日本のお産は安全ではない

第49回 日本母性衛生学会総会(教育講演)2008年11月
国立成育医療センター周産期診療部産科医長 久保隆彦

いつから「日本のお産は安全」という神話が流布されたのか? お産の現場で毎日働く多くの周産期医療従事者にとって予測できない突然起こる分娩時大量出血、母児救急を経験する度に「お産は怖い」ことを実感する。しかし、妊婦は脳天気なマタニティー雑誌や宗教にも近い自然分娩回帰カリスマ達によって分娩の持つ怖さはオブラートに包まれ快適なお産のみかのように洗脳されている。こういったことが間違った認識を生み出しているのだろう。

 確かに、日本の母体死亡は戦後急速に減少し、世界最高のレベルとなった。この快挙の理由は、分娩場所が自宅・助産所から診療所・病院に移行したことと、日本特有のコンビニ産科(開業医産科医と看護師による全国のどこでもアクセスが良いお産形態)と一次施設に起こった母児救急に対して速やかに搬送可能な二次・三次施設の余裕に他ならない。だが、その素晴らしいシステムが危機に陥っている。「看護師内診問題」で多数の一次診療所が分娩から撤退した。「福島県立大野病院事件」で産科のマンパワーが減少した。この2つのことにより、一次・二次分娩施設は姿を消し、周産期医療体制ピラミッドは崩壊し、三次施設に分娩は集中し、本来三次施設が担わなければならないハイリスク妊娠・分娩あるいは母児救急受け入れが困難となった。

 しかし、今日本は奇妙な方向に向かおうとしている。産科医が減少すれば助産師の権限を強化し、助産所で分娩を行えばよいという政策である。戦後のあの高い妊産婦死亡率、暗黒の周産期医療成績の象徴であった助産所分娩に戻ることは狂気といえる。まだ10年前なら助産所からの緊急母児搬送を三次施設が受け入れたので、考えられるオプションだったが、当センターでも助産所からだということで優先的な搬送受け入れはできず、これは全国の基幹周産期センター同様である。

 さらに、日本産婦人科医会が行なった助産所から母体・新生児搬送された母児の予後は悲惨なものであった。医療が不可能な施設での分娩は危険といわざるを得ない。しかも、世界で最も安全に助産所分娩を行っているオランダでのリファー率(助産所でリスクを見つけ病院に紹介する率)は50~70%と高率であるが、わが国の助産所からのリファー率はわずか7%に過ぎず、日本の助産所での妊婦のリスク認知率・発見率は低いといわざるを得ない。演者が日本産婦人科学会で行なった全国調査で、わが国のいかなる妊婦でも250人に1人は分娩で死にいたるアクシデントに遭遇し、その半数は大量出血によるものだった。迅速な輸血ができない場所での分娩を本当に妊婦が望むのであろうか。今国民は真剣にお産について考えなければならない。
 
カンガルーケア(早期母子接触)中の心肺停止事故を検証する
―心肺停止は不快(寒い・暑い)な環境温度が原因、病気ではなく事故である―
 
はじめに
出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)と完全母乳哺育・母子同室が組み合わさって、新生児が低酸素性虚血性脳症に陥る事故が多発しているが、その原因を乳幼児突然死症候群(SIDS)と決め付けて処理しようとするのが現在の状況である。しかし、カンガルーケア等による事故をSIDSとして決め付ける事は、その発症メカニズムが全く異なることから、直ちに見直すべきである。以下に詳述する。

1. 自律神経の仕組み
「自律神経系」は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のような不随意な機能を制御する働きを持つとされる (wikipediaなどでもそうした認識が一般的)。ところが、人間が震えや汗をかくような不快(寒い・暑い)な環境温度に遭遇した時、自律神経は呼吸器・循環器・消化管などの制御より、体温の恒常性を保つための体温調節機構(放熱+産熱)を優先して作動する。しかし、自律神経に体温調節機構を優先して作動するという「優先順位」の概念は現代医学に無い。そのために寒い分娩室で生まれた赤ちゃんの呼吸・循環・消化管・肝臓などの内臓諸臓器の機能は、寒さから身を守るための体温調節機構(放熱・産熱)の犠牲になる。例えば、生後間もない赤ちゃんの呼吸循環動態は不安定と厚労省は決め付けているが、不安定になる理由は、寒い分娩室で低体温症を防ぐための放熱抑制機構つまり末梢血管を収縮させるためのホルモン(アドレナリン)が持続的に分泌し、肺血管を攣縮(肺高血圧症)するからである。内臓諸臓器に対して自律神経が本来の機能を作動させるためには、人間が快適な環境温度にいる時、体温が恒温状態に安定している時、低血糖症・低酸素血症に陥っていない時にのみ制御可能となる。生命維持の安全が確保される為には、体温が恒温状態に安定している事が絶対条件である。それは人間が恒温動物であるからである。

2. 自律神経は環境温度に支配される
自律神経は交感神経系と副交感神経系の2つの神経系で構成されている。呼吸循環などの腹部諸臓器の機能を正常に作動させるためには、快適な環境温度下で交感神経・副交感神経のバランスを平衡に保ち、体温を恒温状態に安定させることが新生児管理の基本である。赤ちゃんは恒温状態に安定し、低酸素・低血糖症に陥っていなければ、心肺停止が突然に起こることはない。環境温度(寒い・暑い)によって交感神経・副交感神経のバランスが大きく崩れ、その状態が長時間に及んだ時に呼吸循環・消化管・肝臓などの諸臓器にトラブルが発生する。例えば、寒い分娩室で体温管理・栄養管理を怠った時のトラブルが、冷え症・チアノーゼ・初期嘔吐・低血糖・黄疸などである。しかし、産科学教科書では、それらの殆どを生理的現象と考えている為に、医学が進んだ今も、脳に障害を遺す低血糖症・重症黄疸を防ごうとする発想はない。何故ならば、医者・助産師・看護師は、それらの適応障害を病気ではなく生理的現象と刷り込まれているからである。赤ちゃんにチアノーゼ・黄疸などの危険な症状が出ても驚かないのはその為である。

★ カンガルーケア中の心肺停止は、病気ではなく医療事故(大阪事例)
分娩を境に急激な環境温度の低下に遭遇した赤ちゃんの体温を、いかに早く恒温状態に安定させるかを考える事が赤ちゃんを心肺停止(適応障害)から守るのである。出生直後の寒い分娩室でのカンガルーケアは自律神経のバランスが崩れ交感神経優位となり、この状態が長引くと呼吸循環動態・消化管機能・糖代謝に害を及ぼす。従って、寒い部屋でのカンガルーケア(早期母子接触)は、生命維持の安全を司る自律神経の機能を無視した危険極まりない医療行為であると断じる。寒い部屋で自律神経がまだ不安定な赤ちゃんを窒息の危険性が高いうつ伏せ寝にして寝かせ、さらに赤ちゃんの全身状態が何も観察できないようにタオル・毛布などで全身を覆い、母親一人に児の全身管理を任せるカンガルーケア中の心肺停止事故は、起こるべくして起きたと考えるべきで、事故責任は間違いなく医療側にあり、母親には何ら責任はない。

3.環境温度(寒い/暑い)が自律神経に及ぼす影響
3-①:低温環境が自律神経に及ぼす影響
低温環境下では、自律神経は放熱抑制と産熱亢進の二つの体温調節機構を優先して作動する。放熱抑制には末梢血管収縮(アドレナリン分泌↑)、産熱亢進には筋緊張亢進(筋肉運動=啼泣↑)を強制的に働かせる。ところが、放熱抑制機構(末梢血管収縮)は体温調節には有利に働くが、持続的なアドレナリン(血管収縮ホルモン)の分泌亢進は呼吸循環・消化管・肝臓などの腹部諸臓器に血流障害を引き起こす。また産熱亢進(筋肉運動=啼泣)が長時間に及ぶと、熱産生にエネルギー(糖分)がより多く消費されるため、母乳分泌が少ない時期に糖水・人工ミルクを全く飲ませなければ容易に低血糖症に陥る。新生児が重度の低血糖症に陥れば、無脳児の赤ちゃんと同様に体温調節・呼吸循環の調節ができなくなり心肺停止に至る。中等度の低血糖症が持続すると脳に障害を遺す。発達障害は原因不明とされているが、福岡市の調査によれば発達障害は完全母乳(1993年)・カンガルーケア(2007年)が普及した時期に一致して驚異的に増えていることから、発達障害は遺伝的要因を考える前に、まず、出生時の低血糖症・重症黄疸の関与を疑うべきである。つまり、発達障害児を防ぐには、出生直後の体温管理(温めるケア)と栄養管理(低血糖予防)を最優先すべきである。

★ カンガルーケア(早期母子接触)は、 「冷え症」の赤ちゃんを増やす!
出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)の長所には、体温上昇作用・血糖値・呼吸循環の安定があると報告されているが、日本の分娩室において体温上昇作用を検証したデータはない。あるのは、体温上昇作用が無い事を示唆する論文だけである。カンガルーケアに体温上昇作用がなければ、血糖値・呼吸循環の安定もあり得ない。日本の寒い分娩室(24℃~26℃)では、出生直後のカンガルーケアに保育器と同様の体温上昇作用は無いため新生児は低体温を防ぐ目的で末梢血管を持続的に収縮する。持続的な末梢血管の収縮は全身を循環する温かい血流量の減少を来すため、とくに手足を冷たくする。それが冷え性(末梢血管収縮)である。カンガルーケア中の心肺停止の事例は、顔色は蒼白・紫色、そして手足が冷たい「冷え症」が特徴であるが、SIDSの赤ちゃんは汗を出し顔色は良く(ピンク)、高温状態(うつ熱)で発見されることが殆どである。両者には末梢血管収縮(冷たい)と末梢血管拡張(温かい)の正反対の違いがある。この違いこそが、低温環境と高温環境に遭遇した時の恒温動物である赤ちゃんの生理的反応である。

★ 冷え性は、「低血糖症」の赤ちゃんを増やす!
カンガルーケアが「低血糖症」を促進する理由は、肝臓を循環する血流量が減少するからである。肝血流減少によって肝グリコーゲンの分解(糖新生)が抑制され、さらに産熱亢進によって血中グルコースの消費量が増えるからである。つまり、低温環境下で完全母乳の赤ちゃんに長時間のカンガルーケアを行うと低血糖症は進み、脳に永久的な障害を遺すリスクが高まる。低血糖症の危険因子はカンガルーケア・完全母乳だけではない。出生前に診断がつかない高インスリン血症児を寒い分娩室でカンガルーケアを行うと、低血糖症は避けられない。高インスリン血症児を低血糖から守る為にも、カンガルーケアを推進する医師・助産師は、高インスリン血症児は妊娠糖尿病の母親からだけでなく正常妊婦からも高頻度に生まれている事実を知り、低血糖症に対する予防策を講じるべきである。尚、高インスリン血症児の危険性については、2009年9月 日本母乳哺育学会(東京)で、「日本の分娩室は新生児にとって寒すぎる」と題して報告した。

3-②:高温環境が自律神経に及ぼす影響
汗が出るような高温環境下では、自律神経は放熱促進と産熱抑制の二つの体温調節機構を強制的に作動する。放熱促進には末梢血管拡張(アドレナリン分泌↓)、産熱抑制には筋緊張低下(筋弛緩)によって体温上昇を防ぐ。放熱促進だけで体温の恒常性が維持できなければ、熱産生を減らすために赤ちゃんは筋肉を弛緩させ眠りに入る。ところが衣服や布団の着せ過ぎによって衣服内温度が上昇し続け、睡眠中の赤ちゃんに寒冷刺激が加わらなければ睡眠からの覚醒は遅延し末梢血管は拡張したままとなる(覚醒反応遅延)。長時間の末梢血管拡張(アドレナリン分泌抑制)は不整脈(QT間隔延長)を、筋弛緩は呼吸運動を抑制し、赤ちゃんを低酸素血症に陥らせる。不整脈・低酸素血症が長時間に及ぶと心肺停止の危険性が高まる。また乳幼児をうつ伏せ寝で寝かせると腹部からの放熱が妨げられ、代償的に末梢からの放熱を増やすために末梢血管拡張(アドレナリン↓)を余儀なくされる。うつ伏せ寝でアドレナリン分泌抑制が持続すると窒息の危険性が増すだけでなく、不整脈・低酸素血症はさらに強くなる。それがSIDSの正体である。

4.赤ちゃんに事故が多い理由
赤ちゃんを心肺停止・発達障害から守るために、医療従事者は快適な環境温度を準備し、低血糖症・低酸素血症を防ぐための栄養管理・呼吸管理を厳重に行う義務がある。赤ちゃんに事故が多い理由は、大人と違って自力で不快(寒い・暑い)な環境温度から逃げ出すことが出来ないからである。また赤ちゃんを管理する医療従事者が体温管理・栄養管理の重要性を分かっていないからである。

5.結論
カンガルーケア中の心肺停止事故・SIDSは原因不明の病気と考えられているが、真実は病気ではなく事故である可能性が高い。不快な環境温度(寒い・暑い)に対する人間の体温調節機構(交感神経優位/副交感神経優位)が呼吸循環器などの生命維持機構に害を及ぼしたことによって誘発された事故(医原性疾患)と考えている。低温環境下における体温調節機構つまり放熱抑制を目的とした末梢血管収縮(アドレナリン↑)と産熱亢進(筋肉運動⇒糖消費増大⇒低血糖)がカンガルーケア中の心肺停止・発達障害の大きな要因であり、逆に、着せ過ぎなどによる高温環境における体温調節機構つまり放熱促進を目的とした末梢血管拡張(アドレナリン↓⇒不整脈⇒低酸素血症))と産熱抑制(筋弛緩⇒呼吸運動抑制⇒低酸素血症))がSIDSの要因となる。つまり、カンガルーケア中の心肺停止(交感神経優位)と、SIDS(副交感神経優位)は正反対のメカニズムで発生する。したがって治療法も異なる。

そう考えると、産科医療補償制度の原因分析委員会が「カンガルーケア中の心肺停止」を「SIDSの疑い」と診断していることには大きな矛盾がある。両者の心肺停止の原因が見つからない理由は、それらは病気ではなく不快な環境温度が引き起こした事故なのに、事故という観点からの原因解明がなされてこなかったからではないか。また原因分析委員会のメンバー構成(産婦人科医4人・小児科医1人・助産師1人・弁護士2人)にも問題がある。産科医療補償制度は産科医療の質の向上を目的とするとあるが、カンガルーケア中の心肺停止の原因解明を本気でやるのであれば、上記メンバーの他に、呼吸循環/臨床体温/臨床生理が専門である麻酔科専門医数人を委員会に加え、公平に検討すべきである。現行の産婦人科医・小児科医・助産師は周産期医療の専門家ではあるが、赤ちゃんの呼吸循環/臨床体温/臨床生理が分かる専門家ではない。麻酔科専門医が検討委員会にいたならば、カンガルーケア中の心肺停止事故をSIDSの疑いと誤って診断する事はない。

日本SIDS学会は乳幼児突然死症候群を原因不明の病気と定義しているが、SIDSは病気ではなく事故であるという視点から原因究明にアプローチすべきである。そして何より急がれるのが、厚労省と日本周産期新生児学会は、「授乳と離乳の支援ガイド」を見直し、母乳育児の3点セット(カンガルーケア・完全母乳・母子同室)の推奨を即刻中止することである。
平成26年1月26日
久保田産婦人科麻酔科医院
院長 久保田史郎
当院の温めるケアと超早期混合栄養法の必要について動画で紹介
保育器で恒温状態に落ち着いた赤ちゃん


乳幼児突然死症候群(SDIS)から赤ちゃんを守るために
1.乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因と予防法その1
2.乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因と予防法その2
 
カンガルーケア(早期母子接触) は、百害あって一利なし
―赤ちゃん “冷え症”に注意―

1.赤ちゃん、元気ですか!
元気な赤ちゃんとは、顔色が良く、食欲(吸綴反射)があり、便が出て、体重が増え、栄養と水をきちんと摂っている赤ちゃんの事を指す。ところが、厚労省の母乳育児の3点セット(カンガルーケア+完全母乳+母子同室)を忠実に実践すると、赤ちゃんは吐き気のため食欲はなく、飲んでも直ぐに吐いてしまい、胎便排泄も遅い。仮に、食欲があったとしても母乳が全く出ていない為に、人工ミルクを補足しなければ容易に飢餓状態(脱水+低栄養)に陥る。近年、出生時からの体重が10%以上も減少し、脱水に陥り、治療(光線療法)を要する重症黄疸の赤ちゃんが目立つが、その理由は出生直後のカンガルーケアで冷え症(末梢血管収縮)の赤ちゃんが増えた事、さらに糖水・人工ミルクを飲ませない完全母乳哺育が普及した事による。つまり、厚労省が推奨する出生直後のカンガルーケアと完全母乳は、元気に生まれた赤ちゃんを不健康に育てる保育法と言わざるを得ない。福岡市の発達障害児は完全母乳哺育が普及した1993年頃から増え始め、2007年のカンガルーケア導入後から脅威的な勢いで増加している。完全母乳とカンガルーケアの短所が赤ちゃんを不健康(発達障害)にしている可能性が強い。

2.産湯と乳母の役割
昔は、赤ちゃんを元気に育てるために「産湯」に入れ冷え症を防ぎ、乳母を雇い出生直後から母乳を満足に飲ませることによって飢餓(脱水+低栄養)を防いでいた。しかし、厚労省は産湯・乳母に代表される予防医学の重要性を無視し、危険度の高い非科学的なカンガルーケアと完全母乳哺育を強引に取り入れたのである。厚労省は授乳と離乳の支援ガイドを作成し完全母乳とカンガルーケアを推奨したが、産婦人科専門医の反対を押し切って、なぜ助産師一人の非科学的な意見を聞き入れ、検証もせず、「授乳と離乳の支援ガイド」を慌てて公表したのか、疑問だらけである。厚労省の授乳と離乳の支援ガイドの見直しがない限り、発達障害児の増加に歯止めが掛からない。赤ちゃんの安全性を無視し、カンガルーケア・完全母乳を推奨した厚労省の責任は重い。助産師は自然を重要視するが、自然には科学(予防医学)がない。科学がない所で、医療事故が多発していることを厚労省が知らない筈がない。カンガルーケア中の心肺停止事故は完全母乳哺育を重要視する「赤ちゃんに優しい病院」に多いことが分かっているのである。



3.赤ちゃんの冷え症に注意!
約38℃の温かいお腹の中から25℃前後の寒い分娩室に生まれてきた赤ちゃんは、体温を37℃に維持するために末梢血管を持続的に収縮させ、放熱を防ぐための体温調節機構を作動させる。この時、赤ちゃんの手足は冷たく、所謂 冷え症の状態である。冷え性、つまり末梢血管が持続的に収縮すると下肢から心臓に戻る静脈還流量が減少し、血圧が低下する。冷え性は消化管血流量を減少するため腸の蠕動運動を抑制するが、その結果、赤ちゃんは食欲を無くし、胎便排泄を遅らせる。冷え症は消化管機能(消化・吸収・排泄)に害を与えるだけでなく、全ての臓器に障害を与えるため出生直後の冷え症対策には濃厚な医学的管理(保温)が必要である。分娩を境とした胎内から胎外生活への適応障害のほとんどは、冷え性(末梢血管収縮)が原因である。冷え性は万病の元といわれるが、赤ちゃんの冷え症は大人以上に深刻である。何故ならば、冷え性(末梢血管収縮)は肺高血圧症(チアノーゼ)を誘発し、赤ちゃんを低酸素血症に陥らせ心肺停止の原因となるからである。さらに肝臓における肝グリコーゲン分解による糖新生を抑制するため低血糖症に陥らせ、発達障害の危険性を増すからである。発達障害はカンガルーケアの普及後から驚異的な早さで増えていることから、冷え症(末梢血管収縮)による肺高血圧症(低酸素血症)・低血糖症・重症黄疸を防ぐ為の医学的管理が最重要である。カンガルーケアと完全母乳を推進する厚労省と日本周産期新生児学会は、発達障害児を防ぐための対策を早急に講じるべきである。

4.出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)に、体温上昇作用なし!
新生児の冷え症の原因は、分娩室・母子同室の室温が寒過ぎるにもかかわらず、体温管理(保温)を怠っているからである。昔は赤ちゃんを産湯に入れ体温管理(保温)をしていたが、カンガルーケアが導入されてから産湯には入れないようになった。カンガルーケア(早期母子接触)には体温上昇作用があると日本周産期・新生児学会誌に報告されているが、その体温上昇作用を科学的に検証した研究はどこにも無い。カンガルーケアは温めるケアではなく、冷え症の原因となる「冷やすケア」なのである。日本の寒い分娩室(25℃前後)で体温管理を怠り、出生直後からカンガルーケアを長時間行うと、初期嘔吐・胎便排泄遅延(便秘)の赤ちゃんが増える。胎便排泄が遅延すると黄疸が強く出るが、便中に含まれるビリルビン(黄疸の基)が腸管内から血中に再吸収され血中ビリルビン濃度が上昇するからである。

5.カンガルーケア(早期母子接触)は、百害あって一利なし!
出生直後の赤ちゃんを保育器に2時間収容し冷え症を防ぐと、出生直後から食欲もあり、初期嘔吐も出ない。胎便は24時間以内に出てしまい重症黄疸もでない。厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」は赤ちゃんを冷え症に陥れ、チアノーゼ(低酸素血症)低血糖重症黄疸を増やすことから、「百害あって一利なし」である。赤ちゃんに黄疸が出るのは当たり前の様に考えられているが、重症黄疸は冷えによる便秘と完全母乳による飢餓(脱水+栄養不足)が原因である。生命の安全を考えた時、出生直後のカンガルーケアに何のメリットもない。日本周産期・新生児学会は、生命の安全を脅かすカンガルーケア(早期母子接触)をなぜ中止させないか、疑問である。学会は厚労省を守るのではなく、赤ちゃんを守る本来の姿に戻るべきである。赤ちゃんを守らない学会は解散し、権威のある本来の学会にもどすべきである。

6.「温めるケア」を世界の赤ちゃんに!
久保田産婦人科麻酔科医院では1983年の開業以来、未熟児はもちろん元気に生まれた正常成熟新生児約14.000人の全ての赤ちゃんを出生直後に温かい保育器内(34℃⇒30℃)に2時間収容し、冷え症(末梢血管収縮)を防いできた。保育器内ではもちろん、2時間経って保育器から新生児室のコットに出しても、下肢(足底部)の深部体温が34℃以下になることはない。しかし、体温管理(保温)を怠り、25℃前後の分娩室で管理すると、下肢の体温は生後1~2時間で30℃以下まで低下する。保温を怠ると、冷え症(末梢血管収縮)の危険な状態が継続し適応障害を作り出すのである。末梢血管収縮(放熱抑制)は体温調節には有利に働くが、末梢血管を収縮させるためのホルモン(カテコラミン↑)が呼吸循環動態・肝機能(糖代謝)・消化管機能に悪栄養を及ぼしているのである。つまり、赤ちゃんを元気に育てるためには、出生直後の冷え症を防止し、赤ちゃんを恒温状態により早く安定させることが重要である。日本の分娩室(約 25℃)では、温めるケアが新生児の基本的管理である。しかし、厚労省が勧める出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)は、赤ちゃんを冷やすケアである。
久保田史郎
平成25年12月31日

温めるケアで“重症黄疸”激減!

 
続きはこちらから
 
当院が出生直後のカンガルーケアをしない理由
出生直後の「温める」ケア



当院では出生直後の赤ちゃんを保育器内(34℃⇒30℃)に2時間収容します。理由は、温かい子宮内(38℃)から生れてきた赤ちゃんの身体を、分娩室の寒い環境温度(約25℃)に徐々に馴染ませるためです。プール・海水浴で冷たい水中に突然 飛び込むと危険と子供の時に教えられたのと同様に、温かい環境から寒い環境に徐々に慣らす必要があります。特に、出生直後の赤ちゃんは急激な環境温度の低下に遭遇すると、呼吸循環動態に異常をきたし、呼吸障害を引き起こすからです。

日本の分娩室は大人に快適ですが、赤ちゃんには寒すぎです。胎内と胎外の環境温度差、つまり寒冷刺激が強すぎると、児は末梢血管を収縮し放熱を防ごうとします。この時、血管収縮ホルモン(エピネフリン)が分泌されますが、このエピネフリンが手足の血管だけでなく、肺動脈を収縮させ、児に最も危険な肺高血圧症(チアノーゼ)を来たします。出生直後の赤ちゃんのチアノーゼ(低酸素血症)が出るのは生理的ではなく、寒冷刺激が強すぎるためです。34℃の保育器内に収容すると呼吸循環動態は安定しチアノーゼは出ません。

当院が34℃の保育器内に赤ちゃんを収容する目的は、寒冷刺激を少なくし、胎内から胎外生活への適応障害を防ぐ為です。適応障害とは、肺高血圧症(低酸素血症)・低血糖症・重症黄疸などです。これらは発達障害の危険因子として昔から指摘されています。寒い分娩室での出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)は赤ちゃんを「冷やす」ケアです。赤ちゃんに優しい病院にカンガルーケア中の心肺停止事故が集中するのは、寒冷刺激が強すぎるにも関らず体温管理(保温)を怠っているからです。うつ伏せ寝での早期母子接触は絶対に止めるべきです。窒息の危険性が高い上に、児の全身状態の観察が全く出来ないからです。カンガルーケアの危険性については、平成24年6月14日、厚生労働省雇用均等・児童家庭局に出向き報告済みです。厚労省は少子化対策の前に、赤ちゃんの脳障害を防ぐために「授乳と離乳の支援ガイド」の見直しを急ぐべきです。
平成25年9月29日 久保田史郎


カンガルーケア中の心肺停止事故
SIDS/ALTEは、“隠れミノ”

カンガルーケア(早期母子接触)に体温上昇作用はなし
産科医療補償制度原因分析委員会
の問題点

カンガルーケア(早期母子接触)中の事故は「親の責任か」? 

特集 NETIBニュース カンガルーケア裁判判決(大阪)
 
SIDSとALTEの闇~カンガルーケア、認識されていたリスク(2013/9/9)
SIDSとALTEの闇~久保田医師「出生直後の寒冷刺激が赤ちゃんを脅かす」(2013/9/10)
SIDSとALTEの闇~KC中の事故は親の責任? 大阪地裁判決(1)(2013/9/19)
SIDSとALTEの闇~KC中の事故は親の責任? 大阪地裁判決(2)(2013/9/24)
SIDSとALTEの闇~KC中の事故は親の責任? 大阪地裁判決(3)(2013/9/25)
 ⑥ SIDSとALTEの闇~KC中の事故は親の責任? 大阪地裁判決(4・終)(2013/9/26)


出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)に 終止符!
 

★カンガルーケア中の心肺停止事故は予測されていた(参考資料)。
平成19年1月、産婦人科医・小児科医・助産師は、カンガルーケアの危険性を知っていた
カンガルーケアの留意点(日産婦医会報 平成19年1月1日)
日本の分娩室は寒過ぎる(第24回日本母乳哺育学会 平成19年9月27日)
平成 20 年度こども未来財団調査研究事業 「妊娠・出産の安全性と快適性確保に関する調査研究」
全国産科施設へのアンケート結果に基ずくカンガルーケア(STS)の現状と課題、坂口けさみ、他;周産期シンポジウム平成22年
正期産新生児における出産直後のカンガルーケアの安全性について、渡部晋一;周産期シンポジウム平成22年


 

 
1. うつぶせ寝の危険性・・・気道閉鎖(窒息)を引き起こす
出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)は母親の体位が分娩台・ベッド上で水平位のため、お腹の上に乗せられた赤ちゃんは「うつぶせ寝」の状態となる(下図)。児頭の重さ(体重の約1/3)で口腔・鼻腔は塞がれ、解剖学的に気道閉鎖(窒息)を引き起こす危険性がある。乳首は口の中で、赤ちゃんは口呼吸が出来ない上に、頭の重さで鼻腔は乳房に埋もれ、口・鼻呼吸も出来ない状態(気道閉鎖)になる。事故例の多くが、異常発見時に、うつぶせ寝の赤ちゃんの口の中に乳首が入ったままの状態で見つかっている。うつぶせ寝での授乳(直母)は、呼吸管理の上で “初歩的ミス” である。


2. 全身状態の観察が全く出来ない

国(厚労省)は、生後間もない赤ちゃんは呼吸循環動態が不安定と報告している様に、医療従事者は呼吸循環障害(肺高血圧症⇒チアノーゼ)の発生と予防に細心の注意を払う義務がある。しかし、寒い分娩室でのカンガルーケア中に、保温のためのタオル・毛布などで赤ちゃんを被い全身状態を見えなくする保育法は、児を観察する上で致命的となる。呼吸循環障害の指標となる全身色(チアノーゼの有・無)や呼吸障害(多呼吸・陥没呼吸・呻唸・無呼吸など)の前兆を見逃し、初期治療が遅れ、一命は採り止めても脳に障害を遺すからである。同様に、手足の動き(筋緊張度)を観察する事は、低血糖症の有・無を知る上で重要な観察項目である。手足の動きが観察できないことは、低血糖症を見逃すことになる。保温のためにタオル・毛布などで赤ちゃんを被い、全身状態を見えなくするカンガルーケア(STS)は、呼吸循環動態が不安定な時期には絶対に行うべきでない。カンガルーケア中に酸素飽和度をモニターする学会の方針だけでは不十分であり、児の全身状態を肉眼で観察する方法と併用しなければ安全とは云えない。酸素飽和度の低下は呼吸循環障害(窒息・肺高血圧症・低血糖症)の結果であり、それらの異状に対する初期対応が遅れる。全身状態を観察する利点は、呼吸の動き、チアノーゼの有無、手足の動きが一目で分かるからである。呼吸循環障害を酸素飽和度モニターだけに頼る学会の指導は危険が多すぎる。
保育器内で全身状態を観察する利点(動画)

3. 児の全身管理を母親だけに任せている
出生後の呼吸循環動態が不安定な最も危険な時期に、素人の母親だけに児の全身管理をまかせるカンガルーケアは危険極まりない医療行為である。呼吸循環動態が不安定な時期であるからこそ、未熟児管理と同様の濃厚な呼吸循環動態の観察と体温管理・栄養管理を行うべきである。たとえ母親が出生直後のカンガルーケアを強く希望したとしても、体温が恒温状態に安定するまでは行わせてはならない。
帝王切開術後の母親、しかも睡眠をとるべき深夜時間帯にカンガルーケアを行っている施設がある。鎮静・鎮痛剤をうたれた術後患者は、カンガルーケア中に、いつ寝込んでも不思議ではない。睡眠中の母親に児の全身管理、とくに気道確保が出来る訳がない。事故(窒息)は起こって当たり前である。医療従事者(助産師)に母親の術後合併症を防ぐための医学的な基礎知識があれば、カンガルーケアを深夜に行わせることなど無いはずである。睡眠を十分にとらせる事が術後患者の基本的管理である事を知るべきである。

4.日本の分娩室は赤ちゃんに寒過ぎる
■分娩時の寒冷刺激が肺高血圧症(チアノーゼ)を誘発する。
 分娩時の寒冷刺激(胎内と胎外の環境温度差)が強すぎると、新生児は生後1時間以内に約2℃~3℃体温が低下する。寒い分娩室(25℃前後)では、赤ちゃんは放熱を防ぐ為に、全身(とくに手足)の末梢血管を持続的に収縮させ体温調節を行う。放熱抑制のための末梢血管収縮にはカテコラミン(血管収縮ホルモン)が分泌されるが、カテコラミンは手足の血管だけでなく、肺血管も同時に収縮する。全ての血管の動き(収縮・拡張)は、環境温度の変化(低温/高温)に対応して、恒温状態を保つための自律神経系(交感・副交感神経)によって支配されているからである。


つまり、恒温動物である人間の自律神経機能は呼吸循環の安定(肺呼吸の確立)よりも、恒温状態を維持するための体温調節機構(放熱抑制=末梢血管収縮)を優先する。手足の長時間の末梢血管収縮は体温調節に有利に働くが、新生児の呼吸循環の安定には不利益となる。生後間もない赤ちゃんの呼吸循環障害(肺高血圧症)を防ぐ秘訣は、出生直後の新生児に未熟児と同様の快適な環境温度(中性環境温度)を準備することが最も重要である。体温管理(保温)を無視した分娩室・母子同室での長時間のカンガルーケアは「冷やすケア」であり、呼吸循環動態が不安定となり、チアノーゼが出て低酸素血症に陥るのは当前である。

① 肺高血圧症(チアノーゼ⇒心肺停止)のメカニズム
分娩時の寒冷刺激が強すぎると、手足の末梢血管のみならず肺動脈も収縮し、肺血管抵抗が増す。その結果、心臓(右心室)から駆出された静脈血は肺動脈への流入が妨げられるため、心臓から出た一部の静脈血は肺をバイパスし、血管抵抗の低い胎児期の動脈管・卵円孔を通り大動脈に流入する。新生児にチアノーゼが出る原因は、静脈血が肺でガス交換(酸素化)されないまま大動脈に直接入り込むからである。寒い部屋で長時間のカンガルーケアを行い、体温管理(保温)を怠ると、新生児にとって最も危険な肺高血圧症(チアノーゼ=低酸素血症)の病態が完成する。(肺高血圧症(チアノーゼ⇒心肺停止)のメカニズム図表

肺高血圧症(心肺停止)を防ぐには、出生直後の室温を中性環境温度(30℃~34℃)に保ち、持続的な末梢血管収縮つまりカテコラミン分泌を抑える為の医学的管理(保育器内収容)が必要である。出生直後の赤ちゃんを生後2時間だけ保育器内(中性環境温度)に収容すると、先天性心臓病の一部を除けば、チアノーゼは出ない。呼吸循環動態の安定(肺呼吸の確立)には、出生直後の「温めるケア」が不可欠である。ところが、寒い分娩室における現行の出生直後のカンガルーケアは「冷やすケア」であり、カンガルーケア中にチアノーゼが出るのは、医療側が新生児の体温管理(保温)を怠った為である。つまり、心肺停止事故は原因不明ではなく、医原性疾患である。
「温めるケア」保育器内収容の図表

②出生直後のカンガルーケアは、「温めるケア」ではなく「冷やすケア」!
赤ちゃんの呼吸循環動態が不安定な理由は、手足が冷たく、体温が「恒温状態」に安定していないからである。体温が37℃前後の正常域であったとしても、手足が冷たい場合は、カテコラミン分泌亢進のため肺動脈血管は収縮し、肺高血圧症はいつでも起こり得る。生後間もない赤ちゃんの呼吸循環動態が不安定になる理由は、赤ちゃんの冷え性(末梢血管収縮=カテコラミン↑)を見逃し、体温管理(保温)を怠っているからである。
驚くことに、母親の腹部にアイスノンを載せカンガルーケアを行っている事例(赤ちゃんに優しい病院)がある。助産師は冷え性(持続的な末梢血管収縮)の危険性を全く解かっていない。分娩室でのカンガルーケアを推進する新生児科医は、出生直後は体調が急変しやすく、ケアの有無にかかわらず事故が発生すると言い訳するが、急変するのは部屋の温度が寒過ぎるにもかかわらず体温管理を怠っているからである。
事故は、赤ちゃんや母親側に責任があるのでなく、赤ちゃんの体温を管理する医療側に問題(管理ミス)がある。モニターを使い肺高血圧症(チアノーゼ)の早期発見も大事であるが、肺高血圧症に陥らないように医学的管理(温めるケア)をする事が何より重要である。母乳育児の3点セット(カンガルーケア+完全母乳+母子同室)を中止しない限り、カンガルーケア中の心肺停止事故・発達障害の増加に歯止めは掛からない。昔の産婆は、産湯で「温めるケア」をしていたのである。

5.カンガルーケア(早期母子接触)の “体温上昇作用” に科学的根拠ナシ
カンガルーケア・ガイドラインワーキンググループは、出生直後のカンガルーケア(STS)には、⑴体温上昇作用、⑵血糖値の安定、⑶呼吸循環の安定などの利点があると報告した。グループの一人渡部医師(倉敷中央病院小児科)は外国論文(ザンビア)を引用し、カンガルーケアの体温保持作用について、「児の体温は保育器に収容するよりもカンガルーケアの方がより早く上昇し安定化する」を日本周産期・新生児医学界誌(第47巻、第4号2011年)に発表した。日本産婦人科医会も同論文(Christensson 1998)を引用し、同様の内容を第50回記者懇談会 (2012年1月18日)で発表した。下図は両学会が引用したChristensson の資料である。


この論文はNICU入院児(低出生体重児)を対象とした研究であり、分娩時に寒冷刺激を受けた出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)の研究結果ではない。両学会は、日本の分娩室において、出生直後のカンガルーケアにChristensson の成績と同様の体温上昇作用があるかどうかを検証すべきである。もし、出生直後のカンガルーケアに体温上昇作用が認められなければ、日本の寒い分娩室でのカンガルーケアは赤ちゃんに優しい「温めるケア」ではなく、赤ちゃんに不利益な「冷やすケア」となり、肺高血圧症(チアノーゼ⇒低酸素血症⇒心肺停止)、低血糖症(発達障害)、重症黄疸(発達障害)の赤ちゃんを増やすことになる。
低血糖症の図表
重症黄疸の原因と予防

■ 赤ちゃんは、学会が発表したカンガルーケアの長所(体温保持作用)の犠牲に!
日本周産期・新生児医学会と日本産婦人科医会は、赤ちゃんが低体温症や手足が冷たくなった時は保育器に入れて治療するよりも、カンガルーケア(STS)で母親の体温で温めた方がより早く正常体温(恒温状態)に安定する。つまり、両学会は低体温症の赤ちゃんは保育器に入れる今迄の医療よりも、カンガルーケア(STS)で温めた方がより良い結果が出ると、医療現場に混乱を招く内容を発表した。

医学的常識を覆す両学会の発表は、医療従事者(特に助産師)がカンガルーケアの体温上昇作用を信じ、冷たくなった赤ちゃんを保育器ではなくカンガルーケア(STS)を選択する事態が起こり得る。事実、新生児室で生後10時間目の赤ちゃんの手足が冷たくなり、冷たくなった赤ちゃんを助産師が母親の所に連れてきて、「手足が冷たいから抱っこして温めてください」、と言い残して助産師は部屋を出ていき、その後の観察もなかった。児は1時間後に心肺停止状態で見つかった。児は、一命は取り留めたが、現在、脳性麻痺の状態で、意識が無いまま人工的に呼吸管理されている。赤ちゃんに優しい病院(BFH)に認定された病院での出来事である。

■カンガルーケア(早期母子接触)に “体温上昇作用” は無い!
カンガルーケアの長所、⑴体温上昇作用、⑵血糖値の安定、⑶呼吸循環の安定を覆す論文が国内にある。坂口(信州大學医学部)らは、全国産科780施設へのアンケート結果に基づく STS(Early skin to skin contact)の現状と課題、を周産期シンポジウム2010年(No.28)に報告した。
以下、坂口論文を引用:STS導入後に児の状態が悪化したなどの理由でSTSを中断した経験があるかどうかについて検討した、中断したと回答した施設は40%以上にも達していた。STS中断の理由は、チアノーゼの増強、児が冷たくなってきた、酸素飽和度が上昇しない、呼吸をしていない、児の鼻腔圧迫による気道の閉鎖、児が動かなくなった、引用終り。
両学会が発表したカンガルーケアの体温上昇作用が真実ならば、児が冷たくなる事はない。坂口論文のSTS中断の理由は、まさしく肺高血圧症の病態そのものであり、カンガルーケアに体温上昇作用はない事を暗に訴えているのである。(坂口論文のSTS中断の理由の図表

■ザンビア(後発開発途上国)の臨床データの問題点
学会が引用した体温上昇に関する外国論文は、分娩時に寒冷刺激を受けた出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)のデータではなく、NICU入院児のザンビア(南アフリカ)のデータを引用しての報告である。しかも、調査研究の対象は、正常成熟児の早期母子接触のデータではなく、主に早産児(平均33週~34週)、低出生体重児(平均1890g~2183g)であり、入院時の児の平均体温(直腸温)は34℃であったと記録されている。
日本(先進国)の周産期医療の臨床現場に、後発開発途上国(ザンビア)における早産児、低出生体重児の臨床データをなぜ参考文献として引用したのか、両学会の発表は疑問だらけである。このザンビアの論文は、出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)の体温上昇説を裏付ける資料として引用するのは不適切である。両学会は、カンガルーケアの体温上昇作用説の検証が終るまで、出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)は中止すべきである。学会はカンガルーケアから早期母子接触に名称を変更したが、名称変更で事故が減る筈が無い。正常成熟児で元気に生れても、出生直後の体温管理(保温)を怠り、うつぶせ寝にしてカンガルーケアを行えば、窒息事故・心肺停止事故は必ず起こり得る。事実、名称変更後にも事故は繰返されているのである。


■国(厚労省)は、分娩直後のカンガルーケアの危険性を知っていた

■カンガルーケア中の心肺停止事故は、厚労省に責任か?






■発達障害を防ぐ当院の新生児管理法(保温+超早期混合栄養法)
温めるケアを動画で紹介
1.保育器の中で糖水を飲む赤ちゃん(生後1時間目)
2.保育器で恒温状態に落ち着いた赤ちゃん
3.母乳を飲む赤ちゃん 完全母乳で体重減少
4.人工ミルクを飲む赤ちゃん


平成25年8月4日
久保田史郎
 
 
早期母子接触(分娩室)とカンガルーケア(NICU)との違い
 




完全母乳とカンガルーケアは発達障害児の危険因子

■福岡市 10人に一人が障害児

■産婦人科医は完全母乳とカンガルーケアに反対していた

■厚労省 泉 陽子母子保健課長への提言書

■厚労省での記者会見、記事を読む

カンガルーケア と呼ばないで

―学会発表に異議―
■NICUでのカンガルーケアと出産直後の「早期母子接触」との違い
1、寒冷刺激の有無 ―日本の分娩室は、赤ちゃんに寒過ぎるー
2、体位の違い ―うつぶせ寝での授乳が最悪の事態を招く―
3、栄養状態の違い ー完全母乳の赤ちゃんは飢餓状態―
4、環境温度の違い
5、看護師と助産師の違い
6、事故は起こって当たり前 -安全対策の欠如―
7、新生児管理の基本
■要約
■対策:正常をより正常に!



カンガルーケア被害者家族の会が厚労省,学会に要請 

MT Pro記事 2012年6月15日付け

厚労省への提言書(患者患者家族の会)

厚労省への提言書(産科麻酔科医 久保田史郎)

産科医療崩壊の阻止について(産科麻酔科医 久保田史郎)

厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」に警鐘!
 2012年5月21日
日本の分娩室は“寒すぎる”
  はじめに
1.出生直後のカンガルーケア (STS) の短所(危険性)
2.カンガルーケア(STS)の長所 “体温上昇作用” に科学的根拠なし
3.NICUでのカンガルーケアはなぜ安全か
4.出生直後の新生児の体温調節機構の特長(長所・短所)
5.根拠と総意に基づく、カンガルーケア・ガイドラインの問題点
6.日本産婦人科医会の問題点
7.完全母乳哺育の短所(危険性)


★ 日本の分娩室は“寒すぎる”(第24回日本母乳哺育学会 2009年9月27日)
★ 完全母乳哺育の問題点 第16回日本母乳哺育学会 (2001年9月22日)

 カンガルーケア事故、「患者・家族の会」発足
 
★ カンガルーケア事故 患者家族の会(東京)

「患者.家族の会」発足と決意表明
2011年11月26日

カンガルーケア事故 “助産師中心医療の危うさ” 指摘
被害者の会設立、「国にも責任」

Medical tribune記事
2011年11月29日

カンガルーケア事故 「心肺停止」 のメカニズム
患者家族の会で発表(久保田)
2011年11月26日

 カンガルーケアに関する情報(外部リンク)

m3.com臨床賛否両論
産直後カンガルーケアの是非

久保田史郎の掲載記事全文

出産直後のカンガルーケア中に医療事故に遭われた母親の手記
がんばれ こうたろう
母の苦悩


生後30分以内のカンガルーケアに危険信号!

福岡市の発達障害児、異常な増加 22年間で20倍に
2012年12月30日


厚労省は、「授乳・離乳の支援ガイド」の見直しを!
―カンガルーケア中の心肺停止・発達障害・SIDS・NICU不足を防ぐためにー
2011年3月31日


カンガルーケア実施に関する国の考え

カンガルーケアの実施に関する質問主意書(参議院議員 秋野公造 2011年2月10日)
上記質問に対する答弁書(内閣総理大臣 菅 直人 2011年2月18日)


カンガルーケア中の心肺停止の原因は低体温症か?
第142回 福岡産科婦人科学会 
2011年1月16日


カンガルーケアの”落とし穴”
WHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の問題点
2010年7月19日


カンガルーケア中の医療事故はなぜ繰り返されるのか
2010年6月5日


厚労省はWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の見直しを
カンガルーケア(KC)中の医療事故(呼吸停止)、発達障害を防ぐために
2010年5月17日


カンガルーケア中の呼吸停止とSIDSの治療法の違い
2010年2月22日

医療法人 久保田産婦人科麻酔科医院院長 久保田史郎
第24回日本母乳哺育学会学術集会抄録より
2009年9月27日(日)

平成 20 年度こども未来財団調査研究事業
「妊娠・出産の安全性と快適性確保に関する調査研究」
研究課題:分娩直後に行う母子の皮膚接触(early skin to skin contact)の実態調査


カンガルーケア報道

(朝日新聞2009年9月 毎日新聞2009年12月)


日産婦医会報(2007年1月1日発行)
長野県立こども病院総合周産期母子センター長の中村医師は、カンガルーケアの留意点と題して、「正常産児の生後早期の母児接触中(通称カンガルーケア)に心肺蘇生を必要とした症例」を発表した。
発表内容を要約すると、日本のほとんどの産科施設において正常産児のカンガルーケアが生後30分以内に行われている。ところがカンガルーケア中に、全身蒼白、筋緊張低下、徐脈(心拍数が異常に遅くなる事)、全身硬直性ケイレン、全身チアノーゼなど、心肺蘇生を必要とする危険な状態で新生児医療施設に緊急入院するケースがある。他の施設でも同様の症例が緊急入院している。「正常産児のカンガルーケア中に急変した症例」について、調査検討の予定と発表した。中村医師は生後早期のカンガルーケアの問題点として、安全性について文献的にもほとんど議論されていない。日本では正常分娩の分娩室での母子ケアについては、科学的根拠に基ずく標準的な方法が無い。カンガルーケアについて様々な側面から、その安全性についての検討が必要であると報告した。



第11回 カンガルーケアミーティング(2008年5月24日)
アクトシティー浜松コングレスセンター(静岡県)
Neonatal Care 2008 vol.21 no.8 (909)

「“赤ちゃんにやさしい病院”における分娩直後のカンガルーケアの実態」と題して林時仲先生(旭川医科大学病院)が講演を行った。分娩直後のカンガルーケア(KC)実施中にヒヤリハット事例や事故が相次いでいることから、赤ちゃんにやさしい病院にアンケート調査を行った結果、約半数の施設で事故や医療的介入を必要としていたことがわかった。スタッフが常時KCに付き添っているほうが事故が起こる割合は低いことから、KCを行う適応を見極めること、十分なスタッフ数を確保することなどが重要であり、事故は起こり得るものと認識し、備えることが大事だと語った。



論壇
「母乳育児を成功させるための十か条」の解釈について
仲井宏充 佐賀県伊万里保健福祉事務所  濱﨑美津子 佐賀県唐津保健福祉事務所
保健医療科学 Vol.58. No.1 pp.51~55
2009

カンガルーケアの問題点と事故防止策について

1.カンガルーケアの歴史

2.生後30分以内のカンガルーケアのどこに問題があるのか
3.カンガルーケア中のケイレン・呼吸停止は「低体温⇔低血糖」が原因
4.WHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の問題点
 ■カンガルーケア中の呼吸停止は低血糖症が原因

5.低血糖はなぜ危険か
6.発達障害の原因と危険因子
7.自閉症スペクトラムの原因を探る(福岡市の発達障害の年次推移)
8.発達障害(自閉症スペクトラム)が急激に増えたのは何故か
9.厚労省の母乳育児支援策の問題点
10.人間は恒温動物であり哺乳動物である。
11. 日本のお産の歴史
12. 赤ちゃんにも予防医学を
 ■保育器で元気に
 ■
赤ちゃんは震えている
13.生後30分以内のカンガルーケアの問題点
  第21回鹿児島県母性衛生学会特別講演(2008年8月)



1.カンガルーケアの歴史

 カンガルーケアは1970年代に南米コロンビアで低出生体重児に対する保育器不足に対して開始され、1980年代より欧米で、日本でも1990年代より新生児集中治療室(NICU)の中で行われる様になった。ところが、1993年に厚生労働省がWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援したことを契機に、日本の寒い分娩室で生後30分以内のカンガルーケアが急速に普及した。その背景には「母乳育児を成功させるための10カ条」の第4条に、「母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること」が謳われているからと思われる。しかし、生後30分以内のカンガルーケアの最中に、ケイレン・呼吸停止などの事故が相次いでいる事がNHKニュースで報道された。厚労省が勧める「生後30分以内のカンガルーケア」のどこに危険が潜んでいるのか、その問題点と事故防止策について述べる。

2.生後30分以内のカンガルーケアのどこに問題があるのか

カンガルーケア発祥の地である熱帯コロンビアの分娩室は日本と違って温かい。ところが、空調機が整備された日本の分娩室は、生まれてくる裸の赤ちゃんの為ではなく、衣服を着た大人に快適な環境温度(24~26℃)に設定されている。NHKニュースが報じたカンガルーケア中のケイレン・呼吸停止(脳性麻痺)などの事例は、日本の分娩室が赤ちゃんにとって寒すぎるにもかかわらず、出生直後の体温管理(保温)を軽視した所に問題がある。日本の分娩室で体温管理(保温)を怠ると、赤ちゃんの体温下降は著しく、低体温から恒温状態への回復時間が遅れ、糖代謝に悪影響(低血糖)を及ぼす。
日本の分娩室(24~26℃)で生まれる赤ちゃんの体温は、生後1時間前後で約2~3℃の体温下降を認める。赤ちゃんは体温下降(低体温)を防ぐために体温調節機構(放熱抑制+産熱亢進)を作動させ、生後5~6時間前後で低体温から恒温状態に移行するのが一般的である。ところが、体温がまだ下降中の赤ちゃんを、生後30分以内に、寒い分娩室で、保温なしで、長時間、カンガルーケアをすると、体温下降はさらに促進され、低体温から恒温状態への回復が遅れる。低温環境下で低体温を長引かせる事は、カロリー摂取が未だ出来ない赤ちゃんにとって危険が多すぎる



ところで、カンガルーケアは低体温の予防に役立つとの報告がある。しかし、それは赤ちゃんの体温が恒温状態に回復し、栄養が十分に確保された赤ちゃんに限った場合のことである。日本の寒い分娩室では、生後30分以内のカンガルーケアに体温下降を予防する保温効果は無い。生後30分以内のカンガルーケアに固守するのであれば、分娩室の温度を赤ちゃんに快適な中性環境温度(32~34℃)に設定しなければならない。それが不可能ならば、厚労省は生後30分以内のカンガルーケアの中止を全国の医療機関に即刻通達すべきである。尚、カンガルーケアの危険性については厚労省の「授乳・離乳の支援ガイド(仮称)」策定に関する研究会に2006年に報告済みである。


3.カンガルーケア中のケイレン・呼吸停止は「低体温⇔低血糖」が原因

■「低体温⇔低血糖」のメカニズム
①空調設備が整った日本の寒い分娩室(24~26℃)でカンガルーケアをすると、赤ちゃんの体温下降は促進され、低体温から恒温状態への回復に時間を要す。恒温動物(赤ちゃん)にとって長時間の低体温は非生理的(病気)である。生命維持の安全を司る人間の自律神経は低体温では本来の機能をまともに発揮する事が出来ないからである。
②寒い分娩室で、生後30分以内に、長い時間、カンガルーケアをすると、児は低血糖に陥り易い。赤ちゃんは低体温から恒温状態に体温を回復させるためには通常より多くのエネルギー(糖分)と酸素を消費するからである。
③特に、高インシュリン血症の新生児を寒い分娩室でカンガルーケアにすると、「低体温⇔低血糖」の悪循環が発生する。高インシュリン血症児は妊娠糖尿病の母親からだけでなく正常妊婦からも驚くほど多く生まれる。当院の正常妊婦145人中、20人(約13%) が高インシュリン血症児であった。
④低血糖が進むと熱産生が抑制され、低体温から恒温状態への自然回復は困難となる。人間が低血糖になると筋緊張が低下し、産熱量が著しく減少するからである。

■ケイレン、心肺機能停止のメカニズム
⑤「低体温⇔低血糖」が進行すると恒温動物である人間の体温調節機構は機能マヒに陥る。低血糖児は恰も体温調節中枢が欠如した無脳児と同様の体温変動を示す。この際、糖水・人工ミルクなどのカロリー補給や保温そして酸素投与がなければケイレンなどのヒヤリハット、事故(呼吸停止⇒脳性麻痺)はいつでも起こり得る。


 新生児の体温調節に関する研究を始めた時期(1981年)に、偶然にも遭遇した低血糖症の一例を紹介します。母親に糖尿病などの合併症もなく、児は3036gの正常満期産児で、分娩中・分娩直後の低酸素血症はありませんでした。児は通常の室温(24~26℃)で管理し、分娩直後から中枢/末梢深部体温と心拍数を同時にモニターしました。この症例には体温異常が認められ、生後2~6時間目に中枢深部体温と末梢深部体温が並行して下降していました。中枢深部体温が生後4時間目に36℃以下に下降したにもかかわらず、産熱亢進/放熱抑制のための体温調節機構が作動していません。心拍はサイレント(平坦)であり、啼泣・体動もない静かな状態が持続しています。この体温変動の特徴は、中枢神経系を欠いた無脳児の体温の変動と似ていることです。体温の異常に気づき血糖値を測定すると8mg/dlと極めて重度の低血糖症でした。速やかな治療(糖水の経口摂取と保育器内収容)により児は後遺症を残すこともなく回復しました。体温の測定中でなければ異常(低血糖症)に気付かず、脳に重篤な後遺症を残した可能性が高い症例です。

 新生児の低血糖症が恐い理由は、痙攣などの症状がなく、見えない所(血管の中)で低血糖が静かに進行し脳神経細胞の発育にダメージを与えるからです。授乳によっていずれ低血糖は正常に回復したとしても、障害を受けた神経細胞の完全な回復は望めません。

 低血糖による発達障害を防ぐには、低血糖の早期診断/早期治療は勿論の事、それ以上に低血糖にならない様に保育管理することがいかに大事かを教えられた貴重な症例です。当院が出生直後の体温管理(保温)と生後一時間目からの超早期混合栄養法にこだわる理由は、この低血糖症の一例に出会ったからです。


4.WHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の問題点



1993年、厚生労働省がWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援した事によって、母乳推進運動は全国で積極的に展開されている。しかし、その10か条の中で第4条(カンガルーケア)と第6条(完全母乳)を我国で忠実に実行すると、とくに高インシュリン血症の赤ちゃんは出生直後に「低体温⇔低血糖」の悪循環に陥り、ケイレン・呼吸停止(脳性麻痺)などの事故は間違いなく増える。脳神経細胞の発育にグルコースが不可欠であることを考えると、出生直後に第4条と第6条を実行することは低血糖・重症黄疸を増やし児に不利益である。発達障害・脳性麻痺の危険因子である低血糖・重症黄疸を増やす「母乳育児を成功させるための10カ条」の推進活動を、厚労省がなぜ後援するのかが疑問である。産科医が減り院内助産院が増えると、カンガルーケアと完全母乳哺育が益々エスカレートする。厚労省が今後もWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」の後援活動を継続するならばヒアリハットの医療事故(呼吸停止⇒脳性麻痺)のみならず、低血糖・重症黄疸の入院治療が増え、国民医療費の増加、NICU不足はさらに深刻になるであろう。


■第4条:分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること

我国の分娩室が裸の赤ちゃんにとって快適(32℃~34℃)な環境温度であれば第4条(カンガルーケア)は何ら問題ない。しかし、日本の分娩室は大人に快適(24℃~26℃)な環境温度に調整されている。分娩直後の寒冷刺激つまり胎内と胎外の環境温度差(約13℃)は、出生直後の赤ちゃんを一過性に低体温とするが、通常は出生から5時間前後で恒温状態に回復する。しかし、第4条の管理法を間違えば、低体温は進み恒温状態への回復が遅れ自律神経機能に異常が生じる。特に、高インシュリン血症で生まれてくる赤ちゃんに低温環境下でカンガルーケアを行った場合に重度の低血糖症を招き、呼吸停止や脳に回復不能な発達障害を招く危険性がある。どの児が高インシュリン血症で生まれてくるのかが分からない現状では、低温環境下で生後30分以内にカンガルーケアをする事は危険である。生まれてくる全ての赤ちゃんを「低体温⇔低血糖」から守るためには、出生直後の体温管理(保温)と超早期混合栄養で「低体温⇔低血糖」の悪循環を断ち切るしかない。

■第6条の問題点:医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
 母乳が出生直後から十分(基礎代謝量)に出るのであれば、この第6条(完全母乳)も何ら問題ない。しかし、赤ちゃんが正常に発育するのに必要とされる1日の基礎代謝量は50kcal/kgと教科書にある。しかし、出生初日の母乳分泌量は初乳が滲む程度でエネルギー源としての母乳は殆ど出ていない。特に初産婦の場合、生後3日間の母乳分泌量は基礎代謝量の半分以下である。即ち、母乳以外の糖水や人工ミルクを全く飲ませない完全母乳で哺育した場合、赤ちゃんは真に飢餓状態である。その証拠に、初産婦で完全母乳の場合、赤ちゃんの体重は生下時から-10%以上も減少するのが普通である。完全母乳の施設で重症黄疸の発症率が多い理由は、栄養不足のために脂肪が分解し遊離脂肪酸(FFA)が増えているからである。極度の体重減少、脱水、乏尿、飢餓熱などは、児の摂取カロリーが基礎代謝量に満たない低栄養が原因で発症する。今日、生理的と考えられているそれらの現象の一部は、保育管理の間違いによって発症した非生理的な病気である。当院で生後1時間目から糖水を飲ませ、母乳が十分に分泌し始めるまでの期間、母乳分泌の不足分を人工ミルクで補う理由は、発達障害の危険因子である低血糖・重症黄疸・頭蓋内出血を防止するためである。日本の周産期医療で欠けているのが、赤ちゃんを低体温・低血糖から守る予防医学(科学)である。

■胎児・高インシュリン血症(妊娠糖尿病)の増加
 妊娠糖尿病の母親から生まれる新生児(糖尿病母体児)の30~40%で、生後1~2時間後に低血糖を起こすと報告されている。この低血糖のメカニズムは母体の高血糖が胎児に移行するために胎児膵臓は過形成され、インスリン分泌が亢進しているからである。高インスリン血症の赤ちゃんは、臍帯切断と同時に血糖値は低下するが、生後30分以内のカンガルーケアと完全母乳で管理を行なった場合に、重度の低血糖症に陥る危険率は極めて高い。市立島田市民病院小児科の後藤医師は、インスリン値が4μU/ml前後に低下・安定するまでは、血糖測定を怠らない方が安全と報告している。当院で経膣分娩で生まれた145人の臍帯血インスリン値は4μU/ml以上は20人(14%)であった。対象の145人に妊娠糖尿病と診断された妊婦は含まれていない。インスリン値が4μU/ml 以上であった妊婦の特徴は、夕食後のデザート(果物・アイスクリーム・ケーキ、など)を習慣的に食べる妊婦さんに多く見られた。高インスリン血症の赤ちゃんは妊娠糖尿病・肥満児だけでなく、正常妊婦から生まれる赤ちゃんにも予想以上に多い。低血糖を未然に防ぐためには、出生直後の低体温を予防し、母乳が出始めるまでの期間を糖水・人工乳で補うしか他に方法は無い。



5.低血糖はなぜ危険か

脳性麻痺の原因として新生児仮死(低酸素血症)、重症黄疸(高ビリルビン血症)、低血糖が一般にも知られているが、最も警戒すべきは低血糖である。その訳は、新生児仮死・重症黄疸は異常所見が肉眼的に外から見えるために早期診断・早期治療が可能である。しかし、低血糖は血糖検査をしない限り診断がつかないために、生後数時間の低血糖が見逃されている可能性がある。分娩時の低酸素血症、重症黄疸に対しての診断・治療は確立されたが、正常成熟新生児に対して血糖検査をする産科施設はほとんど無い。そのため低血糖が発達障害の原因であったとしても、血糖検査が行なわれていないために原因不明の発達障害として診断・分類されていると考えられる。出生直後の低血糖が危険な理由は、低血糖の診断が遅れ低血糖状態が続いた場合に、脳に回復不能な障害を遺す危険性があるからである。低血糖が脳の発育に悪い事が分かっているにもかかわらず、出生直後の低血糖に対する予防策は全く進んでいない。その理由は、低血糖による発達障害は生後2~3年経たないと異常に気づかないためと考えられる。


6.発達障害の原因と危険因子

■低血糖
 Cornblath(1976年)は健康成熟児の血糖値は生後急激に下降し、生後4~6時間では45~60mg/dlに安定するとしているが、2~3%のものが30mg/dl以下の低血糖状態となり、また低体温が認められた症例ではさらに低血糖症状が増加することを発表している。さらに血糖値が25~35㎎/dlの中等度の低血糖症でも脳に障害を招き得ることを指摘し、血糖値を40㎎/dl以上に保つことが重要であると報告している(Neonatal Care 1996 Vol9 No3(223)新生児低血糖症と臨床、より引用)。
■低栄養
 Winick(1969年)やLew.s P.D(1990年)は、出生後早期に動物を低栄養にした場合に、脳にどの様な変化が生じるかを報告した。動物実験の結果は、(1)出生後、早期に動物を低栄養にさらすと脳への影響は大きく、栄養学的リハビリテーションによっても回復する可能性が低い。(2)離乳後であれば影響の程度は少なく、低栄養後の栄養学的リハビリテーションによって回復しうる可能性が高い。(3)低栄養は神経細胞間のネットワーク形成を阻害する。(4) グリア細胞は低栄養に敏感に反応し、髄鞘化の遅延・脳重量の減少がみられるが、これは中枢神経系の機能に影響を与える可能性がある。(5)神経伝達物質の産生が一過性に低下する、などの点が明らかにされている。(超低出生体重児の栄養と発達予後Neonatal Care Vol,13No,1 2000より引用)。
■重症黄疸
 誕生まもなく赤ちゃんは血液中に黄色い色素(ビリルビン)が多くなって黄疸になる。この黄疸が強くなると脳が障害される。動物では生後7日前後に黄疸があると小脳が発育しないことが分かった。生後7日前後にビリルビンが小脳に侵入すると、神経細胞の分裂停止、タンパク質量の低下、呼吸反応の低下、脂質の蓄積、神経伝達物質の減少などを起こして発育がほとんど停止する。人でも新生児黄疸が強いと、モデル動物と同じようにビリルビンが脳に侵入し神経細胞が障害されて脳の発育が悪くなると考えられる。人でも脳がビリルビンに強く影響される時期には特に注意して黄疸を軽くする必要がある。愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所の研究成果より。



◎脳の成熟と発達障害:

教科書ではヒトの脳は妊娠早期に発生し、妊娠10カ月間で著しい成熟を示し形態学的にほぼ完成する。脳の発生と同時に、神経繊維の髄鞘化・樹状突起の増生・シナプス形成が進み機能的な発達が見られる。神経線維の髄鞘化とは、神経繊維に皮が被ることであり、これによって神経伝導速度が早くなる。樹状突起の増生・シナプス形成とは、神経線維が突起を出してネットワークを組むことである。これらの神経線維の発達によって、人間としての複雑な行動や学習が可能となる事がこれまでの研究で分かっている。


7.自閉症スペクトラムの原因を探る

我国の周産期医療は目覚しい進歩をしたと報告されている。しかし、近年の発達障害児とりわけ自閉症スペクトラムの異常なほどの増加に対する周産期側の反応は鈍い。自閉症は精神科医、小児科医、生理学者が中心となって原因解明に向け研究が進められているが、周産期側からの疫学調査・研究はほとんど見当たらない。その訳は、自閉症は先天的な脳の機能障害であり、多くの遺伝的因子が関与していると報告されているからだと考えられる。しかし、自閉症スペクトラムに関するこれまでの疫学調査は、遺伝因子だけでなく「低血糖説」を支持する内容が数多く報告されている。我国では1990年代後半から自閉症スペクトラムが異常に増加しているが、その増加率の早さから自閉症の原因を先天的な遺伝因子だけで説明することは困難である。自閉症患者は診断基準の変更をきっかけに増加しているという米国の調査もある。しかし福岡市の発達障害児数の推移が、1994(日本語版1995)DSM-4改訂後も著しく増えていることから周産期側からの調査研究も必要と思われる。
■自閉症スペクトラムの疫学調査
(1)自閉症児の出生体重分布は、低出生体重児に少なく正常成熟児に多いと報告されている。低出生体重児は出生直後に温かい保育器内に入れ低体温と低血糖に注意し管理する。一方、正常成熟児は保育器に入らず、生後30分以内に寒い分娩室でカンガルーケアをするだけで、血糖検査をする施設は殆ど無い。即ち、出生体重2500グラムを境にした両群の保育管理の違いの中に、自閉症の原因が潜んでいる可能性がある。
 自閉症、精神遅滞、肢体不自由児の出生時の体重分布は、2500グラム以下の発生率は、○自閉症:7/149人(4.7%)○精神遅滞:84/476人(17.6%)○肢体不自由児:57/146人(39%)と報告されている。自閉症は他の発達障害児に比べ正常成熟児に多い点が特徴である。参考文献:鷲見聡、自閉症の発生率と出生体重分布、小児の精神と神経 31巻、1991
(2)自閉症(カルフォルニアの資料)は1980年頃から急激に増え始めているが、この時期は世界で母乳促進運動(母乳以外の糖水・人工ミルクを飲ませない)がスタートした時期(1974年)である。日本(福岡市の資料)では、1995年代以降急激に増加している。この時期は厚生労働省がWHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援し、生後30分以内のカンガルーケアが急速に普及し始めた時期(1993年)とほぼ重なる点に注目。カルフォルニアと福岡市で発症時期に約15年の差があるが、これは母乳促進運動を始めた時期の違いと考えられる。




(3)自閉症は米国の精神科医カナーによって最初(1943年)に報告された。彼は自閉症の親に共通した特徴として「自閉症は裕福な家庭に多い」を挙げている。戦時中にもかかわらず一部の上層階級の人達の豊かな食生活は、現代の妊娠糖尿病(胎児の高インシュリン血症)をつくり、児は出生直後に低血糖に陥っていた可能性を示唆しているのである。

(4)テンカンの治療薬であるバルプロ酸ナトリウム(デパケン)は自閉症の危険因子として知られている。妊娠中にデパケンを服用していた患者さんから産まれた兄弟3人がみな自閉症であったという報告がある。デパケンは副作用として新生児に低血糖を引き起こすと薬効に記載されている。

(5)妊娠中にサリドマイドを服用した妊婦さんから生まれた児の約5%が自閉症であり、一般の自閉症出現率の約30倍であると報告されている。サリドマイドは強い血管収縮作用を有していることから、胎児期の脳血流障害が脳神経細胞に栄養障害を来たし、発達障害を招いたと考えられる。

(6)自閉症は、兄弟内発生・双子・40歳以上の父親に多く発症すると報告されている。この調査結果から、自閉症は遺伝性疾患と考える意見が主流を占めている。しかし、これらの因子は遺伝だけでなく食生活習慣(胎児の高インシュリン血症⇒低血糖)とも深く関与していることを見逃せない。


8.発達障害(自閉症スペクトラム)が急激に増えたのは何故か

自閉症は1980年代終盤から1990年代にかけて劇的に増加した。その時期はMMR(混合ワクチン:麻疹・おたふくかぜ・風疹)の導入時期と重なることから、「MMRが自閉症の原因である」との説が発表された。しかし、横浜市総合リハビリテーションセンターの本田,清水らは横浜市港北区で9年にわたる詳細な自閉症発症に関する調査をした。MMR中止によっても自閉症は減らなかったとして、「MMRと自閉症は無関係」と報告した。
ところで、日本で自閉症が急激に増え始めた時期は、厚生労働省がWHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援した時期(1993年)と重なる点にも目を向けるべきである。特に、この10年の自閉症スペクトラムの急激な増加は、完全母乳だけでなく「生後30分以内のカンガルーケア」が急速に普及した時期と重なっているからである。特に我国では、「赤ちゃんは3日分の水筒と弁当を持って生まれてくるから、その期間は糖水・人工ミルクは飲ませない」という指導が流行った時期でもある。


9.厚労省の母乳育児支援策の問題点

出生直後の低血糖が発達障害の危険因子であることが医学的常識であるにもかかわらず、正常成熟新生児において低血糖を予防する国の対策は全く進んでいない。それどころか「低体温・低血糖・低栄養・重症黄疸」を促進させる「母乳育児を成功させるための10カ条」が、今わが国で積極的に進められている。

厚生労働省は母乳育児支援にこだわっているが、大事なことは母乳か人工乳かではなく、栄養は足りているかどうか、先ず赤ちゃんの健康状態にこだわるべきである。低出生体重児が元気に育つ様になった成功の秘密は、出生直後からの体温管理と栄養管理に注意が払われたからである。今の日本には正常に生まれた赤ちゃんが異常にならない様にするための予防医学の概念はない。体重2500g以上・正常に生まれたから、などの理由で、出生直後の最もエネルギー消費量が多い時期に自然のままに管理することが児にとって安全かどうかを再検討すべきである。体重2500gの線引きは主に統計学的な処理のためであり、低出生体重児と正常成熟児の保育管理の方法を変えるためにあるのではない。
 出生直後の新生児管理に「予防医学」の道が開かれる事を願っているのは低出生体重児だけでなく、正常に生まれた2500g以上の赤ちゃんである。我国では産科医不足が深刻な社会問題になっているが、今こそお産の現場に予防医学の導入が必要と考える。「正常をより正常に」の発想が出生直後の赤ちゃんの保育管理に導入されることを願う。


10.人間は恒温動物であり哺乳動物である。

現代の新生児管理の問題点は、哺乳動物である母乳促進運動を優先し、恒温動物である赤ちゃんの出生直後の体温管理(保温)を怠っている事である。哺乳動物の消化管機能(吸啜・消化・吸収・排泄)は自律神経によって調節されている。その自律神経機能は低温環境下では、体温調節機構(放熱抑制⇒末梢血管収縮)を優先するため、消化管機能に悪影響(消化管血流↓⇒初期嘔吐・胎便排泄遅延・胎便性イレウス)を及ぼしている。母乳促進運動の第一歩は、いかに早く母乳を飲ませるかではなく、いかに早く低体温から恒温状態に移行させるかが新生児管理の基本である。



■体温管理(保温)の目的
当院では生後2時間、赤ちゃんを保育器内(34~30℃)に収容する。その体温管理(保温)の目的は、(1)低体温を防ぎ、産熱亢進に要する無駄なカロリー消費を少なくし、低血糖を防ぐ、(2)肝グリコーゲン分解による糖新生を促し、低血糖を防ぐ、(3)初期嘔吐を予防する事によって、生後1時間目からの超早期経口栄養法を確立し、低血糖症・脱水・電解質などの異常を防ぐ、(4)栄養不足の改善と胎便排出の促進によって重症黄疸・頭蓋内出血を防ぐ、(5)低体温から恒温状態への移行を早め、自律神経機能が生命維持装置(呼吸・循環・消化管・内分泌など)の機能を正常に作動させるためである。


11. 日本のお産の歴史
1993年、厚労省がWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援したのを契機に、出生直後の新生児管理は様変わりした。我国の歴史的な「産湯」の習慣は無くなり、生後30分以内のカンガルーケアが当たり前となった。栄養面においても、乳母・もらい乳の慣習も消え、母乳以外の糖水・人工乳を与えない完全母乳栄養法が赤ちゃんに優しいと考えられる様になった。ところが、出生直後の寒い分娩室でのカンガルーケアと母乳が満足に出ない生後0~3日間の完全母乳栄養法は、低体温・低血糖・重症黄疸などの合併症を増やす要因となっている。重症黄疸、低血糖症は脳性麻痺の危険因子である事は医学的常識である。それらの治療法は研究されているが予防法についての報告は無いに等しい。我国の障害児の発生率は6~8%といわれ、年々増加している。出生直後の体温管理と超早期混合栄養法こそが重症黄疸、低血糖症を防ぐ障害児発生防止策である。母乳は児にとって最高の栄養源であることに異論はない。しかし、母乳が十分に分泌し始めるまでの生後3日間の極度の栄養不足は真に飢餓状態である。Cornblath、永井らは出生直後の体温下降を最小限に止め、血糖値を正常に保持することが早期新生児の基本的管理と述べている。
昔、日本のお産には「産湯」と「乳母」が常識であった。産湯は現代の保育器の役割を、乳母は母乳が十分に出始めるまでの期間、あるいは母乳が出ない人のために、今日の人工乳の役割を果たしていたと考えられる。産湯と乳母は、日本の産婆さんが経験から学んだ赤ちゃんを病気から守る知恵(予防医学)だった。近年の発達障害の急激な増加は、その歴史的な産湯と乳母が日本から消えた事が一因と考えられる。


12. 赤ちゃんにも予防医学を
 新生児早期の“初期嘔吐”はこれまで生理的現象として当然の様に考えられている。しかし、胎内と胎外の環境温度差(約13℃)を少なくする生後2時間の体温管理(保育器内収容:34〜30℃)によって、この初期嘔吐は著しく改善し、生後1時間目からの超早期経口栄養が可能となった。その結果、胎便排出は促進され、低血糖症や重症黄疸は激減した。新生児早期の消化器系統の一部の異常は、主に出生直後の低体温がもたらした末梢血管収縮による腸管の血流量低下に影響されていたと考えられる。体温調節つまり放熱防止のための末梢血管収縮は、恒温動物であるヒトの体温調節機構には有利に働くが、早期新生児の消化管機能の面においては不利益と言わざるを得ない。すなわち、出生直後の赤ちゃんは低体温から身を守るために、消化管機能を犠牲にしてまで体温調節機構を優先的に作動させている。この体温調節機構に重過ぎる負荷(寒冷刺激)を与えないように体温管理をし、さらに生後数日間の栄養不足を人工ミルクなどで補充することによって、発達障害児の原因となる低血糖症、重症黄疸、Vit-K欠乏性出血症(頭蓋内出血)、などの合併症を予防し得る事が分かった。

■ 当院の新生児管理の特徴
当院では開業(1983年)以来、約11.000人の全ての赤ちゃんを対象に、出生直後の低体温と低血糖を防ぐための保育管理を行なってきた。当院の新生児管理の特徴は、生後2時間の保温(保育器内収容:34~30℃)と生後一時間目からの超早期混合栄養である。この方法は当院独自の保育管理法で、世界でも同様の管理はおそらく無いと思われる。この新しい管理法によって、発達障害の危険因子である早期新生児の低血糖症、重症黄疸、頭蓋内出血の発症をほぼ完全に予防する事が出来た。
その成績を完全母乳栄養が抱える問題と題して、第16回日本母乳哺育学会(2001年、東京)で発表した。

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久保田産婦人科麻酔科医院
院長 久保田史郎
平成21年5月18日