<安産と難産>
  『安産と難産』は、私の臨床経験に基づいて作成したものです。妊娠・分娩・新生児の3編で構成され、その内容は、妊娠が異常にならない様にするには、難産ではなく安産を迎えるには、赤ちゃんがより健全に育つには、私達、産科医は妊婦さん方に何をアドバイスしたら良いのかについて述べています。その3編に共通して言える事は、病気になって治療するよりも、病気にならない様にしてあげる事が妊婦さんや赤ちゃんにとって最善である事に気付かれると思います。
 ところで、全ての妊婦さんは安産を希望されます。しかし、下記の妊婦さんは難産になりやすく、そのため陣痛促進剤や帝王切開など人工的出産が多くなります。難産因子を予防し、不安をなくして自信をもってお産に臨まれる事が安産の秘訣なのです。

<難産因子>
1) 妊婦の肥満
2) 太り過ぎの赤ちゃん
3) 微弱陣痛(娩出力不足)
4) 予定日超過
5) 産痛に対する不安が強過ぎる
 上記の難産因子は、妊婦の肥満や体力(運動)不足に関連している事にお気付きと思います。それらは妊娠中の正しい食生活習慣や運動などで予防する事が出来るのです。安産のためには先ず肥満などの難産因子を予防し、次に安産効果に優れた妊婦水泳(散歩)や和痛分娩(陰部神経ブロック)をお勧めます。

<安産のための設計図> 
1)  理想的体重増加:栄養指導による食生活の改善は便秘や肥満をなくし、早産(未熟児)・巨大児の発生を予防しました。この10年間、当院で出産した約5000例では、出産体重が3500g以上の「難産域」の新生児は9%(全国平均20.5%)、難産の指標となる帝王切開率は6%(全国平均12%)、帝切の適応は骨盤位(初産)・反復帝切が主で、難産・胎児仮死に伴う緊急帝王切開は約半分に減少しました。さらに妊娠中毒症や糖尿病の重症例も殆ど見られなくなり安全でより自然なお産が増えたのです。安産の敵は肥満と運動不足そして油断なのです。当院の栄養指導法は、食生活のポイントをクリックしてください。
2)  妊婦水泳は妊婦の体力(娩出力=腹圧)と心肺機能を強化し、分娩時間を短縮しました。また妊娠初期の重症悪阻(つわり)や腰痛・便秘・下肢静脈瘤などの改善にも著しい効果を認め、さらに300〜400人にひとり発症する常位胎盤早期剥離は、妊婦水泳群(約3000人)ではひとりもみられませんでした。この事は、特に便秘や睡眠不足などの生活習慣病が改善した事が子宮内環境をより正常化し子宮/胎盤に好影響をもたらした結果と考えられます。温水での妊婦水泳は重力のかかった他のスポーツと違って、浮力が作用するため妊娠子宮に対し負荷(子宮収縮)が少なく妊婦の全身運動には最適です。泳ぎが苦手の方も妊娠子宮が浮力を増すために水中に浮きやすく、非妊時よりも楽に泳げる様になります。同じ目的を持った多くの妊婦仲間達との出会いは、貴女の妊娠生活、育児をより楽しいものとするでしょう。 
3) 無痛分娩:当院で行う陰部神経ブロックは、硬膜外麻酔時にみられる低血圧や微弱陣痛などの副作用はなく、最も痛い分娩第2期の特に産道・会陰部の鎮痛効果と筋弛緩作用に優れています。過度の産痛に伴う産婦の「過呼吸」は子宮血流量を減少させ胎児仮死の原因である低酸素血症をもたらしますが、麻酔による痛みの軽減によって妊婦さんの呼吸数は正常となり胎児は再び元気を取り戻すのです。つまり、過呼吸を招くような強い痛みは、妊婦には勿論の事、胎児にとっても有害であると言う事を理解していただけると思います。 今迄、無痛分娩は母児に悪い影響があるのではないかと敬遠されていました。しかし、この陰部神経ブロックは硬膜外麻酔と違ってお産の全ての痛みを取る事だけが主目的ではなく、子宮収縮の痛みは感じるものの産道を和らげ痛みを取る事によって少ない娩出力で赤ちゃんをスムーズに娩出できるのが特長です。本法の麻酔効果は分娩をより自然に、より安全なお産へと導き妊婦さんと赤ちゃんをお産の痛みから守るのです。この10年間、約4000件を超える全ての出産に陰部神経ブロックを実施してきましたが局麻剤中毒などの合併症は1例もありません。当院の無痛分娩に関するアンケート調査では、分娩第1期の我慢出来る痛みはどんなものか体験してみたい、分娩第2期の大声を上げ、過呼吸を招く様な我慢できない腰/産道/会陰部の痛みを取って欲しいとの希望が大多数を占めました。以上の理由から、当院では全てのお産に陰部神経ブロックを行っております。本法の麻酔効果や満足度については産婦さんの意見(メッセージ)、報道資料を参考にして下さい。(当院では麻酔費用は分娩料金に含まれております)
4) 母親教室:毎週水曜日 当院2階ラウンジラッコにて母親教室を行っています。内容は図に示した『安産と難産』の説明をはじめ栄養指導、お産のメカニズム、ラマーズ呼吸法など、そして赤ちゃんの育児法、乳幼児突然死症候群の予防法等についても勉強しています。お産や赤ちゃんの生理を学習する事が、安産となり、また赤ちゃんを不慮の事故から守る事が出来るのです。      
 今、我が国ではアメニティに富んだ産院が増え、快適な入院生活をおくれるようになりました。妊産婦の皆様にとって大変喜ばしい事です。同様に、胎児もお母さんからの快適なアメニティを子宮内で待ち望んでいるのではないでしょうか。妊婦さんはお腹の中の赤ちゃんに快適な環境をプレゼントする事によって、母と児の絆が深く芽生え、妊娠生活が幸せに満ち楽しい日々を送る事が出来る様になるのです。貴女の幸福感が赤ちゃんの健全な魂と感性をも育ててくれるはずです。

<21世紀のお産に私が期待するもの> 
 ・ 母児にとって快適な環境の準備
 ・ 予防医学の普及
 ・ 痛過ぎないお産の普及
開業21年目を迎えスタッフ一同、新たな気持ちで皆様をサポートします。    
2003年2月7日
久保田 史郎