「産後、夫に触られることすら苦痛に感じるようになってしまった」
「妻から拒絶される日々が続き、男としての自信を失っている」
産婦人科の診察室では、声に出して相談しづらいこうした「産後のセックスレス」の悩みが毎日のように寄せられます。
愛情が冷めたのだろうかと自分を責める妻と、拒絶されて傷つく夫。
しかし、産婦人科医として初めにはっきりと断言します。
産後、女性が性行為を拒絶するのは「愛情不足」でも「わがまま」でもありません。
医学的、そして生物学的に見て「完全な大正解(正常な反応)」なのです。
読めば必ず「なるほど、そういうことだったのか」と腑に落ちる、産後の女性の身体の真実と、夫婦ですれ違いを乗り越えるための医学的知識を解説します。
なぜ「触られたくない」のか? 犯人は2つのホルモン
産後の女性の体の中では、ジェットコースターのような急激なホルモン変化が起きています。
性欲が湧かない最大の理由は、気合いや愛情の問題ではなく、純粋に「ホルモンの分泌リズム」によるものです。
① プロラクチン(母のホルモン)の分泌
授乳中に大量に分泌される「プロラクチン」というホルモンがあります。
これは母乳を作るための重要なホルモンですが、同時に「排卵を止め、性欲を著しく低下させる」という強力な作用を持っています。
これは生物学的に「今の赤ちゃんを育てることに全エネルギーを注ぐため、次の妊娠を避ける(自然の避妊機能)」という、理にかなった防衛本能なのです。
② エストロゲン(女性ホルモン)の枯渇
妊娠中に大量に分泌されていた「エストロゲン」は、胎盤が体外に出た瞬間、閉経後のレベルまで急降下します。
エストロゲンには膣の潤いを保ち、壁を厚く保つ働きがあります。
これが枯渇することで、産後の膣は乾燥し、ペラペラの薄い状態(萎縮性膣炎に近い状態)になります。
この状態で性行為を行えば、
「潤いがなく、擦れて激痛が走る」
のは医学的に当然のことなのです。

身体は「全治数ヶ月の交通事故」レベルの重傷を負っている
「もう産後○ヶ月も経ったのだから、回復しているだろう」という夫側の誤解も、セックスレスの大きな原因です。
骨盤底筋のダメージ
赤ちゃんの頭が通った骨盤底筋群は、
引き伸ばされてズタズタになっています。
会陰切開や裂傷の傷
縫合した傷の表面は1ヶ月ほどでくっつきますが、奥の組織まで痛みが消え、元の柔軟性を取り戻すには半年から1年かかることも珍しくありません。
産後の身体は、例えるなら
「交通事故に遭って全治数ヶ月の重傷を負いながら、24時間体制の夜勤(育児)をこなしている状態」です。

本能的に「これ以上の身体的ダメージ(疲労や痛み)を避けたい」と脳が判断し、防衛線を張っている状態なのです。
脳が限界を迎える「タッチ・ハングオーバー」
もう一つ、現代の医学や心理学で注目されているのが「タッチ・ハングオーバー(接触への疲労・嫌悪)」です。
産後の母親は、1日の大半を赤ちゃんを抱っこし、授乳し、肌を密着させて過ごしています。
脳の「人から触れられるキャパシティ(許容量)」は、赤ちゃんとの接触だけで毎日120%限界を超えています。
そのため、夜になって夫から触れられると、脳が「もうこれ以上、誰の肌にも触れたくない!」と警報を鳴らし、生理的な嫌悪感として表れてしまうのです。
これは夫が嫌いになったわけではなく、単純に脳の感覚処理がキャパオーバーを起こしている証拠です。

夫婦の危機を乗り越えるための「医学的」アプローチ
産後のセックスレスは、理由を知らないと夫婦間の致命的な溝を生みますが、メカニズムを知っていれば「チームとしての対策」が打てます。
↓夫婦間の「すれ違い」の正体↓
まとめ:時間は必ず解決してくれる
産後のセックスレスは、
女性の身体が命を懸けて赤ちゃんを産み、育てている「勲章」であり、正常な防衛反応です。
「いつまでこの状態が続くのだろう」
と不安になるかもしれません。
でも安心してください。
断乳や卒乳を迎えてプロラクチンが下がり、生理が再開したらエストロゲンが戻ってきます。
そうすれば、自然と身体の潤いも心のリズムも少しずつ確実に戻ってきます。
一番苦しいのは女性です。
だからこそ、いずれ来るその時まで、
母親の心のケアを最優先にしてください。
焦る必要はありません。
今は夫婦で身体の変化という「真実」を共有し、性行為以外の方法で労わり合いながら、新しい命を守り抜く「最強の戦友」になるための期間なのですから。

監修:久保田 史郎(医学博士・産婦人科医)
久保田生命科学研究所所長。元久保田産婦人科麻酔科医院院長。
1万5,000例を超える臨床データに基づき、新生児の「保温」と「飢餓防止」を柱とする独自の「久保田理論」を提唱する周産期医療のスペシャリスト。
(圧倒的な実績)
重症黄疸の激減、およびNICU搬送率0.41%(全国平均を大幅に下回る水準)を自院にて実現。
(科学的エビデンス)
『Neonatology』『Nutrients』など、世界的な医学専門誌に論文が多数掲載。
(社会への提言)
従来のカンガルーケアや完全母乳推進が孕むリスクに警鐘を鳴らし、発達障害の予防と国民医療費の削減を目指す。
「37℃の科学」によって赤ちゃんの未来を守るための活動は、多くの親御さんのみならず医療関係者からも高い関心を集めている。
久保田史郎の安産大学 – YouTubehttps://www.youtube.com/user/kubotamc2012



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