)。日本の寒い分娩室(約25℃)で行う出生直後からのカンガルーケアと母乳が殆ど出ていない生後3日間の完全母乳が赤ちゃんを「冷え症」と「飢餓」に陥れ、元気に生まれてきた赤ちゃんを不健康(低酸素血症・低血糖症・重症黄疸・脱水・著しい体重減少)にしているのです。高インスリン血症児(図22)をカンガルーケア(冷え症)と完全母乳(飢餓)で管理をすると、ほぼ確実に低血糖症に陥ります(図23)。低血糖症の脳への影響は、低血糖の程度と持続時間で決まります。しかし、赤ちゃんが低血糖に陥ったとしても症状が表に出ないために血糖検査は行われていません。つまり、現代産科学は、赤ちゃんに最も危険な脳に障害を遺す “低血糖症” を見逃しているのです。厚労省の母乳育児推進運動が始まった時期に一致して発達障害児が急激に増え出した理由は、出生直後の赤ちゃんの冷え性と飢餓を防ぐ「体温管理」と「栄養管理」を怠っているからと考えられます。

■カンガルーケアを強引に推奨した厚労省と日本周産期新生児学会
昔は、赤ちゃんを元気に育てるために「産湯」に入れ冷え性を防いでいましたが、カンガルーケア(早期母子接触)が導入されてから、産湯は姿を消したのです。ところが、寒い分娩室でカンガルーケアを行う様になってから、福岡市では発達障害が驚異的に増えています。理由は、寒い分娩室でカンガルーケアをすると、赤ちゃんは冷え性(持続的な末梢血管収縮)に陥り、肝臓における糖新生が抑制され、また熱産生に多くの糖分が消費され低血糖症を引き起こすからです。

2007年に厚労省は、『授乳と離乳の支援ガイド』を作成しカンガルーケアを推奨しましたが、その支援ガイドの作成段階で、私は日本の寒い分娩室でカンガルーケアをすると低血糖症(発達障害)が増えるとカンガルーケアの導入に反対していました。しかし、私の意見は聞き入れて貰えず、座長(元東大小児科教授)は助産師1人の非科学的な意見を聞き入れ、検証もせず、「カンガルーケア」を「早期母子接触」に名称を変えただけで「授乳と離乳の支援ガイド」を強引に公表したのです。その後、日本周産期新生児学会、他7学会は産湯の重要性を無視し、2012年に「早期母子接触」実施の留意点を発表、現在に至っています。

しかし、出生直後のカンガルーケアに警鐘を鳴らしていたのは私だけではありません。2008年、こども未来財団は分娩直後に行われる母子接触(分娩直後のカンガルーケア)の実態を把握するために、全国の「赤ちゃんにやさしい病院」を対象に実態調査を行っていました。42施設から回答(回答率87.5%)が得られ、23施設(54.8%)で、原因不明のチアノーゼ、心肺停止、体制が崩れて転落しそうになったといった事例 57例を報告していたのです。厚労省は、こども未来財団の「妊娠・出産の安全性と快適性確保に関する調査研究」で、分娩直後のカンガルーケアの危険性を把握していたにもかかわらず、「授乳と離乳の支援ガイド」の策定に関する研究会(座長)は助産師一人の助言で「カンガルーケア」を「早期母子接触」に名称を変えただけで、強引に「授乳と離乳の支援ガイド」を公表していたのです。

■赤ちゃんの冷え症に注意!
約38℃の温かいお腹の中から、約13℃も低い25℃前後の寒い分娩室に生まれてきた赤ちゃんは、体温を37℃に維持するために末梢血管を持続的に収縮させ放熱を防ぎます。この時、赤ちゃんの手足は冷たく、所謂 冷え症の状態です(図2)。冷え性、つまり末梢血管が持続的に収縮すると下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少し血圧が低下します。静脈還流量が減少すると、全ての臓器の循環血流量が減少するため消化管の蠕動運動は抑制され哺乳障害を、肝臓での糖新生が抑制され低血糖症を促進します。冷え性は万病の元といわれますが、赤ちゃんの冷え症は大人以上に深刻です。何故ならば、冷え性は赤ちゃんに最も危険な肺高血圧症(チアノーゼ)を誘発し低酸素血症に陥らせ心肺停止を引き起こすからです。カンガルーケア中の心肺停止事故は寒冷刺激による肺高血圧症(チアノーゼ)と低血糖症が原因と考えられます。当院の様に、出生直後に温かい保育器(34℃)に入れ新生児の冷え性を防ぐ為のケアをきちんと行えば、カンガルーケア中の心肺停止事故は100%予防できるのです。現代産科学は、冷え性によって引き起こされる初期嘔吐・低血糖・黄疸などの適応障害(病気)を生理的な現象と考え違いをしている事は恐ろしい事です。日本で低血糖症・重症黄疸・脱水などで治療が必要な赤ちゃんが増えているのは、病気を生理的現象と考え、それらを防ごうとしないからです。つまり、産科学教科書は早期新生児の異常(適応障害)を正常と考え違いをしているのです(図1)。教科書が間違っているのですから、教科書(ガイドライン)に従うと、発達障害・医療的ケア児が増えるのは当然のことです。しかし、誰もガイドラインの間違いに気が付いていません。

■冷え症が肺高血圧症(チアノーゼ)を誘発する理由
元気に生まれた出生直後の赤ちゃんに肺高血圧症(チアノーゼ⇒低酸素血症)が起きるのは、新生児冷え症(末梢血管収縮=アドレナリン↑)が肺動脈を収縮させるからです。出生直後の赤ちゃんの呼吸循環動態を安定させるためには、先ず、環境温度を上げ、赤ちゃんの冷え性(末梢血管収縮)を防ぐことが何よりも大事です。当院で生まれた約15,000人の赤ちゃんに新生児肺高血圧症は1人も出ていません。つまり、カンガルーケア中の心肺停止事故(チアノーゼ)は、出生直後の体温管理(保温)を科学的根拠に基いて行っていれば防ぐ事が出来たのです。カンガルーケア中の心肺停止事故は母親・赤ちゃんに責任があるのではなく、出生直後の体温管理(保温)を適切に行わなかった病院側のミス(医原性疾患)と私は考えています。カンガルーケア中の心肺停止事故は、原因不明の乳幼児突然死症候群(SIDS)ではないと、私は確信しています。カンガルーケア中の心肺停止事故は冷え性(持続的な末梢血管収縮=アドレナリンON)が原因、SIDSは着せ過ぎなどによるうつ熱(持続的な末梢血管拡張=アドレナリンOFF)が原因だからです。

■出生直後の赤ちゃんの冷え性が血圧を下げるのは、何故か?
大人の慢性的な冷え性は高血圧症の原因となりますが、出生直後の赤ちゃんの冷え性は血圧を下げます。その理由は、赤ちゃんの心拍数が大人の約2倍と速いからです。寒い分娩室に生まれた出生直後の赤ちゃんは放熱を防ぐためにアドレナリンを分泌し、末梢血管を持続的に収縮することによって体温の恒常性を維持しています。ところが、赤ちゃんがアドレナリンを分泌し続けると、下肢の末梢血管を持続的に収縮するため血管抵抗が増し、静脈還流が下肢から心臓に戻るまでの所要時間が長くなります。大人の心拍数は1分間に60〜90回位ですが、出生直後の赤ちゃんはアドレナリンの作用も加わり、1分間に160〜190回と心拍数が著しく速くなっています。脈拍が速くなると、心臓(右心房)に血液が充満する前に心収縮が始まり、空打ち状態となり、一回の心拍出量が減少するため血圧が低下するのです。その証拠に、下肢の末梢深部体温の上昇、つまり冷え症(末梢血管収縮)が治っていくにつれて脈拍は遅くなり、心臓の空打ち状態は改善され血圧は次第に上昇し始めるのです。

赤ちゃんの血圧を上昇させる為には、心臓の空打ちを防ぐためにアドレナリンの分泌を抑えなければなりません。そのためには冷え性(末梢血管収縮)を防ぎ、赤ちゃんを一刻も早く恒温状態に安定させる必要があります。当院が出生直後の赤ちゃんを2分以内に34℃の保育器に入れ温める理由は、放熱抑制のためのアドレナリンの過剰な分泌を抑え、恒温状態に早く安定させる為です。人間は体温が恒温状態に安定している時に、呼吸循環動態・消化管機能・糖代謝などの生命維持機構が正常に作動するからです。

■日本産婦人科医会、虚偽の記者会見!
―出生直後のカンガルーケアに、体温上昇作用なし―
日本産婦人科医会の鈴木医師(同医会幹事 葛飾赤十字産院副院長)は、2012年1月18日に行われた第50回記者懇談会で、カンガルーケア(早期母子接触)には体温上昇作用があると発表されましたが、その体温上昇作用を科学的に検証した研究はどこにもありません。あるのはザンビアのデータ(後述)だけです。出生直後の寒い分娩室(約25℃)におけるカンガルーケアは赤ちゃんを温めるケアではなく、実際は、冷え症をつくる「冷やすケア」です。その証拠に、出生直後の赤ちゃんを母親のお腹の上に乗せると、母親は決まって「赤ちゃんは温かい!」と言います。母親の体温より赤ちゃんの体温(平均38、2℃)の方が高いからです。つまり、母親は赤ちゃんから熱を奪っているのです。このことからも、母親の体温で赤ちゃんを温める効果は100%あり得ません。

日本産婦人科医会はカンガルーケア(早期母子接触)には、「体温上昇作用」・「血糖上昇作用」・「呼吸循環動態の安定作用」があると公表しましたが、なぜ虚偽の記者会見をしなければならなかったのでしょうか。答えは簡単です。カンガルーケアの最中に赤ちゃんが低体温症に陥った事が世間に知られると、カンガルーケア中の心肺停止事故は冷え性(持続的な末梢血管収縮)が原因、つまり、体温管理(保温)を怠った病院側のミスと判断されるからです。また冷え症が長時間に及ぶと肝血流が減少、そのため肝臓での糖新生が妨げられ低血糖を促進する事が露呈するからです。学会幹事の鈴木医師がカンガルーケアに体温上昇と血糖値の上昇作用があると虚偽の記者会見を行ったのは、これからカンガルーケア裁判が増えることを見越して、カンガルーケアで低体温症(冷え性)と低血糖症に陥らせた事を裁判が始まる前に否定しておく必要があったからと思われます。日本産婦人科医会(幹事)が悪質なのはカンガルーケアに体温上昇作用があると虚偽の記者会見をしただけではありません。日本産婦人科医会発行(平成25年1月)の最新 『新生児のプライマリケア』に、完全母乳哺育の短所である飢餓(低栄養+脱水)を隠すための改ざんを行っていたのです(後述)。

■医学的常識を覆す日本産婦人科医会
日本産婦人科医会はザンビアのデータを引用し、『赤ちゃんが低体温症や手足が冷たくなった時は保育器に入れて保温するよりも、カンガルーケアで母親の体温で温めた方がより早く正常体温に安定する。』 つまり、学会は低体温症の赤ちゃんは保育器に入れる今迄の医療よりも、カンガルーケアで温めた方がより良い結果が出ると、医療現場に混乱を招く内容を発表したのです。

医学的常識を覆す日本産婦人科医会の発表で、医療従事者(特に助産師)がカンガルーケアの体温上昇作用を真面に信じ、冷たくなった赤ちゃんを保育器ではなくカンガルーケアを選択する事態が実際に起きているのです。その一例を紹介します。新生児室で生後10 時間目の赤ちゃんの手足が冷たくなり、冷たくなった赤ちゃんを助産師が新生児室からわざわざ母親の所に連れてきて、「手足が冷たいから抱っこして温めてください」、と言い残して助産師は部屋を出ていき、その後の観察もなかった。児は1時間後に心肺停止状態で見つかった。一命は取り留めたが、現在、脳性麻痺の状態で、意識が無いまま人工的に呼吸管理されている。赤ちゃんに優しい病院(BFH)に認定された病院(宮崎県)での出来事です。助産師が冷たくなった赤ちゃんをカンガルーケアではなく、保育器にいれ体を温めるケアをしていれば心肺停止は防げたのです。この事例も裁判になりましたが、産科医療補償制度の原因分析委員会が心肺停止の原因は『原因不明のSIDS(ALTE)と考えられる』と虚偽の報告書を提出したために、被告(病院側)は無罪になりました。この事例は私も意見書を書きましたが、実際は、病院側が低体温症と低血糖症を防ぐ管理を医学的根拠に基いて行っていれば心肺停止(脳性麻痺)は防げたと考えています。

―日本産婦人科医会が引用したザンビア(南アフリカ)の論文とはー
@ 温暖な国のデ−タである。出生直後でもなかった。つまり、出生直後の寒冷刺激を受けていない赤ちゃんのデータであり、日本の寒い分娩室(25℃)に生まれた正常新生児の出生直後のカンガルーケアのデータではない。
A 研究対象は、NICU入院中の早産児(平均33週〜34週)、低出生体重児(平均1890g〜2183g)である。
B NICU入院時の児の体温(直腸温)は低体温症(平均 34℃)であった。因みに、日本の寒い分娩室で生まれた出生直後の赤ちゃんの体温は平均38,2℃です。

このザンビアの資料(図24)は、低出生体重児で、しかも低体温症(平均 34℃)の赤ちゃんを母親にカンガルーケアをさせた時の体温上昇について述べた論文です。低体温症の赤ちゃんを温かい部屋でカンガルーケアをすると体温は当然上昇します。母親の体温の方が赤ちゃんの体温より高いからです。しかし、平均体温38℃の母親の胎内から生まれてきた赤ちゃんを寒い分娩室(25℃)で母親に出生直後にカンガルーケアをさせると、寒冷刺激(胎内と胎外の環境温度差=約13℃)が強いため体温下降を加速させます。寒い分娩室での出産直後の母親のお腹の上の体温(皮膚温)は出生直後の赤ちゃんの体温より低いからです。日本産婦人科医会がザンビアの論文を引用してまで、日本の寒い分娩室におけるカンガルーケアに体温上昇・血糖上昇の作用があると記者会見をしたのは、実際は、カンガルーケアに体温上昇作用・血糖上昇作用・呼吸循環動態の安定作用がない事を隠ぺいするのが狙いだったとしか考えられません。出生直後のカンガルーケアが低体温症と低血糖症を引き起こした事が国民に発覚すると、カンガルーケアを強引に推奨した厚労省・学会に責任問題が発生する事を恐れているとしか考えられません。

先進国である日本の周産期医療の臨床現場に、開発途上国における早産児、低出生体重児、低体温児の臨床データをなぜ参考文献として引用したのか、医会の発表は全く信用できません。ザンビアの論文は、出生直後のカンガルーケアの体温上昇説を裏付ける資料として引用するのは間違っています。厚労省は、日本の分娩室でカンガルーケアの体温上昇作用の検証が終るまで、カンガルーケア(早期母子接触)は直ちに中止させるべきです。カンガルーケア中の心肺停止事故(脳性麻痺⇒医療的ケア児)や発達障害が増える理由は、カンガルーケアに「体温上昇作用」・「血糖上昇作用」・「呼吸循環動態の安定」が無いからです。厚労省はカンガルーケアに「体温上昇作用」が本当に有るかどうかを直ちに検証すべきです。カンガルーケアに体温上昇作用がなければ、「血糖値の上昇」・「呼吸循環動態の安定」もあり得ません。日本でカンガルーケアが導入されてから発達障害が驚異的に増え続ける理由は、寒い分娩室での出生直後からのカンガルーケアが赤ちゃんを低体温・低血糖に陥れているからと私は考えています。尚、カンガルーケア中に心肺停止事故に遭い脳性麻痺になった赤ちゃんは、人工的な呼吸管理・痰を吸引するなど、医療的ケア児を増やす要因となっています。この10年の医療的ケア児の増加は、医学の進歩によると報道されましたが、実際は、カンガルーケア中に起きた心肺停止事故の事例が多く含まれているのです。

■低体温より恐ろしい新生児冷え症とは
温かい子宮内(38℃)から、約13℃も低い分娩室(約25℃)に生まれてきた赤ちゃんは急激な体温下降(低体温症)を防ごうとするために血管収縮ホルモン(アドレナリン)を分泌し、放熱を防ごうとします。しかし、このアドレナリンは手足の末梢血管を収縮させるだけでなく、心臓から肺に向かう肺動脈血管も収縮させるのです。そのため肺血管抵抗が増し、心臓(右心室)から出た静脈血は肺に流れにくくなり、血管抵抗の低い胎児期の動脈管に流れ込み、肺でガス交換をしないまま静脈血が大動脈に直接流入するのです。出生直後に赤ちゃんの皮膚が紫色になるのは、静脈血が肺でガス交換をしないまま動脈血に混入しているためです。この時、体温管理(保温)をしなければ、チアノーゼは次第に増強し、児は低酸素血症に陥り、心肺停止の原因になります。それだけでなく、寒い分娩室での出生直後からのカンガルーケアは、心肺停止を引き起こす新生児肺高血圧症と発達障害の原因である低血糖症を引き起こしているのです。母乳育児を推進するWHOは、『低血糖の予防と管理のための提言』と題して、母乳哺育に加えて『熱保護(正常の体温の維持)が必要』と、保温の重要性を強調していますが、日本の産科医・助産師はWHOの保温の重要性を見落とし母乳哺育だけを重視し、熱保護の大事さを見逃しているのです。

赤ちゃんの体温(直腸温)が正常(37℃)であっても、寒い部屋で体温管理(保温)を怠れば新生児は容易に冷え症(持続的な末梢血管収縮)になります。寒い部屋では、保温をしない限り冷え症は改善されません。冷え性が強くなると、下肢から心臓に戻る静脈還流量が減り、血圧が下がります。低体温症は発見が早く治療(保温)をしますので、ある意味安全です。しかし、中枢体温が正常(37℃)で、手足が冷たい冷え症の赤ちゃんには、だれも注意を払いません。周産期専門の医師でも新生児冷え性の危険性を知らないからです。低体温症より冷え性が危険な理由は、冷え性は体温管理(保温)をしないために新生児を肺高血圧症(チアノーゼ=低酸素血症)・低血糖症に陥らせるからです。出生直後の赤ちゃんを当院と同じように2時間だけ保育器(34℃⇒30℃)に入れるだけで、新生児肺高血圧症を防ぐ事ができるのです。当院から新生児肺高血圧症の赤ちゃんが開業以来 1人も出ていないのは、34℃の保育器に2時間 入れているからです。カンガルーケア中の心肺停止事故(脳性麻痺⇒医療的ケア児)は、冷え性を防ぐための出生直後の体温管理(保温)を怠った為に引き起こされた医療事故(医原性疾患)と私は考えています。

■冷え症は発達障害の危険因子
日本の寒い分娩室で生まれる正常成熟新生児を保育器(34℃⇒30℃)に2時間入れ、冷え症(末梢血管収縮)を防ぐだけで発達障害(=低血糖症)は激減します。
日本では赤ちゃんを冷やす出生直後からのカンガルーケアが当たり前になりましたが、寒い分娩室で体温管理を怠ると赤ちゃんの冷え症は確実に起こります。出生直後の赤ちゃんの冷え症は呼吸循環動態を不安定にするばかりでなく、低血糖症を招き、脳に永久的な障害を遺す危険性を持っています。昔、日本に発達障害児が少なかった理由は、昔の産婆さんは出生直後の赤ちゃんを “産湯”に入れ冷え性を防いでいたからです。