【SIDSを防ぐために】
 一般に、赤ちゃんは“寒さに弱い”と考えられがちですが、“暑さに弱い”と考えていた方が安全です。そして、なぜ赤ちゃんが暑さに弱いのかを知っておくことがSIDSを未然に防ぐための秘訣です。
 赤ちゃんが睡眠に入ると、睡眠は次第に深くなり、筋肉の緊張低下と共に交感神経系の応答が低下します。その結果、心拍数の減少や、手足や皮膚の末梢血管の拡張が起こり、放熱量が増加します。この時、布団の中の温度や湿度が適切であれば、放熱によって体温が低下するため、寒さを感じた赤ちゃんは、交感神経系の応答を亢進させ、末梢血管を収縮させ、放熱量を減少させます。このような時は、同時に心拍数も増加し筋肉の緊張も出現し睡眠が浅くなっています。睡眠が浅くなった時点で、寒さが続いたり/誰かが触ったり/音や空腹などの刺激が強いと目覚めますが、刺激がなく、筋緊張の増加や放熱量の減少によって体温の上昇が起こると、再び深い睡眠に戻ります。
 睡眠中の赤ちゃんは、このように末梢血管の拡張(放熱=末梢体温上昇)と収縮(放熱の中止=末梢体温低下)を繰り返しながら体温を調節しています。
 しかし、眠った赤ちゃんに、衣類の着せ過ぎや、布団の掛け過ぎがあると、赤ちゃんの衣服内や布団の中と、布団の外部との間に熱や湿度の交流がなくなり、赤ちゃんの周囲は遮断された環境となります。そのような状況で、眠った赤ちゃんが放熱を始めると、赤ちゃんの周りの衣服や布団の中の温度が上昇し、赤ちゃんの周囲に熱が蓄積されるようになります。温度が高くなると赤ちゃんは汗をかきますが、赤ちゃんの周囲が厚着や布団などで外界と遮断されているため、湿度もすぐ上昇し飽和状態となり、気化熱によって冷やされることもなくなります。このような状況では、睡眠中の赤ちゃんの体温は下降しません。そのため、交感神経系の応答は低下し続け、筋緊張も低下し、刺激に対する応答も低下した状態が持続します。このような高温状態では、赤ちゃんの呼吸は弱く浅くなり低酸素血症が出現しますが、深い睡眠が持続するため、低酸素血症は更に進行します。
 大人は暑い時は自分で窓を開けたり、衣服を脱いだり、フトンを蹴飛ばすことができます。しかし、1歳未満の乳幼児は「暑い」と言えないばかりか衣服を脱いだり寝返りもできません。寝返りや硬い布団は隙間を作って空気の出入りを良くし、布団の中の温度や湿度を下げています。大人は、赤ちゃんが暑がっているかどうかを、常に注意する必要があります。赤ちゃんにどれぐらい着せるかは、その時の気候や部屋の温度/湿度によってことなりますが、赤ちゃんが寒すぎず/暑つ過ぎず、常に適度な温度で睡眠ができるためには、赤ちゃんの帽子や靴下を脱がせ、固めのマットや吸湿性や通気性の良い薄い寝具を用いたりすることが必要です。
 大人が添い寝して寝返りをすると、布団の中の空気がかなり入れ代わります。時々赤ちゃんの頭や手足に触れて、汗をかいていないかどうかを見ることはもっと重要です。頭に汗をかき、手足共に温かい時は、暑過ぎる時です。汗をかいているときは布団などかけなくても肌着だけで十分です。
 人工乳(ミルク)はやや熱くして(40〜50℃前後)飲ませるため、赤ちゃんが暖められ易くなります。5kgの赤ちゃんが50℃のミルクを100ml飲むと体温が約0.2℃上がります。ミルクを飲ませた後は、赤ちゃんの汗などの異常に注意しましょう。人工乳そのものがSIDSの原因ではないのです。
 着せ過ぎ等で放熱障害が起きた時、かつ眠っている時は、うつ熱そしてSIDSはいつでも起こり得るのです。SIDSの予防には、赤ちゃんがなぜ暑さに弱いかを知っておくことが必要です。
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