[ まとめ ]
 恒温動物であるヒトは環境温度の変化に対し産熱機構と放熱機構を調節し体温の恒常性を維持しています。しかし、睡眠中の赤ちゃんは高温環境や、着せすぎ等によって放熱機構(冷却装置)を著しく妨げられた環境下では容易に高体温(うつ熱)状態となります。大人は不快な外的環境に対して、それなりの対応ができます。しかし、寝返りをしたり、靴下を脱いだり、フトンを蹴飛ばすことのできない赤ちゃんは、我々大人が快適な環境であるかどうかの判断をし安全な対応をしてあげなければなりません。昼間は人目も多く明るいために赤ちゃんの異常(高体温)に早く気づきニアミスですみますが、夜は暗い上に大人も眠っていることが多いために発見が遅れ、赤ちゃんの"うつ熱”状態は進行し取り返しのつかない事態が起こりかねないのです。
 外的環境因子が原因となって高体温“うつ熱”状態になった赤ちゃんは、体温を正常に保つための手段として、熱産生を抑えるために深い睡眠・筋緊張低下・体動の減少などの行動を余儀なくされます。それは、人間がもつ恒温動物としての当たり前の行動なのです。その産熱抑制が長時間つづくことが睡眠中の乳幼児の生命維持装置に重大なトラブルを引き起こすと考えられるのです。
 この新仮説を要約すると、SIDSは次の3つの要因が重なり合った場合に発症しやすいと考えられます。
1)高体温(うつ熱)を引き起こす外的環境因子(育児環境)
(1) 放熱機構を妨げる衣服(帽子・手袋・靴下など)やフトンの着せすぎ
(2) うつ伏せ寝(放熱効率の高い腹部側からの放熱障害)
(3) 高温環境下に長時間寝かされた場合
(フトンの中、暖かい車内、ストーブ等の側、ホットカーペットの上、保育器の中、沐浴中など)
2)赤ちゃんの特性
(1) 暑いという“危険信号”を言葉で発することができない
(2) 不快な外的環境(高温)から逃げ出すことができない
3)ヒトは恒温動物である
(1) 高体温(うつ熱)の赤ちゃんは産熱抑制のために深い睡眠と筋緊張の低下を持続させる。
(2) うつ熱状態が改善しない限り、寒冷刺激が加わらず睡眠からの覚醒が遅れる
長時間の深い睡眠と筋緊張低下は呼吸抑制(低酸素血症)を引き起こす
(3) 環境温度が上昇するに従って赤ちゃんの酸素消費量は増加する。
(4) 末梢血管拡張時とくに睡眠時にはカテコールアミン分泌は抑制されている。
 以上、2)、3)の項目は、ヒトの赤ちゃんがもった“特性”です。1)は大人が注意しなければいけないことです。我々大人は、この特性をよく理解した上で、赤ちゃんにとって快適で安全な育児環境を準備してあげることが何よりも重要なことなのです。