本当の自然/正常分娩とは
 現代では自然派志向がもてはやされていますが、自然分娩といってもすべてを自然に戻すことはできないのです。自然分娩という言葉の響きに惑わされてはいけません。医療の手を離れた自然分娩がどのていど産婦さんや赤ちゃんの安全性を保証するかについては、過去のお産の歴史が証明しています。陣痛が始まるまで正常であった妊婦さん(子宮の中の赤ちゃんも含めて)の18%(6人に1人)にリスクが生じるという報告もあります。お産は終わってしまうまでわからないのが現実です。周産期医学が現在ほど発達していなかった数10年前であればいざ知らず、「お産と予防医学」で述べたように、現代の医学はより安全なお産を提供できるのです。
 お産の痛みに関しても、お産の痛みのすべてを我慢することが現代の自然/正常分娩ではないのです。我慢できない過度の痛みは積極的に取り除き、産婦さん自身と赤ちゃんのために安全で満足度の高い正常分娩を選択すべきなのです。現代の本当の自然/正常分娩とは、産婦さんと赤ちゃんがより正常になるように適切な医療を加味したお産なのではないでしょうか。
 出産という自然現象の中には自然だけでは解決できない多くの問題が含まれています。それらの問題の中には、未だ解決不可能な難問もあります。科学の進歩とは、それらの問題を解決するために人類が成し遂げた「知恵の積み重ね」なのです。われわれは幸いなことに、それらの科学の恩恵を少しだけ受けることができます。自然の長所を生かし短所を補った医療をする。すなわち「自然と科学の調和」が、現代の自然/正常分娩に求められているのではないでしょうか。
 大自然の中には晴れの日も雨の日も/正常も異常も混在しています。自然界では雨の降りすぎは洪水となり晴天が続けば渇水となります。お産においても、ほどほどの雨/ほどほどの痛みを感じることの方が、より自然/正常のように思われます。