「赤ちゃんが生まれたら、できるだけ母乳だけで育てたい」
お腹の赤ちゃんを想うお母さんであれば、そう願うのは当然の愛情です。
母乳が赤ちゃんにとって素晴らしい免疫や栄養を含んでいることは、医学的にも間違いありません。
しかし、産婦人科医として15,000人以上の命と向き合ってきた経験から、あえて厳しい現実をお伝えしなければなりません。
「出生直後からの完全母乳への過度なこだわり」は、時として赤ちゃんを極端な飢餓状態に追い込み、将来の脳の発達に取り返しのつかないダメージを与える危険性を秘めているのです。
👉カンガルーケアと完全母乳の危険性:医学博士が警告する新生児の「低体温」と「飢餓」も合わせてご覧ください
このコラムでは、感情論ではなく「医学的なデータ」に基づき、生まれたばかりの赤ちゃんに本当に必要な栄養について解説します。
生まれたばかりの赤ちゃんは、どれくらいミルクを飲むべき?
まずは、あなたの赤ちゃんの出生体重(予想体重)を思い浮かべて、以下のシミュレーターのスライダーを動かしてみてください。
新生児の必要エネルギー&哺乳量シミュレーター
赤ちゃんの出生体重(グラム)をスライダーで合わせてください。
生後3日目の「完全母乳」の摂取カロリーは、平均わずか 15〜30 Kcal/kg/日 しかありません。
つまり、上の表にある「最低限の基礎代謝(50 Kcal/kg)」すら全く満たせておらず、赤ちゃんは極端な栄養不足(飢餓状態)に陥ってしまいます。
これが重症黄疸や低血糖、脳出血を引き起こす原因です。当院では「超早期経口栄養法」により、出生初日から赤ちゃんの命と脳を守る十分な栄養を確保します。
いかがでしょうか。
例えば体重3,000gの赤ちゃんの場合、1日に必要な総エネルギー量は360Kcal(ミルク換算で約550ml)にもなります。
ここで注目していただきたいのが、「基礎代謝」という項目です。
基礎代謝とは、赤ちゃんが泣くことも、手足を動かすこともせず、ただ心臓を動かし、体温を保ち、
「命を維持するためだけに最低限必要なエネルギー」のことです。
体重3,000gの場合、この命の維持にさえ150Kcal(約230ml)の哺乳が絶対に必要になります。
「完全母乳」の落とし穴:圧倒的なカロリー不足

では、お母さんのおっぱい(母乳)は、生まれた直後からこの「基礎代謝」を満たすほど豊富に出るのでしょうか?
ここに、日本新生児学会誌で発表された非常に重要なデータがあります。 生後3日目のお母さん(初産婦)の平均母乳分泌量は、1日あたり約66mlしかありません。 これを体重1kgあたりのカロリーに換算すると、わずか約15kcal/kg/日です。
赤ちゃんの命を維持する基礎代謝(50kcal/kg/日)に対し、1/3以下のエネルギーしか与えられていないのです。
これが「完全母乳」の最大の落とし穴です。
出生直後から「母乳以外はいっさい飲ませない」という哺育方針をとると、赤ちゃんは生後少なくとも3日間、極端な栄養不足(飢餓状態)に陥ってしまいます。
飢餓状態が引き起こす3つの危険なサイン

赤ちゃんがカロリー不足(飢餓)に陥ると、体には次のような深刻なトラブルが連鎖的に発生します。
- 新生児低血糖症
赤ちゃんの「脳」が働くための唯一のエネルギー源は「糖分」です。哺乳量が足りず血液中の糖分が枯渇すると、赤ちゃんは痙攣(けいれん)や無呼吸を起こし、最悪の場合は脳に回復不能なダメージ(後遺症)を負ってしまいます。 - 重症黄疸
栄養が足りないと、腸の働きが鈍くなり、胎便(赤ちゃんがお腹の中で蓄積した黒いウンチ)を外に出すのが遅れます。すると、便に含まれていたビリルビンという物質が体内に再吸収されてしまい、皮膚が黄色くなるだけでなく、脳性麻痺の原因となる重症な黄疸を引き起こします。 - 脱水と新生児出血症(脳出血) 水分不足により血液がドロドロになり、さらに母乳に含まれるはずのビタミンKが極端に不足することで、突然、胃腸や「脳」で出血を起こすリスクが高まります。
赤ちゃんの脳を守る「超早期経口栄養法」

「母乳が出るようになるまで、赤ちゃんは自分の蓄えで生きられる」という古い神話は、現代の医学では否定されています。
急速に発育しなければならない新生児期に、正しい栄養が与えられるかどうかは、その後の体格や知能の発達を左右します。
だからこそ、当院では「超早期経口栄養法」を実践しています。
これは、母乳の分泌が軌道に乗るまでの間、足りないエネルギーを「人工乳(ミルク)や糖水」でしっかりと補ってあげるという、ごく当たり前の、しかし極めて重要な医学的アプローチです。
当院の赤ちゃんの生後3〜4日目の平均摂取カロリーは、約90kcal/kg/日。
完全母乳の赤ちゃん(15kcal)とは比べ物にならないほど、たっぷりの栄養で満たされています。
まとめ:ミルクは「敵」ではなく「命綱」

お母さんが母乳を与えたいと願う気持ちは、心から応援します。
当研究所の指導も「母乳をやめなさい」と言っているわけでは決してありません。
「母乳がしっかり出るようになるまでの数日間、赤ちゃんの脳を守るためにミルクの力を借りる」
ただそれだけで、赤ちゃんは低血糖や黄疸の恐怖から解放され、健やかに成長するスタートラインに立つことができます。
「完全母乳」という言葉の響きにとらわれず、目の前の赤ちゃんが「今、本当に必要としているエネルギー」をしっかりと満たしてあげること。
それこそが、お母さんができる最初で最大の愛情表現なのです。

監修:久保田 史郎(医学博士・産婦人科医)
久保田生命科学研究所所長。元久保田産婦人科麻酔科医院院長。
1万5,000例を超える臨床データに基づき、新生児の「保温」と「飢餓防止」を柱とする独自の「久保田理論」を提唱する周産期医療のスペシャリスト。
(圧倒的な実績)
重症黄疸の激減、およびNICU搬送率0.41%(全国平均を大幅に下回る水準)を自院にて実現。
(科学的エビデンス)
『Neonatology』『Nutrients』など、世界的な医学専門誌に論文が多数掲載。
(社会への提言)
従来のカンガルーケアや完全母乳推進が孕むリスクに警鐘を鳴らし、発達障害の予防と国民医療費の削減を目指す。
「37℃の科学」によって赤ちゃんの未来を守るための活動は、多くの親御さんのみならず医療関係者からも高い関心を集めている。
久保田史郎の安産大学 – YouTubehttps://www.youtube.com/user/kubotamc2012



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