陰部神経ブロック法 -われわれの工夫-
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はじめに
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現代の妊婦さんは痛過ぎず、満足いくお産を望まれている。妊婦さんが期待される理想のお産とは何か? 麻酔医が少ない我国のお産の現場で、母児にとって安全な産科麻酔法
とは何か? そのことを知ることが、産科医がどの麻酔法を選択すべきかの決め手となる。当院では過去12年間、経膣分娩の全症例(約6000例)に和痛と安産効果を目的として陰部神経ブロックを行ってきた。本法を選んだ理由と目的について述べる。 |
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無痛分娩の種類と特徴(長所、短所)
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全身麻酔は産婦に意識低下をもたらすだけでなく、児にも麻酔薬が移行しSleeping
Baby になる事が報告されている。出産直後の児の啼泣(産声)は体温調節に重要な役割(熱産生)を果たしている。睡眠(筋緊張低下)は熱産生を低下させ、児の低体温化に拍車をかける。新生児早期の体温下降は消化管血流量を減少させ、吸綴反射の低下、初期嘔吐の原因となる。産婦の意識低下や児の筋緊張低下(睡眠)を招く様な産科麻酔法は母児にとって不利益である。 |
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硬膜外麻酔は分娩第1期、2期の長時間、広範囲の痛みを緩和するのに優れているが、広範囲の麻酔作用はしばしば微弱陣痛や血圧下降を招き母児管理の上で不都合な事がある。 |
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硬膜外モルヒネ法は分娩第1期の鎮痛緩和には有効であるが、第2期には無効である。本法は、子宮収縮・呼吸循環器系への影響が無いことが特徴である。 |
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陰部神経ブロックは分娩第1期の下腹部の痛みを取れない。しかし、第2期の最も痛い産道・会陰部の痛みを取り、同部の筋肉を弛緩させるのが本法の長所。 |
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陰部神経ブロックの特徴
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ドイツでは一般的な産科麻酔法であるが、我国では余り普及していない。その理由として、本法は、分娩第1期の下腹部の痛みをとることができない、麻酔作用時間(90〜120分)が短い、等が考えられる。本法は最も痛い分娩第2期の産道・会陰部の痛みを取る事と、同部の筋肉を弛緩させることによって産道の抵抗を減らし、少ない力(子宮収縮)で児をよりスムーズに娩出し易くすることが特徴である。 |
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陰部神経ブロックの麻酔作用:
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●鎮痛効果 |
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(1) |
麻酔効果は数分で効き始め、産道・会陰部の痛みをほぼ100%とる事が できる。その効果を下図に示した。神経ブロック2〜3分後、痛みのスコアー
は3/10に減少した。鎮痛緩和によって過呼吸 は正常化し、筋肉の過緊張もとれ胎児心拍がきれいに記録された。 |
(2) |
鎮痛効果として、初産婦ではブロック前の産痛の60〜80%、経産婦では70〜90%を除痛できる。 |
(3) |
産道・肛門周囲の痛みが無いため、児娩出時に楽に“イキム”ことが出来る。 |
(4) |
過度の痛みは妊婦に過呼吸を招き児に低酸素血症(胎児仮死)をもたらすが、麻酔による痛みの緩和は子宮血流量を改善し、胎児仮死の予防・治療にも有効である。 |
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●筋弛緩作用 |
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産道・会陰部の筋弛緩作用に優れているため分娩第2期時間は短縮し、会陰切開・会陰裂傷・吸引分娩・帝王切開の頻度は著しく減少した。巨大児・骨盤位など難産が予測されるお産に本法は不可欠である。 |
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産科麻酔の目的
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“お産の痛み”の全てを取ることが産科麻酔の主目的ではない。局所麻酔のもつ鎮痛作用と筋弛緩作用が和痛と安産効果に役立ち、しかも子宮収縮などの自然現象を損なわず、母児に対する薬剤の副作用が少ない産科麻酔が理想の無痛分娩法である。お産は最後が痛い、その痛みをとり、産道を弛緩させ、自然分娩の短所を補うのが陰部神経ブロックである。当院で陰部神経ブロック法を選択した理由は、妊婦の希望と本法の安全性・安産効果に優れている点からである。 |
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文献 |
久保田史郎:陰部神経ブロック法 われわれの工夫、久保田産婦人科麻酔科医院の工夫について教えて下さい、臨婦産・58巻4号532〜535、2004、より引用 |
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