第13章 日本のお産の常識が生まれ変わる時
お産は痛いのを我慢するのが当たり前(自然分娩)、生まれたら体温が2℃下がっても当たり前(生理的体温下降)、赤ちゃんは吐くのが当たり前(生理的初期嘔吐)、赤ちゃんの体重は10%〜15%下がっても当たり前(生理的体重減少)、赤ちゃんは黄疸が出ても当たり前(生理的黄疸)など、産科学は赤ちゃんに都合の悪い非生理的な現象を、どれも生理的現象(正常)と考え違いをしています。臨床体温が専門の麻酔医(私)の眼には、それらは全てが非生理的(危険)な現象で、どれも予防が必要な病気と考えています。
■出生直後の赤ちゃんは “低体温ショック”
これはショッキングな話です。
産科学教科書では、出生直後からの2℃〜3℃の体温下降を生理的体温下降と定義していますが、本当は “低体温症”と改めるべきです。日本のお産の常識の中で一番の間違いは、低体温症を生理的現象と定義していることです(図1)。私は、出生直後の低体温症を一過性の “低体温ショック”の状態と考えて体温管理(保温)を行ってきました。何故ならば、出生時からの体温下降を1℃に抑える工夫をすれば、これまで生理的現象と考えられていた初期嘔吐が出なくなり、食欲が出て、胎便排泄が早くなり、重症黄疸も出なくなり、体重減少を5%以内に抑える事ができるからです。出生後2分以内に、赤ちゃんを34℃の保育器に入れ著しい体温下降を防ぐと、生後15分〜30分以内に赤ちゃんは両目を開け、指しゃぶりを始めます。それは赤ちゃんが恒温状態に安定した事を意味します。冷え性(持続的な末梢血管収縮)の時、赤ちゃんは眼をあけようとせず、指しゃぶりもしません。赤ちゃんは、5本指を握りしめたままで、指を開こうともしません。ところが34℃の保育器に2時間入れると冷え症がなくなり、糖水・人工乳を飲ませても初期嘔吐もなく、胎便も早く出て、発達障害の危険因子である低血糖症・重症黄疸・脱水をほぼ100%防ぐ事が出来るのです(図26)。
これまで発達障害の原因が見えなかった理由は、産科学教科書の生理的現象の中に、その秘密(低血糖症)が隠れていたからです。昔、日本には発達障害児は殆んどいませんでした。昔の産婆さんは、出生直後の赤ちゃんを産湯に入れ低体温症を防ぎ、温かい部屋で冷え性を防いでいたからです。現代産科学の一番の間違いはカンガルーケアを導入し、昔の産湯を廃止したことです。私は、昔の産湯を復活させ、母乳の出が悪い時に人工ミルクを飲ませるだけで発達障害児は激減すると確信しています。
―産科学教科書(ガイドライン)の見直しをー
発達障害を防ぐためには、産科学教科書(ガイドライン)を見直す必要があります。出生直後の低体温症・初期嘔吐・低血糖・黄疸・10%の体重減少は生理的現象と定義されていますが、本当は、予防が必要な非生理的な現象だからです。私が赤ちゃんに学んだ冷え性の科学とは、出生直後の低体温症に始まり、冷え性(持続的な末梢血管収縮)⇒チアノーゼ(低酸素血症)⇒初期嘔吐⇒哺乳障害⇒低栄養+脱水⇒著しい体重減少⇒低血糖症・重症黄疸、つまり、低体温症から低血糖症・重症黄疸に至るまでの経過が『冷え性は万病の元』を意味しているのです。新生児管理で最も大事な事は、出生直後にカンガルーケアを推奨するのではなく、冷え性(持続的な末梢血管収縮=アドレナリンON)を防ぐための体温管理(保温)を厳重に行うことです。
―当院の新生児管理法(保温)に反論する国立大学病院の医師たち―
私は、2013年9月に福岡産科婦人科学会で、当院で出生した1万783人の赤ちゃんの重症黄疸の発生(率)と予防法に関する研究結果を発表しました。目的は発達障害を防ぐために当院の新生児管理法(保温+超早期混合栄養法)を会員に紹介、全国に普及したかったからです。ところが、会場からの質問は大学関係者からの信じ難い発言で、当院の新生児管理法(保温)を批判するものでした。大学関係者からの嫌がらせは、そればかりではありません。私の学会発表を『論文にしてはいけない』のパワハラを受けたのです。学会で発表した当院の体重発育曲線(図33・図34)が医学論文として表に出ると、日本産婦人科医会が平成25年1月に発表した最新 『新生児のプライマリケア』(図31)の内容が如何におかしな内容であるかが露呈するからです。それ以来、私は大学が信用できなくなったのは云うまでもありません。私の学会発表の内容は共同新聞が全国に配信しましたが、なぜか地元紙はどこも未掲載でした。
★共同通信の記事(2013年9月11日 配信)
<新生児温め黄疸防ぐ 福岡の医院、発症率低減>
多くの新生児が発症し、重症化すると脳に障害を与える黄疸(おうだん)を防ぐため、福岡市中央区の久保田産婦人科麻酔科医院が、産後すぐに温度の高い保育器に入れ、さらに糖水を与える「温めるケア」を開発した。新生児1万人に実施し、従来の発症率より大幅に低減できたとしている。15日の福岡産科婦人科学会で発表する。治療が必要な重症黄疸の発症率は、関西のある総合病院の新生児集中治療室(NICU)では所属医師によると21・0%(715人中150人)。全国的な統計はないが、複数の医師は「病院によって異なり、5〜20%だろう」と話す。一方、久保田医院は1万783人中、発症は22人(0・2%)だった。
久保田史郎院長は、新生児が38度の母親の体内から20度台の部屋に出てくると体温が急激に2〜3度低下することに注目。これを低体温症と判断し、出産1分後に34度の保育器に1時間、次に30度の保育器に1時間入れてから母親に渡す方法をとった。さらに、生後間もなく糖水を与えて体重低下と低血糖を抑えると、ほとんどの新生児が12時間以内に排便し、黄疸の原因物質ビリルビンを排出した。
この方式には批判もあり、福岡県内のベテラン助産師(51)などは「体重2500グラム未満の低出生体重児だけでなく、健康な赤ちゃんも保育器に入れるのは過剰なケアだ」と指摘する。それでも久保田院長は「低体温症を防ぎ、栄養補給して黄疸を防ぐことが先決」と話している。以上、共同新聞記事
★『分娩室の温度を下げる べからず』
2015年発行の周産期医学(VOL.45 増刊号)の周産期診療 べからず集に、岡山大学小児科の岡村朋香先生が書かれた『分娩室の温度を下げる べからず』の掲載記事を偶然に見つけました。企画は『周産期医学』編集委員会、責任編集には日本を代表する新生児科医と産科医の6人の名前があります。どんな事が書いてあるのか、興味深く本を読んでいるうちに「私の考えと同じだ!」と思わず叫びたくなりました。学会がよくぞ『分娩室の温度を下げる べからず』を掲載してくれたことに嬉しくなったのです。嬉しい事は、それだけではありません。岡村先生は引用文献に、私が、日本母乳哺育学会(平成19年9月)で助産婦に野次を飛ばされた「日本の分娩室は寒過ぎる」と題して発表した論文が引用されていたからです。助産師は当院の新生児管理法(保温)を科学的根拠もなく批判しますが、周産期学会は保温の重要性を認めてくれたのです。以下が、岡村論文の要旨です。
★岡村医師の論文 ―分娩室の温度を下げる べからずー
岡村朋香 岡山大学小児 周産期診療 べからず集 (東京医学社)
周産期医学 2015 VOL.45 を引用
『胎児の環境温は母体の体温と等しく、新生児は分娩後に低い環境温にさらされることになる。保温を適切におこなわなければ急激な体温の低下を来し、容易に低体温に陥ることが知られている。とくに、新生児は熱を喪失しやすく熱産生も少ないことから容易に低体温になりやすく、新生児寒冷障害となり無呼吸、徐脈、不整脈、心不全、腎不全、低血糖、代謝性アシドーシスおよび凝固能異常等の重篤な合併症を生じる』
新生児にとって最適な分娩室の温度とはどれくらいなのか。
余分なエネルギーを使用しなくても体温を保つことができる温度環境を中性温度環境と呼ぶ。中性温度環境は、出生体重や週数、日齢によって異なる。Hey らの報告によると体重2〜3kgで日齢 2以降の正期産新生児が裸であった場合には34℃以上の室温でないと熱喪失量が増加することが知られている。室温が23℃の環境に着衣なしの新生児をさらした場合の熱喪失は、成人であれば0℃の環境に裸でいるのと同等であるとされている。生直後の新生児であればさらに高い室温が必要と考えられる。タオルや着衣で保温されていても室温が低いことはやはり低体温のリスクとなる。分娩環境が十分に整っていない国においては低体温により多くの新生児が生命の危険にさらされており、WHOはThermal Protection of the Newborn a practical guideで新生児低体温を防ぐよう勧告を出している。新生児保温の重要性は多くの医療従事者に認知されているが、保温において重要な因子である室温が盲点となっている。分娩にかかわる医療従事者は、低体温について より理解を深め、管理に努めなければならない。分娩室の室温を低下させることによって医原性に低体温を作りださないよう、常に留意しておく必要がある。
<引用論文:>
8)久保田史郎:日本の分娩室は “寒過ぎる”―出生直後の寒冷刺激の強さが、早期新生児の体温調節・糖代謝・消化管機能・ビリルビン代謝に及ぼす影響についてー日本母乳哺育学会誌 3(Suppl):70−74.2009
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岡村先生と『分娩室の温度を下げる べからず』の掲載を認めて頂いた責任編集の皆様に深く感謝します。
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■日総研セミナーで講演
2006年3月、私は助産師・看護師 20人を対象に、日総研福岡セミナーで当院の母親教室の「安産と予防医学」をテーマにした久保田式産科学を講演しました。参加者は20名、その中、下記の質問のアンケートに答えた人は助産師 8名、看護師 4名、未回答 8名)でした。
@ 今回のセミナーに参加された動機をお聞かせ下さい
・母乳栄養の利点ばかりが強調される時代で、母乳栄養のデメリットを聞いてみたかった
・新生児の体温管理や黄疸について学びたかった
・母乳哺育を目指していて人工ミルクを一滴も飲ませないのが成功したような感じがしていましたが、人工ミルクも必要というタイトルが自分の考えに逆行していると思っていたから。
・黄疸と低体温との関係を知りたかった
・今までの新生児管理と全く違っていたから興味が湧いた
・日頃の何気ない処置が児に悪い影響を及ぼしているのではと思っていたから
・出生後の沐浴についての賛否と関連して、低体温について興味があった
・現在の哺乳体制、新生児収容のやり方。
A 今回のセミナーにはご満足いただけましたでしょうか
満足:12名、
やや満足:0名、普通:0名、やや不満:0名、不満:0名 (N=12)
B 満足の理由
・新生児に起こる色々なトラブルの根拠が理解できた、
・大変満足しています
・今までやってきたことがベビーのためになっていないという事が、分り易く説明され理解できました
・違う方向からの見方ができた
・新生児の管理について知らないことを学べました
・ベビーのために何が一番大切かを改めて考える事が出来た
・今までの方法が良くない事が分り易く説明された
・環境温度の大切さなどが良くわかった
・新生児の管理について知らなかった事が沢山知る事が出来た
・体温、栄養管理の大切さを改めて学べた
C 現場で役立てそうな内容
・すべて 4人
・高ビリルビン血症予防におけるケア
・病棟に戻り日頃のケアを見直すことが出来る
・体温管理、超早期栄養
・環境温度と妊娠指導
D 講師へのメッセージなど
・当病院に来て頂き、講義をしてもらいたい
・研究データを基に話をされているのでとても参考になった
・素晴らしかった
・これからのご活躍を祈念します
・先生の母親教室を見学したい
・またこういう機会をお願いします
以上
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上記のアンケート結果は、日総研の担当者から送ってきました。今回のセミナーにはご満足いただけましたでしょうかの質問に、全員が 満足12名でした。担当者の方から、全員満足は初めての事で驚いている、のコメントを頂きました。
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■久保田式産科学(安産と予防医学)のセミナー開催のご案内
日本の助産師さんは、赤ちゃんに不利益な生後3日間の「完全母乳」と出生直後の「カンガルーケア(早期母子接触)」が赤ちゃんに良い事だと、助産師学校やお産の現場で先輩たちに間違いを刷り込まれています。日本で発達障害が驚異的に増えている今、助産師(学生)さんに正しい知識を持って貰うことが、発達障害・医療的ケア児を防ぐ早道と考えています。私は久保田式産科学(妊娠・分娩・新生児管理法)を全国に広めたいと考え、セミナーを準備中です。妊婦と赤ちゃんの冷え性対策・当院の温める新生児管理法・妊婦の栄養管理・水中散歩の冷え性対策および妊娠高血圧症・胎盤早期剥離の予防策・SIDS予防策・当院の母親教室など、盛り沢山です。研修を希望される方はメールでご連絡をお待ちしています。母親教室の内容は、当院のHPに掲載しています。また全国に妊婦の水中散歩を広めるために、実際に水中散歩も体験して頂く予定です。参加希望者が30人以上集まり次第、一泊2日の予定で開催する予定です。日総研セミナー(2006年)のアンケート調査でお分かりの様に、今までの日本のお産の常識が非常識であった事に、きっと驚かれるでしょう。準備が出来次第、当院のHPに 『セミナーのご案内』の詳細を掲載します。
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